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人獣牢獄  作者: 臼杵 碧
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よぎる疑念

 私が目を覚ますと私の体は何か狭い入れ物に詰め込まれていた。……さすが関節が大量にある生物、と言ったところか、私の体は幾重にもくねりながら無理なくその入れ物に収まっていた。

(えーっと、今、どういう状況なんだろう? あの誘拐犯にさらわれたのは確定なんだけど……)

 すると頭上に空いている穴から声が聞こえてきた。

「で、あの人どうやって救出するんですか?」

「んー、壺割って救出しようとしてもあいつ傷つける可能性あるからダメだし……。というかそもそも割る方法ないしなー」

「え、ただ単にあの人起きるの待てばいいんじゃないですか?」

「でもそれだと、あいつが蛇の体をうまく扱えるかが問題になるぞ? 服部さんだって最初は歩くことすらままならなかったじゃないか」

「うっ……」

「そういえば、蛇ってどこをどう使って前に進んでるんですか?」

「知るかそんなん」

 ……なんか外では私に関する相談事がされているようだ。声の感じだと、女子3人……かな? あの誘拐犯はいなさそうである。

 私は手を穴の淵にかけると一気に体を引き上げた。すると周りの様子が見えた。

 どうやらここは室内らしく、白い壁に囲まれている。壁には合計3つの扉があり、窓は無い。で、床に置かれた草の山の近くに私と同じ、動物が混ざった人間のような姿をした女子3人が話していた。やはり誘拐犯(あいつ)の姿は無い。

 状況を理解し、ここは安全だと思った私はガードレールを乗り越えるような感じでこの入れ物から出ようとした。しかし下半身が思うように持ち上がらない。

「うっ、お、重……」

 下半身が大きくなったせいで、持ち上げようとするとこっちの腕の力が重さに耐えきれず落ちそうになる。しかも足が無くなっているので穴の淵に足をかけて登ることも出来ない。

「あ、上がれっ……うわっ!」

 結局耐えきれず、私は入れ物の中に墜落した。したたかに打った部分をさすりながら外にいる3人にむかって声をかけた。

「あのぉ……すいません、出るの手伝ってくれませんか……?」


ーーー


「えーっと、錦戸真弓です。先ほどはありがとうございました……」

 3人の助けもあり、壺の中からどうにか脱出した錦戸はペコリと頭を下げた。

「別にいいよ、頭下げなくても……。俺は月村悠貴。で、あっちが……」

「皆藤洋子です」

「服部沙苗です」

 皆藤と服部の名前を聞いた錦戸は驚いた様子で2人に話しかけていた。

「え、皆藤さんと服部さんって……あの、安達さんって知ってますか?」

「え、知ってるも何も同じ教室ですけど……」

「そ、それが何か……?」

「そっか……。やっぱり同じ奴だったか」

 錦戸が1人納得している前で皆藤・服部は状況が理解できず目をパチクリさせていた。そんな中、月村だけは理解できたようで相づちをうった。

「つまり、ミイラ取りがミイラになったってことか?」

「え、月村さん、どういうことですか?」

「錦戸さんは安達さんっていう人もしくはその友人からお前らが誘拐されたことを聞いて、変な正義感を発揮して2人を助けようと誘拐犯を探していた。で、見つけたはいいが、見事に返り討ちにあって、下半身を蛇にされてこの壺に放り込まれた……ってとこだろ?」

「へ、変な正義感って……。だいたいそういうとこですけど……」

「なんでそんな無茶なことを……」

 皆藤が呆然とつぶやくと錦戸は照れ臭そうに頬をかいた。

「いや、こんなことするのはヒョロい、見るからにニートみたいな男だと思ったんです。それなら軽く成敗出来るかなって……」

「ん? なんか格闘技でもやってたの?」

「一応空手2段です」

「へぇ……それでも返り討ちか……」

「はい……見事に頭掴まれて地面に叩きつけられました……」

 白衣の男の行為を不快に思ったのか服部の眉間にシワがよる。

「何ソレ? 女の子に対してそれは酷すぎだと思う」

「いや、私もおもいっきり締め付けてましたから、あっちも必死だったんじゃないですか?」

「反撃したんですか!?」

「はい、見事に解かれちゃいましたけど」

 そう言いつつも、錦戸はどのように解かれたのか一貫して明かそうとしなかった。



 一通り情報交換が終わると、月村は錦戸に各部屋の案内を始めた。これから生活していくんだからどこに何があるか知っとかなきゃな、とは月村の談である。

「まず、ここは寝室。あの藁の上で寝てる」

 錦戸は部屋の隅に乱雑に積まれている藁を見ると、表情を固くした。

「家畜同然の扱いなんですね……」

 錦戸の顔がしかめっ面になると同時に、声に怒気が混ざり始めた。

「まぁね……。とはいえ意外と寝心地はいいよ」

「そういう問題じゃないと思いますが」

 正論を叩き込まれ、月村は何とも複雑そうな顔になった。


 次の扉が開かれるとそこには通路があり、また別の扉が2つあった。

「奥の方が風呂で、手前のはトイレ。全部個室だよ」

 トイレの部屋に入ると、月村は3つの個室全部の扉を開けた。するとその中を見た錦戸は戸惑ったような表情を見せた。

「……和式と洋式はわかるんですが……なんですかこの穴?」

 錦戸が指さした1番右の部屋にはどれくらいかわからないが、とにかく深そうな穴がポッカリとあいていた。

「えーっと……錦戸さんみたいな人用……かな?」

「はぁ?」

「いや、だってその体じゃ座れないだろ?」

 蛇の部分を指さされた錦戸ははっとした顔になった。

「そ、そうですね……」

「俺も来た時は何のためにあるのかわからなかったんだけどな。たぶん完全に獣の姿になっても精神を狂わせないように、人間に近い生活が出来るように設計されたんだと思うけど」

 月村は手を使わなくても済むようにするためか、本来あるはずの場所に鍵がついてない扉を叩いた。


「うっわー、無駄に広い……!」

「でしょ?」

 2人の目の前に広がるは、50人は余裕で入れそうな大浴場だった。

「でも、錦戸さんの巨体が入ると4分の1は埋まるんじゃないかな?」

「そこまでは大きくないですよ! さっき測りましたけど月村さん2人分だったじゃないですか!」

「冗談だよ。本気にすんな」

「む〜〜……」

 あまりにもあっけらかんとした笑みを浮かべる月村に錦戸はむっとした顔になった。

「なぜかシャンプーとかボディソープとかアヒルのおもちゃとかお風呂用品は完備されてるんだよなー。あ、あと皆藤さん、あんな体だから洗ってると面白いよ? 泡がものすごいたってさ」

「…………あの」

 錦戸はどこか釈然としない様子で問いかけた。

「ん?」

「さっきから聞いてると、藁のベッドは寝心地いいとか羊の体洗いは面白いとか、別にこのままでもいいと思ってるように聞こえるんですけど」

「はぁ? そんなこと思ってるわけないじゃんか」

「じゃあなんでそんなに楽しそうなんですか?」

 錦戸からの責めるような視線を受け、月村は軽くため息をついた。

ちなみに月村の身長は耳抜きで約180cm。

錦戸が言ってる「月村2人分」は耳込みでの長さ×2の意味です。

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