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人獣牢獄  作者: 臼杵 碧
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壺と訪問者

「はい、あーん」

「あーん」

 ある日の食事風景。月村はいつものように皆藤の口にニンジンスティックを突っ込んでいた。

「美味しいか?」

「ふぁい、美味しいです」

 月村からの質問にニコニコとニンジンを頬張りながら答える皆藤。その様子を服部は翼で視界を一部遮りながら見ていた。

「冷静に見ると凄い光景よね……」

「「え?」」

 服部のつぶやきに2人が反応する。

「だって、顔と声だけみれば十分百合じゃん、レズじゃん、ガールズラブじゃん」

「…………」

 すると月村が見るからに嫌そうな顔をした。確かに見た目はバニーな美少女だが、中身はどこにでもいる真面目な青年である。色々思うところがあるのだろう。

「服部さん」

「何? 洋子」

「言っても良いことと悪いことがあると思う」

「……そだね」

 その時、ガタン! と外から大きな音が聞こえた。

「な、何!?」

「……来たか」

 服部と皆藤がビクつくのをよそに、月村はため息をつきながら立ち上がると部屋の隅にある扉へとむかった。そこはここに監禁されてから約一週間経った服部と皆藤もこの奥に何があるのか教えてもらってない扉だった。

「え、何が来たんですか?」

「見ればわかる」

 そう言うと月村が扉を開けた。皆藤達がその後ろから覗き込むとそこは1つの小部屋があり、1番奥には銀色に光る金庫のような巨大な扉が、さらにその前に茶色い壺が転がっていた。

「……あの扉は?」

「多分出口。でも解除方法は知らん」

 そう言うと月村は壺に近づき、それを持ち上げようとした……が

「うわっ、重っ……!」

 月村は壺を床から離すことすら出来なかった。

「あ、手伝います!」

「わ、私も!」

 そうして3人がかりで激重な壺を半ば引きずりつつ、居間と呼んでいる大部屋へと運ぶことに成功した。運び終わると皆藤がキラキラした目で話しかけた。

「これ、何が入ってるんですか? ものすごく重かったですけど……もしかして人間に戻れる薬とかですか!?」

「それはない」

「……速攻否定ですか」

 月村に予想を否定されちょっと凹んだ皆藤をよそに、服部は壺を眺めながら言った。

「あのー、月村さんはこの中に入ってるのが何か知ってるんですか?」

「知らないけど、予想はついてる」

 服部からの問いかけに月村は壺を叩きながら答えた。

「ちなみにその予想は?」

「聞きたいなら言うけど、あまり気分の良いやつじゃないぞ」

「別に良いですよ。ここにいる時点ですでに気分悪いですから」

「……4人目の被害者」

 月村は服部の言葉を聞くと前置き無しに自分の予想を告げた。すると服部は自分もそう予想してたのか、軽く息をついてから舌打ちした。

「……やっぱりですか」

「個人的には外れて欲しいけどな。……じゃ、開けてみるぞ」

 月村はそう言うと壺の口からフタを引き抜き、中を覗き込んだ。次の瞬間、月村の眉間にしわがよった。

「……どうでした?」

「……的中だ」

 中には人間の片脚と下半身が蛇になっている女の子が無理矢理詰め込められていた。


ーーー


「失敗、ですか」

 蛇女と化した錦戸を部屋に放り込んだ後、白衣の男は1人の訪問者と紅茶を飲みながら話をしていた。

「ええ。一応外見だけは立派な物になりましたがどうも内面が……」

「外見だけなら出来てるのか? ではそれを見せてもらおうじゃないか」

 挑発するように言いながら訪問者が立ち上がる。すると白衣の男はそれをあっさりと返した。

「あ、いいですよ」

 白衣の男は訪問者を奥の部屋へと案内した。


「では、電気つけますよー」

 白衣の男が明かりをつける。すると訪問者の口から驚嘆の声が漏れた。

「どうですか? 安倍さん」

「これは……見事だ。さすがは博士、少しでも疑ってしまった私がバカみたいだ」

 安倍、と呼ばれた訪問者の目の前には鉄格子の中に入れられたあの獣のような物の姿があった。安倍が興奮冷めやらぬ様子で白衣の男に賛辞を送っている中、熱い視線を送られていた獣は「ヒュー……」とまるで笛のような音で小さく鳴きながら目をそらした。

