2話 外れた・・・足首が
新キャラ紹介
☆荒川一二三・・・騎士の母。35歳。
☆荒川四五六・・・騎士の父。37歳。
☆鈴藤美佐子・・・第5研究室担当の研究員。通称レッド。25歳。
☆遠崎拓斗・・・第5研究室担当の研究員。通称エンター。28歳。パソコン好き。
「いってー・・・」
俺は右足を引きずりながら螺旋階段を下りて行った。後ろにはメイジもいて「足首グリグリー♪」と楽しそうに歌いながら自分の足をボキボキ曲げている。無残にも足首が360度方向転換してしまっていた。
「メイジ、見てて痛々しいから止めてくんねーか?」
「いいじゃん、僕は痛くないもんねー。」
メイジは無邪気にそう言いながら、足をブンブン振り回す。すると、ゴキッ!
「わー!足首外れたー!」
足首は俺の横をブォンッと飛んでいき、1階の床に着地してコンコンッと数回はねると、そこに立っていた人物のつま先にぶつかって止まった。
「あ、父さんおはよう。」
「・・・おう、起きたかお前ら。」
俺の父さんであり、メイジの生みの親でもある荒川四五六はボサボサの髪の毛をかき分けて、頭皮をバリバリかきながら言った。数日間お風呂に入っていないせいか、かなりの異臭をまとっていて(着ているのは白衣だが)、口にはタバコ、片手には超ブラックコーヒー。メガネの奥に見える目は腫れぼったいというか、簡単に言えば寝不足な目である。この顔で駅前をうろうろ歩けば確実にホームレスと勘違いされるだろう。ただし父さんはまだ37歳である。
「あー!しごろだー!おはようー!」
メイジは嬉しそうに言いながらダダダダッと片足で螺旋階段を駆け下りると、父さんの前に立ってニコッと笑った。
「ようメイジ・・・で、何でこんなとこに足が落っこちてんだ?」
父さんは一切表情を変えずに、足を拾い上げた。切れ目からは配線がデローン、と垂れ下がっていてバチバチとスパークを散らしている。
「僕の足ッ!返してー!」
「ああ、メイジのか・・・お前は何回自分のボディ壊したら気が済むんだ、んん?」
「違うよ!僕の身体がよわっちいのが悪いんだよ!」
「製作者の前で堂々と言うなっての。ほら、またつなげてやるからこっち来い。」
父さんはタバコを床に放って踏み潰すと、廊下の突き当たりにある《第5研究室》という扉を開いた。ちなみに第1から第4までは父さんの部下である研究員達が使っている。もう1つ補足すると、2階は俺らの部屋だけでなく研究員の居住スペースもある。なので大抵の研究員とは友達のような付き合いだ。
研究室中の広さは大体学校の教室4つ分くらいである。右半分は机やら書類やらで埋まっていて、左半分は機械やらパーツやらそういう類のものが置かれている。それらに囲まれて、中央に眠っているような表情の女型アンドロイドが2体、椅子に座って上からのライトで照らされていた。部屋には窓がなく、全体的に薄暗いので2体がよく目立つ。
「どうなの《アルビダ》と《ベリンダ》の制作は?はかどってる?」
俺は先ほど部屋にやってきた母さん・・・荒川一二三に問うた。母さんは疲れた様子で自分の机にベターっとへばりついている。
「んー?もうすぐできるわよー・・・あとはちょこちょこっ、と修正くわえるだけ・・・でも今日はもう無理!寝る!ぜったい今日こそ、ねーるー!!」
母さんがまるで駄々をこねる幼稚園児のように足をばたつかせながら喚く。確実に3日は寝ていないだろう、目の下にはっきりとクマができている。髪の毛は一応後ろで束ねているものの、色素が抜けて茶髪になってしまっていた。35歳なのにかなり老けて見える。まあ、本人のために言うが、母さんは決して不細工なわけではない。しっかり睡眠をとって、ばっちり化粧をすれば20代後半くらいには見える。ただ、今は《アルビダ》と《ベリンダ》というアンドロイドの制作中で、そうする余裕がないのだ。
「一二三さん、頑張ってください!あともうちょっとですから!」
第5室には父さん母さん以外に4人の研究員がいて、そのうちの1人である鈴藤美佐子、通称レッドが励ましの言葉をかけながら母さんの横にコーヒーを置いた。レッドは25歳で、この第5室研究員の中では最年少だが、何かと母さんの事を気にかけてくれる優しい人である。もし結婚したらいい奥さんになれることだろう。しかし母さんはそんな優しさを見事にぶち壊し、ぶすっとした顔で「うっさい!レッド黙れ!」と悪態をついた。
「まったく一二三さんは・・・あっ!四五六さん、おはようございます!」
レッドは父さんを目にすると、背筋を伸ばしてペコンと頭を下げた。
「はい、おはよう。」
「ちょっとレッド!私の旦那に手出すんじゃないわよ!」
母さんの言葉をレッドは軽く無視して、父さんに書類の束を渡した。
「こっちがアルビダの修正箇所、こっちがベリンダの修正箇所をまとめた書類です。」
俺はその書類を横から覗き込んだが、意味不明な語句ばかりでさっぱりわからない。でも父さんは「なるほど・・・よし、わかった。」と言うと、書類をレッドに押し返した。
「え、四五六さん?」
「今はメイジの足をつなげるのが先だ。修正は、そうだな・・・エンター君に頼んどいて。」
エンターとは、第5室研究員の1人で、本名は遠崎拓斗という。年は28歳、大のパソコン好きでタイピングの名人だ。
レッドはポッと頬を赤らめると「わかりました!」と、張り切って第5室を出て行った。
「レッドってさ、絶対エンターのこと好きだよねー!両想いかな?ちゅーとかするのかな?!」
メイジが声のボリュームを上げて言った。同時に、にやにやと笑う。
「こらメイジ!そういうのは大声で言うもんじゃない!」
父さんが遮るように声を上げる。メイジには《恋心》という物を理解していただくべきだろう。父さんもすぐにそうするプログラムの制作に取り掛かるに違いない。
駄作ですいません、本当に。展開も遅くてすいません、本当に。