きつねよ
風邪を引いた。思いっきり風邪っぴきだ。38度越えたら、意識が朦朧としてきて、39度越えたら視界がおかしい……。こんな時に独り暮らしは辛いのです。からいじゃなくて、つらい。
実家も遠いし、友達もみんな平日の日中は仕事。今だれかたすけ……あ”ーあいすたべた……い……。
アイスが現れた! しかもバニラアイスだ!
うそだー。ねつでとけてるからだー。でもひんやりつめたい……うふふ。だれかたべさせてほしいなー。
アイスが開いた! スプーンが刺さった! 口に運ばれてきた!
わぁ~つごーいいゆめだ~。いただきまーす。ばにらおいしいです……すゃぁ……。
ハッ! 風邪が落ち着いてる! アイス全部食べた事になってシンクで洗ってある! 私凄い……? いやぁ……これは流石に私じゃないでしょお。
床を見ると、長い茶色い毛。あー……もしかして……。カバンについてる九尾なストラップが風もないのに、背中を向ける。何だかお世話になっちゃったみたい。今度お礼しないとね。
さて、熱も下がって夜も更けました。私も今宵はご飯作る気なんてありません。しからば、コンビニグルメいざゆかん。
最近は美味しいのが増えたし、ヘルシーなのも多いのよーと、向かったはいいけれど、ちょっと暗い道を通ったのがいけなかった。
「そこの姉ちゃん」
ガラの悪い声が私を呼びます。無視してコンビニに行こうと逃げようとしたら掴まれる腕。ちょっと私的にピンチよね……。振り払おうとしても、強い力。ケモノ臭い息。え?
振り返ると、汚れて毛並みもぐちゃぐちゃな人間大の狐が私を掴んでる。ちょっと本気でやばい。叫び声すら出ないで私は腰が抜ける。
「悪い様にはしねぇから……俺と……」
その先は無かった。何故なら、コンビニの方から走ってきた誰かが本気で蹴り飛ばしたからだ。
そのままその誰かは無言で汚い狐の腕を極めると、荒縄で縛り上げる。
「女性には、優しくするものですよ。ね、そこなお嬢さん」
ちょうど月の光りが照らしたそこには、地面に倒れて小さくなった狐と、頭の上から生えた耳、腰から立派な二尾の尻尾の袴狐……ぐだり狐さん!? 若返ってるし、イケメンだ! えーえー
月が雲に隠れたら、月に変わってお仕置きじゃなと、九尾なお狐様な声と必死に謝罪する汚い狐の声。
「さ、参りましょうか。お嬢さん」
腰が抜けた私に、優しく手を伸ばす、ぐだり狐さんもといイケメン狐さん。どうにか立てた私は並んでコンビニへ。なんでも満月で力が強くなってる上に、最近参拝客が増えて【れべるあっぷ】したとか。そんな成長方式なんだーと、顔をマジマジと見ていたらあっという間にコンビニへ。そのまま二人で入ろうとしたら突然の雨。慌てて店内へ入って振り向いたら
「こゃぁ……」
あ、いつものぐだり狐さんに戻った。
「おきゃくさーん、ペット連れはダメよー」
店員さんに無情にも断られてしまうのでした。
本気で久々に38度の風邪は引きました。優しさが普段以上に見に染みますね。