「ありがとうございます。しかし先ほども言いましたが肝心の中身は生贄になった者のままです」

「なぜだ。『憑依の札』は十分に渡しただろう?」

「はい、この形になってから早速使ってみましたが例のあれに転移することはありませんでした」

「……そうか。なら今から作って貼り付けてみよう」

 そう言うと安倍は懐から黄色い札と筆ペンを取り出しサラサラと何か漢字を書き始めた。白衣の男は興味津々で安倍の手元を覗いてみたが、達筆すぎて何を書いているのか判別することは出来なかった。

「食品と同じでお札にも消費期限があるのですか?」

「いや、ない。しかし作りたての料理が1番美味いのと同じで、お札も作りたての物が1番効果を発揮する物だ」

「なるほど……。すいません、勉強不足で」

「なに。専門が違うのだ、わからなくて当然だろう」

 安倍が筆ペンを仕舞うと獣は何か不穏な物を察知したのか、安倍から距離を取るように後ろへ下がった。しかし狭い鉄格子の中、目一杯下がっても十分に安倍の手が届く距離しか下がれなかった。

 嫌がる獣の額に札が貼られる。すると獣は悲鳴にも近い叫びをあげながら床を転がり始めた。

「……ここまでは私も行ったんですよねー」

 白衣の男がそうつぶやくと、札に書かれた文字から突然煙が立ち始めた。それと同時に獣の悲鳴が1オクターブ高くなった。

「さぁ、目覚めなさい! 本来の姿に!」

「ヒィュゥゥゥゥ!!!」

 安倍の声と獣の悲鳴がシンクロする。その時、煙を出していた文字が光りだした。

「む?」

 安倍の表情が曇る。すると札は爆ぜて消えた。



「これからどうするのかね?」

 憑依の札が発動しなかったことを見届けた2人は研究所の出口で再び話をしていた。

「一応、第2候補の方を進めています」

「ああ、12の力を生贄に捧げるアレか……。犠牲者が多いから出来るだけ使いたくなかったがな」

「はい。それでも背に腹はかえられませんからしょうがないでしょう。しかし1つ問題が……」

「何かね?」

「今のところ、4人の生贄を捕まえたのですが、皆完全に変体しないのです」

「……薬は何を使った?」

「え、安倍さんから教えてもらった物ですが……」

「それじゃあダメだ」

 安倍は目をつむりながら首を振った。

「な、なぜですか?」

「あれは人間の体の一部分だけを獣にするもの。畜生に近い者に与えれば完全に変体することもあるだろうが、生贄に使えるような健全な者にはいくら与える量を増やしても完全に姿を変えることは出来ないだろう」

「で、では計画は中……?」

「いや、不可能ではない。完全に獣にする薬は別にある。ただそれを造るには全く別の材料を使う必要がある。そしてその材料は揃えられる……しかし」

「しかし?」

「その分量がわからない」

 安倍が無念そうに言うと、白衣の男は真面目な顔になって口を開いた。

「わかりました。それではその材料を集められる限りこちらにください」

 すると安倍が驚いたように白衣の男を見た。

「まさか、一から薬を造る気かね!?」

 白衣の男は顔色1つ変えずにうなづいた。

「もちろん。大事なパトロン様の悲願ですから。途中で投げ出したりはできませんよ」

 そう白衣の男が言うと、安倍はニンマリと嬉しそうな笑みを浮かべた。

「そうか……君に任せて正解だった……。ではあれはどうするのかね?」

 安倍が思い出したように言うと、白衣の男は笑いながら答えた。

「ああ、あれは一応飼っときます。殺しても処分に困りますし、うっかり逃がしても、あれがパソコンを使って警察にここをバラしたら大変なことになりますからね」

「確かに。パソコン(あれ)は口や手が使えなくても、何か叩く方法さえあれば意思表示が出来るからな」

「そういうことです。では材料の件、よろしくお願いしますね……」

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