When the life is over
「さて。こんにちは?
楽しいゴールデンウィークはお過ごしですかね?
私は楽しい楽しい血祭りウィークを楽しみたいとこですねー」
「血祭りウィーク?いやいや、女の子の日がきちゃったとかそんな甘ったるいものではありませんよ。
本当の血祭りです。」
まるで僕を嘲笑うような声がどこかで聞こえた気がした。
「今年は4連休ですね…素敵なゴールデンウィークをお過ごしください…私は静かに見守っていますよ…」
ふはははという楽しそうな笑い声と共にその声は消えていった。
その声の主が何者なのか、女なのか男なのか、どこから聞こえてきたのかはわからない。
そして、血祭りというのはただのヒントだということもこのときの僕には分からなかった。
「ここの数式はこのように分解でき、そしてだな」
教師の言葉など頭を、むしろ頭の上を通過していく。
土曜日、世間はゴールデンウィークの始まり。
僕はこうして教室の席に座って午前中に終わった校内模試の解説を聞き流している。
することもない暇な時間。
右手には赤ペンをとりあえず持っているが
回して遊んだりカチャカチャいじることすら面倒くささを感じる。
窓の外を見ていても風もなく、木々すら揺れていなかった。
解説もあと数問で終わりというときだった。
鳥1羽飛んでいなかったのに、目の前に黒い影が通り過ぎた。
上から下へ。
「い、嫌ああああ…!」
僕が目を丸くしてハッとする暇もなく
鈍い音が外から聞こえてすぐに女子生徒の悲鳴が上がった。
花壇のマーガレットは潰れ、綺麗なオレンジは不気味な赤で下手くそな化粧をしていた。
ー私立高校屋上より飛び降り自殺か。
次の日の新聞の見出しに大きくだされたその文字。
痛いたしい事件だ。という簡単な言葉で済ますわけにはいかない。
僕の学校でこのことが起こったのだから。
生徒全員が集められ緊急集会が開かれた。
ゴールデンウィーク2日目、誰一人晴れた顔をしている生徒はいなかった。
体育館の屋根に打ち付けられる強い雨音がこの事件の重さを強調させている。
「…みなさんご存知の通りです。起こってはならないことが昨日、起こってしまいました」
壇上で話す校長の顔はひどく冷静だった。いつもの集会と変わらない。淡々と話していく。
「みなさんがもし悩んでることがあるなら、溜め込まず相談する勇気を持ってください。これ以上こんなことが起こらないように」
「起こらないようにじゃねえよ!昨日起こったことを悔やめよ!その心無い態度が俺ら生徒の不満なんだよ!」
ひとりの男子生徒が大声を上げた。
立っている足、左の握りこぶしは震えている。
そして、ナイフを持つ右手も震えている。
「きゃあああああ…!」
昨日も聞いたような女子生徒の悲鳴がまた上がった。
立ち上がっていた男子生徒の左胸には先ほどのナイフ。
紅の薔薇の花びらのような飛沫が飛び散る。
それを受け取ってしまった周りの生徒たちはパニックになり
おさめようとする教師も腰を抜かしてしまっている。
ー2日連続。不幸のGW。
再びいたたまれない新聞の見出しにそろそろ僕も狂いそうだ。
今日は1日家にいることができる。
今日こそ平和だろう。いや平和だと信じたい。
「痛…!」
新聞を閉じたと同時に後ろのキッチンから母親の声が聞こえた。
「母さん?どうした?」
後ろを振り返り問いかける。
「うっかりして包丁で切っちゃっただけよ」
あははと笑いながら水で傷口を洗う母親。
「絆創膏取って来ようか?」
「お願いと言いたいところだけどたしか絆創膏なかったのよね。貼ってるといろいろやりづらいしいいわ。それかプリンの散歩ついでに買ってきてくれてもいいのよ?行ってきてくれない?」
素敵な笑顔をこちらに向ける母親。
最後の行ってきてくれないかというのは
絆創膏を買いにではなく、散歩に行って来てほしいということがわかるぐらいの笑顔。
プリンとはうちで飼っている愛犬の白いトイプードル。
今日はできるなら家からは出たくなかった。
しかしいつも忙しい合間に散歩に連れて行っている母親の頼みを断れず、散歩だけを引き受けた。
「よし、プリン行くぞ」
尻尾を大きく振って僕とは真逆でノリノリで歩いていくプリン。
僕もプリンに合わせてスキップでもしてやろうかと思うほどノリノリだ。
そんな僕らの頭上をカーカーという鳴き声がやけに多く飛んで行く。
「はあ…」
大きくため息をついて足を止めた僕。さすがのプリンも足を止めた。
目の前には猫の死体。その上の電線には軽く20羽はいるだろうか、カラスが目を光らせていた。
車通りが多いわけではない道路だが運悪く轢かれてしまったのだろう。
時間が経っているのかアスファルトは洗い忘れられたパレットのようになっていた。
「早くそこをどけよ」と言わんばかりに頭上からの圧力を感じる。
グロテスクなものをわざわざ見たくもないので、そそくさとプリンのリードを引いて通り過ぎた。
テンションが最底辺の僕。気にせず走りだすプリン。
プリンが予期せぬ時に走り出すと引っ張られ転びそうになる。
小型犬のくせにどこからその力が出ているのか不思議だ。
家に帰るまでに1回は本当に転びそうだなと考えていた時だった。
また急に走り出したプリン。思わずリードから手を離してしまった。
「おい!プリン!」
追いかけに走りだした時だった。鈍い音と共に愛らしいぬいぐるみの綿は飛び散ってしまった。
何が起こったのか理解できていないまま翌朝になっていた。
頭が重い。ズキズキと締め付けられるする。
3日前から昨日までの出来事が心まで締め付ける。
なんで僕の身にばっかこんな怖いことが、不幸なことが。
そんな考えだけが頭を回っていた。
「今日もなのか…明日もなのか?」
「おい!答えろよ!教えろよ!」
誰もいないのに頭をかきむしりながら大声をあげる。
いつかの聞こえた声を探すように。
「もうこんなの嫌だ!血祭りって何なんだよ!わけわかんねぇ…こんなのがいつ終わるのかわかんねぇなら自分で終わらせてやるよ!」
震える手がとったのはカッターナイフ。
大声を変に思ったのか階段を誰かが上がってくる足音。
「うわああああ…!」
痛いなんてわからないまま目の前が暗くなっていく。
風船の空気が抜けるように身体が軽くなっていくのを感じる。
僕は首に刃を突き立て自ら命を絶った。
「いいえ。君は自ら命を絶ったわけではないよ?私がシナリオを書いたのです」
(誰だ…)
「先週お話したばかりじゃないですかー。忘れちゃいました?」
(…!?)
「今までお疲れ様でした。君はもともと今日までの命しか持っていなかっただけの話だから安心して?」
(そんなことなんでわかるんだよ)
「君に死が迫ってることを教えるために血祭りってヒントを残したのです。」
(だからお前は…)
「おや?もう時間ですね。初めまして、僕は死神の仲間ってとこです。お迎えにあがりました。」
「次は君のとこへ行きますよ。see you………
again。」