第6話 歴代の自分
この世界の現状と自分の体の原因、そしてよくわからないまま女神と過去へ飛ぶ準備
服屋を探して街中徘徊
地下室発見! 扉開かない! よしデストロ祭りだ! 武器屋へGO! ←今ココ
大剣の話を聞くと、俺がこの世界に来たのは大剣が把握する限りで1028回目のことで、大剣曰く初期の頃の俺が作り上げた作品の一つがこの大剣だそうだ。
ここで補填しておきたいのが、過去に行った俺と今の俺とは姿から魂に至るまで同一の個体だとしても全くの別の存在だということだ。
当たり前と思ったが、大剣の記憶では助言があったとしても今までの俺は、過去の自分が歩んできた歴史をどういう形であれ繰り返し再現する人生を送っていたらしい。
もちろん出来事の大小はあれど、大きな歴史の分岐点には必ずと言っていいほど同じ選択肢を辿り、集結の差ほどあれ結末を同じくして歴史をつないでいるらしい。
「つまりは今まで何回も呼び出されて、体を取り戻すべく未来を変えようと四苦八苦して、でも最終的にはバッドエンドなエンディングで現在に至ると」
過去の俺は一体何をやっていたのだろうか?
「とっとと肉体諦めるなり、心機一転してこの世界でよろしくやるとかあるだろうに…」
いや、どちらにせよ過去に行かなきゃ世界でボッチか。
「今までのマスターも大概同感の対応だったぜ。まぁ未来を変えるために生み出された外付けの記憶媒体も大きな歴史の流れには抗えなかったってことだが」
大剣はこちらの感情の変化を懐かしんでいるのか柄頭をカチカチと鳴らして話してくる。
そういえばこの大剣が今までの俺の歴史を知っているなら、なんで違う分岐を選んで未来を変えなかった?
確か大剣は言っていた。
『大きな歴史の分岐点では必ず同じ選択肢を辿ってしまう』
「過去の俺は何故歴史を繰り返した? 1つの選択肢から変えられる未来が1つだけなわけがない。小さな選択肢を変えてしまっても大きな分岐点で同じ選択肢を取らざるを得ない状況を作らされている可能性が高い…となると」
おそらくは何かのきっかけがあって過去の俺はそれに気づいた。だから大剣を作ってそれに抗おうと考えた。
大剣の記憶を用いての歴史改変の為に大剣の言う女神(おそらくはファルシナの言う創造主が創り出した新世界の神工神だろう)に隠れて村を作り、バックアップの体制を整えつつ細かい情報を手繰り寄せ、なんとかファルシナの願いを叶えてやろうと試行錯誤を繰り返したのかもしれない。
「大剣、いくつか聞きたいことがある」
隆一はいくつかの可能性を見つける為に頭をフル回転させる。
「今までの俺は出会った直後はどんな姿をしていた? であった日付は常に同じ日か?」
隆一の言葉に確認の意思を感じ取り大剣は思い出すかのように数拍間を置いて喋りだす。
「全員今のあんたみたいに体が半透明で学ラン姿だな。日付に関してはあんただけ数日遅れて来た」
半透明で服まで同じ、つまりここまではどんな時間軸にいた俺でも変わらない運命だということだ。数日遅れてきた件については恐らく外で死んだふりしていたからだろうな。
「今までの俺の中で過去に向かった後、寿命で死ぬまでに生きた数は?」
「50人ぐらいは途中で歴史の分岐に巻き込まれて死んだり、どこか欠けたりして後の歴史に干渉できず、未練を残してこの地で自決した。俺自身は持ち主が死んだら自動的にあの鍛冶屋に転送されるように術式が組まれてる。あの女神に俺が奪われた時がおそらくファルシナ嬢ちゃんの最期だからな」
大剣は数多くの俺を歴史の移り変わりとともに見てきたはずだ。
しかし、大剣はこうも言っていた『初期の頃の俺』が作ったと。ならば疑問が残る。大剣にとっての『初期』とは何時だ?
大剣にとっては自身の記憶で初期と言ってたが、おそらく当時の俺自身がこの世界のどこかで見つけたはずなのだ。大剣から聞かされた記憶ではない。
「過去の歴史でお前の知らない俺のメッセージを見たことは?」
そう。大剣の作られる前にもおそらく俺は、歴史を変えるためにあらゆる手段を持って後の世の自分にメッセージを残したのではないのだろうか?
