第5話 服探し、プルプルの予感
自称女神のガーゴイル、略してメガゴイルとエンカウント!
この世界の現状と自分の体の原因、そしてよくわからないまま女神と過去へ飛ぶ準備
服屋を探して街中徘徊 ←今ここ!
街中で服がある場所といえば当然服屋であろう。
「問題は文字がわからない上に人がいなくなって時間が経ちすぎた上にほぼ街の家屋が野ざらし状態でなおかつ幽体の俺が着れる服が存在するかということだ」
どんだけ『上になおかつ状態』だと意味のわからない語句を頭に浮かべつつ、隆一はファルシナから貰った街の見取り図(持ってたよこの女神!)を見比べながら教会から見て西方向にある片側の堀の終端、池のある塀沿いに足を運ぶ。
「これか。なんか逆にわかりやすいな」
朽ちかけた家屋なのは相変わらずだが、店のシンボルとして巨大なハサミと反物の絵がうっすらと看板に残っている。ペンキでもないのによく色が残っているものだ。
「とにかく、中に入ってちゃっちゃと服持って戻るか」
店の中は空いた屋根から雨水が染み込んだのか所々腐っていて、店の壁に飾られていたであろう服も、もはや服『だった』物としか判別できないくらい腐食していてとても着られるものではない。
試しに壁にかけられている服を手に取ると、壁に張り付いているのかベリベリと音を出して前と後ろが分かれてしまった。
「着れる服ねぇ?」
手に残った前掛け状態になった服を捨ててさらに店の奥へと足をすすめる。
「そもそも、異世界なんだからこういう時は宝箱に状態保存の魔法がかかっている伝説級のTシャツとかあるもんじゃないのかな?」
そう都合よく異世界御都合論が展開されるものではなく、探して出てくるのはカビた衣類と腐った衣類とかつて服だった物だ。
最悪なくても困らないんじゃね? と考え始めた隆一の前に、異世界御都合論で展開された地下への階段があると思われる床扉が現れた。(正確にはめんどくさくなって木箱蹴っ飛ばしたら床から出てきたが正しいが)
いかにもな雰囲気の床扉には取っ手部分に鍵がかかっていて、要所ごと金属で補強されているまさに重要なものがありますよと言わんばかりの扉だ。
「まぁ、惜しくらむは既に扉としての機能を果たしていないことだろうな」
見た目こそ立派にみえた床扉も幾年の月日雨風に打たれれば、鉄は錆、木は腐り落ち今は鉄の枠組みがかろうじて残っている鉄枠に過ぎない。
よっと軽い声で鉄枠にこびり着いてた木片を蹴り砕き、自分が通れるくらいの隙間を空けていく。
しばらくして出てきた通路の先は、どう見ても地下倉庫ではなく、例えるなら『書斎』と呼べる場所へと通じていた。
そして書斎の現状も上と近しく、所々カビが生え、池の近くのせいか湿度がひどくそしてなにより珍客が存在していた。
「スライム?」
見れば部屋の各所に鏡らしきものが配置されており、ホコリなどで曇ってはいるが、別の箇所から送られているであろう太陽からの反射光で室内を明るくしているのがわかる。
故に目の前のスライムに気づけた。
光の反射がスライムを透過する際、屈折を起こし光が変に歪んだからだ。
「生き物は存在しないんじゃなかったのかよ女神様よぉ」
この世界に来てからガーゴイルと女神とスライムと(ガーゴイルは女神だからノーカンか)人以外の生物とばかり顔合わせてるな。
目の前のスライムは、ゲームであるような水色ではなく透明な体に、カビか何か捕食でもしたのだろうか斑点が浮き出ていて、見ていてカビの生えた水饅頭を彷彿させた。
プルプルと体を震わせながら、空気中の塵や水分を捕食しているのであろう光景は、空気清浄機を思い出させた。
「こうして見ると可愛いもんだな」
なぜ生物がいない世界にスライムが存在するのかという疑問は置いといて、しばらく警戒しながらもスライムの生態を見てホッコリしてしまうのだった。
スライムがこちらに害を及ぼすような行動を起こさなかったため、スライムを視界に入れつつ部屋の探索を再開する。
