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第7話 真実

服屋を探して街中徘徊


地下室発見! 扉開かない! よしデストロ祭りだ! 武器屋へGO!


ヒャッハー! (*∀*)お宝発見!! ←今ここ

 大剣と大金槌を手にやってきました服屋さん。


「今回の俺は一味違うぜ!」


 未だプルプルしているスライムを後ろに大金槌を手に意気揚々と口走る俺に、腐ったベッドに立てかけた大剣が


「まぁ、それで壊れるって教えたのは俺だからなぁ…」


 元も子もないこと言うなよ。


 振り上げようとした腕が脱力し、肩から力が抜けてしまった。


「こういうのは雰囲気作りが大事なんだよ。シュチエーションって言うだろ!」


 俺の言葉に柄頭をカチカチしながら「正しくはシチュエーションだがな」と大剣が訂正してまた恥ずかしい。


 なんかもうグダグダになってしまった隆一は、大金槌を床に置いてスライムを見ながらふと言葉を漏らす。


「大剣。このスライムってなんなんだ? 昔の俺が作った生物なのか?」


 喋る大剣なんて奇天烈なものを造り上げた俺ならなんかスライム程度なら可能なんじゃない?と感じてしまう。


 スライムは見られていることを認識しているのかプルプルの波が少し大きくなったように感じた。それを見てまたもやホッコリしてしまった。


「あぁ、そのスライムなら正直な話俺も初見だったりするんだ。ファルシナもマスター以外に何種類もの生物をこの世界に招いて創造主とやらの注目を集めようとしたらしいからこれはその内の一種類じゃねぇかな?」


 何度もループを経験した大剣が初見ってことは、このスライムは少なくとも前の俺が死んで以降この部屋を住処として生活しているようだ。


 そしてこれは俺だけが数日のズレでこの大剣に出会ったことと関係しているとも言える。


「ってことは、少なくとも現在進行形で今回の俺の歩んでいる歴史は大剣の見てきた歴史とは全くの別物とも言える」


 俺の言葉に、大剣はすぐに反論してきた。


「だがマスター、数日のズレなら過去のマスターも体験してきた。流石に過去の歴史に戻る前じゃなく現段階でのズレは初見だが、それでも誤差の範囲内だと俺は思うぜ」


 大剣の言葉も至極当然のことだと思うが、重要なのは過去が変わらない結末を迎えていることであり、今の歴史を変えることができている事にある。つまりは


「過去の結末が変わらないのなら、それこそ過去なんざ変えなければいい。必要なのはファルシナの力を取り戻すことであり、俺の体を取り戻すのが最重要だということだ。過去に固執しすぎて本来の目的を見失っっているんじゃないのか?考え方をひっくり返すんだ。創造主がもう1つの世界に力を注いでいるのはこの世界に興味を失ったからなんかじゃない。おそらく終わらない戦争に嫌気がさしたんだと思う」


 そこまで告げてもう一度大金槌を手に立ち上がる。


「多分もう1つの世界は戦争の規模も数ももっと小規模なんだと思う。それこそ小競り合いみたいな。創造主が安心していられるようなそんな世界。確かに二千年も戦争なんかやってたらファルシナに、この世界に愛想を尽かされても仕方がないと思うんだ。そしてきっと創造主はそれをファルシナに気づいてもらいたかったんだ。じゃなきゃ自分の血肉を分けた神工神を置いて行くわけがない」


 鉄の扉に勢いよく大金槌を振り下ろす。


 硬い感触が手に伝わり思わず取り落としそうになるが、それを根性で耐える。


「この世界の時間の進み方はわからないから俺の世界ではすでに数千年も時が流れて元の世界に戻るには何か特別な力が必要なのかもしれない。俺が子供の頃死にかけ、それから転生に入る際にファルシナは俺を数千年前に転生させると言っていた。時渡りに耐えられるように武御雷と俺の体を弄ったと言っていたくらいだからな。きっと転生者として力を与え、俺を戦争の駒として利用させるつもりだったのかもしれない。細かい事情なんて俺は知らないし知ろうとも思わない。今までの俺が過去で大きな分岐を変えられなかったのはきっと創造主が変えられないように細工したんだろう」


 喋りながらも大金槌は幾度となく振るわれ、鉄の扉は鍵ごと歪み、その形を変えていく。


「もしかしたら過去の俺はそれに気づいて警告を発していたんじゃなかろうか?それに気づかず過去に向かった推定千回を超える俺の試みは全てが無意味だったんじゃないかという仮説ができる。行く先は過去ではなく今、手に入れるべきは俺の体だ」


 ガコン!と一際大きな音と共に鉄の扉はついにその役目を終えて左右に落ちる。床に落ちると埃が舞い上がるが、気にせず扉の先にある目的のモノを引っ張り出した。


 大剣の言っていた通りまずは服だ。


 よくRPG等で魔術師が来ているようなローブだが、裏地に複雑な文字が緻密に縫い込まれている。布地自体は黒と赤で一見地味に見えるが、随所に金糸と銀糸で紋様が走っているため、少年の夢心あふれる仕様となっている。


