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異世界紳士録  作者: ガー
2つの太陽
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1-7

この世界は誰かが作ったプログラムなのかもしれない。




突然視界にウィンドウが現れる。


染み付いた仕事の経験からそれがブレークポイントで止まったデバッグ窓であることに気付く。


嗚咽と震えは止まってはいないが、視線はデバッグ窓に移っていた。


あるif分岐で処理が止まっている。


昨晩の徹夜で自分に仕込んだ事を思い出す。俺の実体操作インスタンス・オペレートは自分自身にも有効だったのだ。


俺自身を右クリックしたコンテキストメニューの「送る」の先に信じられないものをみる。


そこにあったのは統合開発環境。


昨晩いや朝方か。元の世界の仕事知識をフル動員し、自分自身の逆アセンブルに成功。


今の自分の状態はデバッグプロセスで監視されている。


コード文字は読めなかったが、規則を見つけif分岐と脱出までは見つけだした。


知らない世界での万が一に備えて、そこからはマコさんから借りたナイフや部屋のランタンの火などで体を傷つけ、ブレークポイントとステップ実行でケガをするメソッドを調べたのだ。


つまり現在デバッグ窓が開いたという事は自分の身に何かしら危険が迫っている事を意味する。


気付けば思考だけが仕事モードに切り替わっている。


ナイフで指先を切った時、同じくこのif分岐で止まっていたはずだ。


ならばナイフで斬り付けたはずの指先に何も起こらなかったステップ実行先とは。




疾風申ゲイルモンキーは力を込めて腕を振り落とすとその先にいる獲物が赤く染まるのが大好きだった。


当然のように3匹目が赤く染まるのを期待したのだが不思議な事に3匹目は赤くならない。


そんなはずは無いともう一度、力を込めて腕を振り落とす。


ヒトの魔導士が使う「風斬」ゲイルカッターの魔法の効果を、魔物である疾風申ゲイルモンキーは腕から放つことが出来る。

カマイタチに似た真空の刃を放つ「風斬」ゲイルカッターの魔法はヒト程度の皮膚や肉ぐらいならば易々と切り裂く効果を持っている。


だが3匹目のヒトはまたしても赤く染まらなかった。


ムキになった疾風申ゲイルモンキーはさらに2度、3度、4度と力を込めて腕を振り落とす。


だが一向に目の前の3匹目は赤くならない。




自分自身のデバッグ作業に集中したせいか、クラスは冷静さを取り戻し始めていた。


苦しかった呼吸はどこへやら今では興奮状態で鼻息が荒い。


いい加減このブレークポイントがウザくなってきた。


目の前の毛むくじゃらが腕を振り回す度にデバッグ窓が開くのだ。


俺は天才プログラマ(高給取り)などではない。量産型のただのIT土方(最底辺)だ。


いちいち前後関係をよみとって最適なコードを瞬時に組み立てられはしない。


とりあえず動けばいい。不具合ならば後で時間(いいわけ)を掛けて直す。


面倒くせぇ。取っちまえ。


クラスは今までメソッドへの入力オブジェクト内のプロパティ変数を手動で書き換えて、if分岐を脱出アボートさせて、「風斬」ゲイルカッターの自身へ及ぶ効果を無効化していた。


そのif分岐ブロックを脱出コードを除いてコメントアウトし、処理続行。


そのメソッドはif分岐後の処理コードを無視することになる。



疾風申ゲイルモンキーは一向に赤く染まらない3匹目に業を煮やし、カマイタチを右手の爪にまとわせる。


そして足元に力を込めて、3匹目を切り裂こうと飛びかか・・・・・・・ろうとした。



トムは倒れているチコしか目に入らない状態だったが、突然自分が申に斬りつけられてできた血溜まりに何かが倒れてきたことで、そちらに意識が向く。


そこにはいくら憎んでも足りない疾風申ゲイルモンキーが舌を出して倒れていた。


舌の根元から自分と同じように赤い血がピューピューと噴出している。


よく見れば疾風申ゲイルモンキーは上顎から上の頭部がなくなっていた。



クラスはコメントアウトした後にデバッグ窓がもう開かないのを確認すると、腕を振り回していた大きな毛むくじゃらの頭部を無造作に矩形選択し、切り取ったのだった。

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