「とは言ったものの怪しいのは衣類棚ぐらいしかないしな」
部屋の中央に陣取ってプルプルしているスライムを除けば、部屋にある調度品など数点しかない。
棚にベッドに机に衣類棚だ。殺風景にも程がある。
棚には自画像だろうか? 朽ちた絵が置かれていて、元は壁に掛けられていたのだろう紐が垂れている。無論棚の中も調べてみたが、全て着られるような保存状態ではなかった。
ベッドも足が腐り、傾いた状態でとても寝られる状態ではなく(カビだらけの時点で寝たいとは思わない)付近には何もなかった。
机の上には何冊か本が置かれていて、かすれてほとんど読めないが、服飾に関する本らしい。なぜか一冊だけ汚れてはいるが状態が良い本があったので後でファルシナに読んでもらうために失敬させてもらう。
そして最後に残ったのは衣類棚だ。
何故これを最後に回したのかというと、単純な話この扉が『鉄の扉』だからだ。
「よっぽど重要な物があるんだろうなぁ」
子供だてらに盗賊っぽい顔つきを作ってみて目の前の鉄の扉を見つめてみる。
「見える範囲で南京錠が三つに扉自体に鍵穴が四つってなにこれ? 金庫じゃんまるで」
錆び付いてはいるが、子供の腕力では外せそうもないほどでかい南京錠が三つも付いてる上に錆びて穴が埋まっている鍵穴が四つ。金鎚か何かで無理やりこじ開けるしかないようだ。
「異世界なんだからこういう時は自動で開いたりして欲しいもんだ」
そもそも幽体なのに壁抜けできないって時点でこの体は不良品だと思うんだがと自分の境遇を不便に思いつつ、未だ部屋の中央でプルプルしているスライムを尻目に鍵を壊すための資材を確保しに一旦店の外へと出る。
目的地はもちろん
「やっぱり『武器屋』でしょう!」
テレビのお店紹介のように両手でアピールしている件の武器屋だが、やはり例に漏れず朽ち果てた廃墟のような佇まいで、看板が剣と盾の形をしていてわかりやすい。
異世界王道の「武器は装備しないと意味ないぜ」の言葉を思い出しつつ店の中へと足を踏み入れる。
店内を見回してまず一声
「鉄くさっ!」
これが血のむせ返る臭いかと思うくらい錆びた鉄の匂いが湿気のこもった室内に立ち込めている。
「朽ち果ててもまだ屋根も壁も崩れてないから風が通らないんだな」
武器を扱う店だけあって頑丈に造ってあったのだろうか。他とは違い見た限りで穴の空いている箇所は見受けられない。
「単純に雨漏りのせいか」
見れば天井に大きな世界地図が出来上がっている。穴こそ空いていないが崩れるのも時間の問題なのかもしれない。
「とりあえず手近な所から探していくか」
壁の窓を開け(ようとして枠から外れた)、店内の空気の入れ替えと日光を取り入れて部屋を明るくし、隆一は壁にかかっているというよりも引っかかっている錆びた武器を手に取りながら、初めて見る本物の剣に目を輝かせるのだった。
時間にして10分ほど経過しただろうか。店の中をあらかた探したが、鍵を壊すのに使えそうな鈍器の類は見当たらなかった。
「武器屋なのに武器がないとはこれいかに?」
店内に置かれている武器の類は、ほとんど錆びて使用できず、メイスのような棍棒も振れば根元から腐り落ちる始末だ。
これではあの頑丈そうな扉を壊すことができそうもない。
隆一は店内の奥にある工房と思われるスペースに足を踏み入れることにした。
工房内に窓らしい窓はなく、明かり取りと思われる陽差しが天井付近に設けられている。おそらくは熱気を逃がすためであろう。工房の壁、その真ん中にはその部屋の主であるかのような立派な作りの炉が備え付けられている。
隆一は、その炉の上にひと振りの大金槌が置いてあるのを発見した。
「なんかゲームで見たことあるな。相槌ってやつに使うための金槌かな?」
手にとってみれば、年季の入っているであろう巻布に柄が覆われ、柄も槌本体も錆びずに、汚れこそあるが粘りのある艶なしの黒で統一されている。