 服と言えるものはこのローブしかないということは、制服の上からこれを羽織って行動しろということなのだろう。


「さて本命の本の暗号を解く鍵は?」


 棚の中にあるのを全て引きずり出してみるが、他には手袋やブーツといった恐らく何かしらローブと同じ加工が施してあると思われる品がいくつか、そして


「これはまさか!『収納袋~!』」


 某青狸っぽくお腹に袋を引っ掛けて中をゴソゴソしてみる。


「やっぱりあった。『ペンライト~!』って使えんのかこれって?」


 同じモノを俺も持ち歩いていたからもしかしたらと思ったが、全く同じ型式のものが袋の中に入っていた。


「やっぱりダメか。電池もない世界じゃいつかは切れるわな。しかしやはりこの収納袋は頭に『無限』がついてしまうアレなのだろうか?」


 いくらでも入れることが可能なあの収納袋なら収納術の技と力を使う必要がなくて楽だな。


 試しに片手サイズの袋に大金槌を入れてみると、どこに入るんだと思うくらいすっぽりと飲み込んでくれた。


 これは本物だな。


「っと遊んでる場合じゃないな。で、大剣。どれで解読できるんだ?」


 収納袋の中にはそれこそ今自身が身につけているものと同じモノが錆び付いたり壊れたりした状態で保存されていた。しかしその中にはノートの内容を解読できるような代物は含まれていない。


「最初に手に持ったローブを羽織れば文字が読めるようになる」


 大剣の言葉通り、ローブを羽織りノートを開いてみる。


「おお。確かに文字が浮き出てくる」


 例えるならネットに落ちてる動画にあるような日本語の上に英語が表記されている感覚だろうか。読むのに支障はなさそうだ。


「えっと。『これを私が読むということは私はすでに死んでいることだろう』中々に頭の痛い奴が書いた遺言みたいだな」


 軽く笑いつつも更に読み進めるに連れ次第に隆一の顔色は悪くなっていく。


「『過去の改変に失敗し、肉体を取り返すチャンスは失われた。しかし肉体はあったのだ。ずっとあったのだ。ここから文字がかすれて読めなくなっている』か。遺跡に刻まれている過去の俺の中には真実に近いところまで辿りついたのがいるってことか」


「『これを見つけたならすぐに戻るがいい。この過去はハズレだ』先をすでに見限ったのか、それとも…まだまだあるな」


「『彼女は人の話を聞かないだろう。彼女にとって俺はこの世界にいる生物の一つでしかなく、特別ではないのだから。手を借りるしかない。もう一つ、誰か別の』これも途中で消されている。誰か別の?ファルシナの言っていたもう1柱の神工神のことか?」


 他にも様々な内容があるが、一番多かったのがその地域の歴史の記憶だった。


 しかしどれもがチャートの途中で×が刻まれ失敗の文字が刻まれている。


「ここまでやって成功しないとなると創造主の力が働いているとしか思えないな」


 読み進めて10分ほど経った頃だろうか、ふと一行の文章が目にとまった。


「『渡れ! 時ではなく世界を! 全てはそれからだ!』か」


 たぶん俺と同じ結論に至ったのだろう。手に入れる順序が逆だということに。


「大剣。お前の名前を今つけてやる」


 大剣は俺の言葉に柄頭をカチカチと鳴らして反応する。


「ようやくかい。マスターの思考が他のマスターとは違うって証明してみせな」


「『希望』(ホープ)」


 隆一の言葉に大剣は静かに柄頭を鳴らす。その音から言外に「このマスターもまた同じか」と言われているようでもある。


「と前の俺ならつけていただろうな。しかし、希望だけじゃ何もできないって事を見せてやる必要がある。『草薙』(クサナギ)俺の世界の神剣の名だ。お前は様式的に西洋剣の形だけど俺たちが相手にするのは神工神を含めた全ての存在だ。盤上一切を払いのける名前じゃないと勢いで負けるからな。折れたままで申し訳ないけどこれから行く場所で打ち直してもらえるように頼んでやるから勘弁してくれよ」


 隆一の言葉に最初大剣は反応できなかった。


 希望という名は俺が作られて初めて付けられた名前だ。当時の俺のマスターが次代のマスターのために持てる知識の粋を集めて造り上げたひと振り、何度も繰り返し過去に向かい、その度に同じ顔や知らぬ顔と言葉を交わし、そして死に別れた。当時感情というものが存在しなかった俺は、命令に忠実に過去を記憶し、マスターを導き、そして救えなかった。


 いつからだろうか、この口調に変わり、マスターをからかうのが日課になっていた。理由は特にないが、きっと少しずつ壊れていくマスターを励ますのが目的だったのかもしれない。


 希望という名も後半のマスターは少しずつ口にしなくなっていた。


 戦いの最中、相手の砲撃を防御するため盾にされ、刀身が半ばから砕かれた時も、マスターは一瞥して俺を捨て前へと出て行った。


 その時から俺はマスターというべき存在を見失った。


 気がついたら鍛冶屋にいて、また同じ顔をしたマスターに拾われ同じ過ちを繰り返す。そんな存在だ。


 でも今回のマスターだけは違った。


 最初からこちらを不審がり、警戒を解かなかった。得意になったトークでも相手の警戒を解くことができず、そして今、俺の名前は希望じゃなくなった。


 真実へとたどり着くことができなかった俺は、全ての存在理由を否定され、そして救われた気がした。


 新しい名をもらった俺は今、生まれ変われたのだ。

誤字とか脱字とかとかとかきづいたら直します


ここまで読んでくださりありがとうございます


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