光の夜とは
短めです。
暗い路地を抜け、表の大きな通りにでる。
ヒカリは目的地があるのか、迷うことなく歩き続けた。
……僕の手を引きながら。
「これ、恥ずかしいんだけど?」
「そう? 昔はよくこうやって引っ張られたけど」
どうしようもないことを悟った僕は、緊張を紛らわせるために話題を作る。
「それより、どこに向かってるの?」
「お祭りー」
「へ? お祭りって……」
ヒカリが立ち止まった。
ふわぁっと風が吹き、彼女の輝く黒髪が揺れる。
じぃーっと僕を見つめ、それから少し首を傾げた。
「セイはもう少し人と交流するべきだよ。【光の夜】って知らないの?」
「【光の夜】? きいたことない」
ヒカリは頬を膨らませ、少し怒ったように僕の瞳を見つめた。
「もしかして地震の対策してなかった?」
「……してない」
「もう! だいぶ前から注意するようにって言われてたじゃない」
ろくに外も出ない僕が、そんなことを知っているはずがない。
少し、解った気がする。
みんな知っていたのだ。地震がくることを。だからこそ、死ななかった……?
何故こんなにも、人々は幸福そうにしている? どこに、希望が存在する?
足りない……。僕の知らないことが、多すぎる。
知りたい……。
何故?
そんな必要ない
何も知らずに、また引きこもればいいではないか。
蓋をしたはずの心から、囁きが洩れでる。僕は耳を塞ぐ。
温かな、ヒカリの手。
優しくて白い手。
ヒカリは僕の手を離すと、先を歩き出した。
「……知りたい?」
後ろで手を組んで、クルッと半回転するヒカリ。
迷いを見透かすように、彼女の瞳は無垢に僕の瞳を覗く。
僕は……。
温もりの消えた自分の左手を見つめる。広げた手は、また何も掴めないのだろうか。
僕を置いてけぼりにして、勝手に動き出したこの世界。
僕の意志とは関係なく、僕はいわば受動的に今まで行動してきたにすぎない。
まだ、引き返せるかもしれない。
もう、これ以上傷つかずにすむかもしれない。
逃げたい。
でも……。
「知りたい」
理由はまだ、ない。僕はぎゅっと左手を握る。まだ理由を、作ってはいけない。今は、まだ。
彼女の長い髪が跳ねた。
「その前に、お祭りを楽しもう!」
ぐっと肩の力が抜ける。僕がやっと絞り出した言葉は、ひとまず横に置かれてしまった。
と。安心したように、息をついてしまう。
相変わらず彼女は、間を理解しているのだなあと思った。誰の心の準備も、できてはいないのだったーー。