「結構な大きさなのに思ってたよりもかなり軽いな」
隆一は、手に持った時の異常な軽さと、取り回しの良さに驚いた。
「なんか金槌って盾プレイヤーの標準装備な気がするけど、初めて異世界!って感じのするな」
さっきのスライムを頭の隅に追いやり、ガーゴイルの形をした女神を記憶から忘れ、異世界の醍醐味と勝手に決めつけつつ金槌を振り回しながら工房を後にしようとする。
店の外に出るため、工房から店内に戻ろうと後ろを向いた隆一に背中から待ったの声がかかる。
女神でも隆一でも誰のでもない第3者の声。必然的に隆一は声のかかる方へ顔を向ける。
「俺も連れてってくれよ!」
隆一の目の前には、埃と蜘蛛の巣と煤と錆とに塗れたどう見ても『ガラクタ』な風体の大剣が壁にかけられており、半ばから折れた形で、稼働する柄頭を動かしながら話している。
○の使い魔に出てきたことがありますか?と思わず問いかけそうになるが、隆一は怪訝な顔をしつつも喋る大剣に近づき手に入れた金槌の柄で壁から大剣を引っ掛ける要領で地面へと落とす。
大きな音を立てて床へ落ちる大剣は、大剣自身の立てた甲高い金属音と
「イテ!」という金属らしからぬ声を上げてこちらへ抗議の声を上げる。
「もうちょっと優しく頼むぜマスター。こちとらウン百年ぶりの再開だってのにこの仕打ちはないぜ」
折れた大剣は勝手にこちらをマスター呼ばわりした挙句初対面の相手にまるで旧友みたいに馴れ馴れしく話しかけてくる。
「うるさい。胡散臭い口調で話しかけるな」
隆一の言葉に大剣は口を噤むかと思いきや、こちらしか知らないはずの情報を伝えてくる。
「釣れねえなぁ。あのファルシナの言うことをのこのこ信じて過去に行ったってのに結局は途中で寿命と呪いで力尽きるっていう人生を曲げてやろうとこうして懐かしの主に声をかけたってのに」
大剣の言葉に、隆一の肩が震える。
「なぜ過去に渡ることを知っている。呪いとか寿命で死ぬとか馬鹿なこと言うなよな!」
子供のように(子供なのだが)癇癪を起こして大剣を掴んで一気に持ち上げる。
「おいおい、落ち着いて話を聞けよ。あんたは龍ケ崎隆一。ここへはいつの間にか来て体がなくて途方に暮れてここに来て、今はファルシナに言われて服屋に服取りに行く途中ってところだな。おおかた金庫の中にある物を狙ってるんだろう?」
まるで見てきたかのようにこちらの今までの行動を当ててくる。
表情こそないが、今の大剣の表情を表すなら嘲笑だろう。
言葉なく大剣を見ることしかできない隆一は静かに大剣をおろし、壁に立てかける。自身は金槌の置いてあった炉の近くに座り込み静かに大剣を見据える。
「真偽はこちらで決める。大剣、君のいうマスターってのはどういう意味だ」
隆一の据わった声に、大剣は柄頭を鳴らしながら「大人ぶってまぁ」と軽口を叩く。
「マスターってのは文字通り俺を扱うに足る主、主人、持ち主って意味だ。ちなみに過去であんたは俺のことを必ず同じ名前で読んでた」
大剣の話す言葉は、どこか嘘くさくて、しかしこちらへ必ず興味を持つように所々キーワードを散らしている。
「名前は後で決める。君の言う通りの名になるように期待するんだな。それでさっきの話だと俺は君のマスターになっているように聞こえるんだが?」
正解。その通りだと大剣は言う。その口調は子供に言って聞かせるためにわざとらしく話しているように見えて知らず知らずにいらだちが募る。
「正解を言うとだなぁ。この村、いやあんたはこの中に入ってから街と言い換えたそうだが、ここはあんたが、正確には過去に旅立ったあんた達が異世界の女神の目を盗んで創った隠れ里なのさ」
大剣の言葉は、こちらの考えを必ず上方修正して上回るようだ。
休みがあるうちに投稿していこうと思います。
ニートじゃないよ!?
誤字脱字は発見(*゜Д゜) ムホムホ次第修正入れます。