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きっとこれがハッピーエンド

作者: ria
掲載日:2016/03/30

ぼんやりとだった、彼と一緒にいると、彼の後ろに女の人が見えるようになった。

彼女の黒髪は腰まで長く、顎まで伸びた前髪は真ん中で分けられていた。他にもすっきりした顎に薄桃色の小ぶりな唇、顎にある小さな黒子は明瞭と見えるのに、何故か顔だけがぼんやりして、誰なのか判別がつかなかった。


私は彼が好きだ。彼と言ってもお付き合いをしているわけではなかった。

彼は、同年代の人にはない憂いがあって、落ち着いた物静かな人だった。でも決して愛想が悪いわけではなく、不思議と人を引き付ける。彼の周りにはいつも友人がいた。

彼の言葉の端々、何気ない行動に、誰かの影があるのは知っていた。

そして、それが彼の魅力の源であることも。

そして、それが彼の二十年来の幼馴染であることも。


今日もまた、女の影をみた。


■■


彼の家に招かれた。

自分でいうのもおかしな話だが、彼は私に好意を抱いていると思う。

私はそう鈍感ではないのだ。相手の好意だって、きちんと認識できる。




「この写真・・・」

白い写真立の中で笑う彼と、黒髪の女性。髪は腰まで伸びていた。真ん中で分かれた前髪からは、整った青白い顔が見える。肌の白に良く映える薄桃色の唇は艶があって、その下―顎―にある小さな黒子は、彼女の熟れた魅力を引き立てていた。

見覚えのあるような気がしたが、思い出すことはできない。


「あぁ・・死んだ幼馴染だよ。」


あぁ、ようやく分かった。


「俺の、彼女だった人だ。」


彼女は、私が見た"幽霊"だ。


「死んじゃったんだけどね。あっけなく。」


彼の背後の女の顔が、はっきりと見えた。


■■


彼には、彼女が見えないようだった。

そう分かると否や私は下種な感情に捕らわれた。今なら彼を手に入れられる。


「奈央さんだって、幸せになって欲しいって思ってるよっ、きっと。」


「知ったようなこと言うのやめてくれないか。」


ピシャリと、冷たい声で突き放された。

軽蔑に満ちた目が私を射抜く。


「彼女は死んだんだ。都合のいい解釈、やめてくれないかな。」


前から先輩は非現実的なことを嫌う人だった。出しゃばってしまった自分を恥ずかしく思った。


ただ彼は、確かに、私に恋愛的興味を持ってくれている。


なのに、なぜなのだろう。

なぜ、彼は私の言葉に身をゆだねてしまわないのだろう。


そしたら、彼を苦しめる束縛から解放されていたというのに。


彼の背後の女がじっと私を見つめていた。

その瞳に醜い私の表情が映されているようで、それを彼に気付かれてしまうのでは等という妄想に捕らわれ、眼をきつく閉じた。



■■


「俺ね。君のことを意識してたよ。

君に惹かれてた。それこそ、君と付き合っちゃって行くところまで行きたいとも思った。

それが自然の理で、その方が・・・ずっと今より楽だと思った。


 でも、俺の前に現れたんだ。奈央が。」


何故。


「幽霊ではない。

彼女は死んだ。もういないんだ。喜びも、怒りも、哀しみも、憎しみもないんだから。

俺の後ろめたさのせいで、奈央は生まれたんだ。彼女は俺の妄想の産物だ。」


―愚かだろと自嘲気味に笑う彼。


ふと、彼の後ろにいた幽霊が顔を上げた。相も変わらず青白い綺麗な顔だ。

その時初めて、彼女と目が合った。


その瞳の中には嫉妬の炎が確かに存在しており、その上をゆらゆらと水のベールが漂っていた。


嗚呼、私は後ろめたかったんだ。

死んだ彼女から、彼を奪うことが。


私もいつの間にか彼女に囚われていたのだ。

ずっと、ずっと。顔も知らないその時から。



「僕には、彼女しかいない。彼女が俺に愛を囁くのが、その証拠。」


―嗚呼。きっと、これが。


「俺のことは忘れてくれ。」


彼は至極、幸せそうに微笑んだ。

そしてその後ろで女が、同じ微笑みを湛えて佇んでいた。





きっとこれがハッピーエンド


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