異世界初心者の俺でも、違和感を持って事に当たれば気づけたはずなんだ。
隆一の言葉に、大剣はしばらく黙り込んでいたが、ふと思い出したかのように柄頭を派手に鳴らす。
「あった! 俺の初代マスターが遺跡の壁面に書かれていた自分の知らない自分の筆跡を見て驚いているのを見たことがある。俺が作られるよりも以前に彫られた筆跡だったってことか」
やはり! 大剣の知らない筆跡ということは、おそらくこの大剣を造るだけの知識も技量も足りなかった当時の俺が、後の世に喚ばれる俺の助けになるように用意したのだろう。
俺自身も同じループに陥っているのだろうかとも考えたが、大剣の反応が間違いでないのならば、今回の俺が向かうべき歴史はおそらく大剣にとっても未知になる可能性が高い。
大剣の知識と経験値も合わせればきっと上手くいくはずだ。
何度も、過去の時代に行っているのに解決できないという負の連鎖に染まりつつあった俺の人生らしいが、これで先に進むことができる
「過去の俺が残した内容はどれくらい覚えてる?」
正確には遺跡の場所と彫られていた歴史の内容だ。
おそらく細かくはないだろうが歴史上重要な人物の名前や日付等は彫られていたはずだと確信している。
なぜなら本人が俺なら最低限これだけは残す。という考えがあるからだ。
俺の俺による俺のための伝言、いや遺言だ。絶対に適当なことを書くはずがない。
俺の言葉に、大剣は柄頭を鳴らして喋る。
「マスターが持っているそのノート自体が世界中にあった『マスターの知らないマスター』が書いた文字の羅列だよ」
なんと、すでにその答え持ってたよ。
「でも、中見てみたけどこの文字俺見たことない筆跡なんだけど」
所々汚れているが読めなくはない。が、文字自体が知らない言語で書かれているために読み解くことができない。
「その文字は今から向かう服屋の棚にあるモノを使わなくちゃ解けない文字なんだよ」
大剣の言葉で、隆一は本来ここへ来た目的を思い出した。
「さっき言ったみたいにこの街は前のマスター達が造り上げた街だ。だがこの街の真骨頂は女神に見つからない隠密性じゃない。もう歴史が戻らないと悟った以前のマスターたちが遺跡に彫られたメッセージのように次代の自分に敵を取って欲しいと当時の技術の粋を集めて当代の勇者、聖人、国王、貴族、ある時は龍人、魔王の眷属に至るまで全ての伝を辿って造られた対異世界用装備を作り上げる『工房』が本来の役割なんだよ」
大剣曰く、以前のマスター達は決してその時代の勇者達を差し置いて表舞台には出てこなかったそうだ。
柄ではない、といつの時代の俺も言うだろうな。と思いつつ、歴史上の勇者達の傍で大剣の記憶を頼りに勇者に進言し、事前に起こりうる災害を回避しつつ平和な世界を作り上げようと奔走していたらしい。
無論、当時の魔族の争いや、人同士の争いにも参加させられ精神的な消耗もひどかったそうだ。
人の生き死にが他人事だと思われている現代社会に生きてきた俺にとってはうつ病やPTSDになってもおかしくはなかっただろう。
実際、人類が滅亡する直前には、俺自身も廃人と変わらない程やつれきってこの街の服屋の地下、あの鍵のかかる棚がある部屋で一日中、それこそ魂の消滅の瞬間まで手に持っている本の内容を見直している生活だったそうだ。
「それは、もはや呪われていると言ったほうが正しいのではないだろうか?」
身体が老いるとかそういった事はわからないが、この体が魂本体ならば摩耗とは老化を指し、消滅は死を意味する。傍らにあった大剣が自動で鍛冶屋に戻るのならば死を定義づける条件はこの世界からの消滅だろう。
だとしたら今までの俺は肉体を取り戻せなかったのだ。
少なくとも創造主とやらの注目を集めることはできなかったということだ。
そしてこの本に書かれている羅列を解読し、ある仮説が成り立てば、おそらくこの世界を救うためにはある事をしなければならない。
それはこの世界に呼んだファルシナをある意味で裏切る行為に当たるかもしれない。
だが、この行動で成功すればこの世界の過去に戻るよりも確実に創造主の眼はこちらに向くだろう。
「とりあえず、一旦服屋に戻って棚を開けなくちゃいけない。手伝ってもらうぞ」
隆一は、両手に大剣と金槌を持って武器屋を後にする。
必要なのはタイミングと仲間、そして神工神を相手取る力だ。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
誤字脱字は気づきしだい訂正していきます。
全話通して短く読みやすいように区切っていきますのでご了承ください。