1 私は世界の嫌われ者
森の中を走る一人の女。
まだ、少女の余韻が少し残る顔立ちには泥や乾いた血、汗で張り付いた髪が貼り付いている。
背中には大きな鞄、腰には小さな袋がいくつもぶら下がっていて、動きやすそうな服は、ところどころ破けている。
左手には戦闘系のジョブを持っている証の赤い腕輪。
傍らには金属で出来ているスライム、その一人と一匹は自分たちを追いかけているレッドウルフの群れから逃走中。
……もう使える道具があまり無い。
あんだけ使っても大きい奴が諦めてくれない。
あいつに追いつかれたらきっと私は殺される。
学校を卒業した普通の人達ならあんな魔物簡単に倒せるのに……私には無理。
どうしてだろう……いつも死にたい死にたい思っていたのに、いざ死が近づくとやっぱり生きたいと思う。
今はそれどころじゃない、せめてこの子のテイムは解除しなきゃ……道連れはかわいそうだもんね。
小さな責任感でしぼんだ心を奮い立たせる。
潤んだ目を拭い腰の袋を確認する。
粘着玉と光袋それに臭粉。
こんなことなら、けちらずに魔法玉とかをもっと購入しておくべきだった。
そもそもいつも薬草を取り行くところで終わっとけばいいものの光苔の季節だからって欲張ったばかりに……あー、また関係ないことばかり考えて。
腰から手際よく二つの袋を混ぜ後ろに投げる。
辺に臭気が立ちこみ、広がった粘着液はレッドウルフが追いつく寸前のとこで足を絡めとる。
なんとか間に合ったみたい。臭いのおかげで鼻もバカになるはずだし、諦めてくれたらいいけど……。ものすごい唸り声が聴こえてくるけど。怖っ。
とりあえず逃げなきゃ、アイアンスライムも無事だしこのまま街の道を急ぐ。
私の傍らにいるのがアイアンスライム、私が今テイムしている魔物、アイちゃん。
私の授かった『ジョブ』は、モンスターテイマー。
モンスターテイマー、そこまではよくある。ただ扱える種族に私は問題があった。
一般的なのは、ゴブリンなどがいる『鬼人族』、他にも今私が追われているレッドウルフなどの『魔獣族』中にはドラゴン族や魔人族なども扱える人もいる。
でも私は、今まで誰も居なかった『不定形族』いわゆるスライム、それに加えて扱えるテイム上限数が『1』。
高位なドラゴンや魔人でもせいぜい3体は扱えるのに。そもそもゴブリンなど下級鬼人なんて100を超える数だって扱える人のが一般的。その為、下級な魔物しか扱えなくても、護衛、運搬など働ける仕事は沢山ある。
私の場合は、力も非力なスライム達。唯一の利点は不定形族なら下級、中級、上級問わず全てをテイムできる。ただ、今のところ下級以外のスライムの報告例はない……なんじゃそれ!
思えば、祝福を受けて学校に行ってからも悲惨だったなぁ。
先生には憐れまれるし、友達は出来ないし。
あ、一人できたけどあいつは……私とは環境が違いすぎるよね。
体力もなく、能力もない私は必死に道具・魔物の特性を調べたけど、結局今みたいに意味があったことはまだ一度もない。
せめて力が無いなら、生産系のジョブなら良かったのにこの赤色の腕輪のせいでお店では働かせてもらえないし。
あまり能力のない魔法職と生産職で工房を開いたりもするみたいだけど、私の場合はスライムがいるだけだし。そしてまだ私は卒業後派遣されるいくつかある『初まリの街』から、移住できていない。
戦闘職はレッドウルフを討伐しないと他の街の移住許可がもらえないなんて……。
尤もそれができなかったのは私が初めてらしい。
別にいいや、ちょっと恥ずかしいけど初まりの街で暮らせないわけじゃないしね。
うん、ほりゃ馬鹿にされたりするけど。
そんなわけで、私は日々の生活費を誰でも出来る薬草摘みなどで賄っている。
今回は欲張って光苔なんて狙っちゃたけど、身分不相応だね。
欲張るからあんな罰が当たるんだ。
この世界は公正な世界。なら私は世界から嫌われているのかな……?
「キュ」
「ん? 心配しなくていいよ、街まであと少し」
そんな変な顔してたのかな?
心配そうなアイちゃんを抱きかかえて汚れを落としてあげる。
今日は危なかったしいい油で磨いててあげよう。
だけど私が死にそうな時はその前にテイムを解除しなきゃね……
テイムしてると魂がつながっているから私が死ぬとこの子も死んじゃうしね。
従魔が死んでもこっちはいいのに逆はダメなのも不思議だよね。
街が見えてきた。
ホッとする気持ちの中に憂鬱な気持ちが広がる……
一日の疲れが急に押し寄せてきた。