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それからは視界の中の世界に夢中になった。
できること、できないことを調べていく。
できることはさらに効率よくできる手段がないか。
できないことはできることの組み合わせでできるかどうか。
あっという間に夕食の時間になる。
トムさんに食事をしながら問いかける。
「魔法っていうのは誰もが使えるものなんですか?」
「魔法でこんなところに跳んできたやつが何をいってんだ?」
「いや・・・こんなに遠い所は初めてで・・地方や国によって違うのかと」
「そうだな・・俺も他の国に知り合いがいるわけでもないしな。
俺なんかは使えねーよ。マコも使えない。チコは・・・・どうだろうな?
将来はどうなるかわからねーが、親が使えない限りはめったに使えるやつはいないんじゃねーかな?」
「親が使えれば子供も?」
「そういう話は良く聞くな。魔導士どうしの結婚が決められた国もあるっていうし」
「・・・例えば、物を自由に浮かしたり、移動させたりっていうのは魔法なんですかね?
・・・この国では」
「どうだろうなー。こんな所に住んでる俺が詳しい魔法の話ができると思うか?
王都の魔法雑貨屋にでもいけば聞けるかもな。
しかしどうした急に。今日までの畑仕事だってクラスは魔法なんて使わなかったろう?」
チコちゃんが割り込んでくる。
「おじさんはねーお庭にお池を作ってくれたんだよー」
「池? そらー大雨の後はいつもできてるだろう?」
「・・・まぁ明日の朝に庭を見てください。都合が悪ければ直します」
「ふーん」
トムさんはあまり興味がなさそうだ。
「ところで、もう酉の月になったんだ。そろそろ町へ作物を卸しに行きたいんだが。
クラスも約束どおり町まで送ってやれるがどうする?
ここが気にいったんならまだまだ居てもいいが。なぁマコ」
「そうだねぇ。自分の食い扶持ぐらいは働いてるし、チコの面倒も見てくれてるしねぇ」
畑仕事に慣れ始めたころだ。申し出はありがたいが、突然この世界にやってきたんだ。
突然あのデスマーチ中のトイレへ戻ってしまうこともあるのかもしれない。
魔法が当たり前らしいこの世界なら、帰る手段を探すことも悪くはない。
「大変お世話になりました。そろそろ帰る手段を探します。
町までお願いします」
「そうか。じゃぁ明日には荷午車を用意して町へいこう。マコもいいな?」
「あいよ。チコ。クラスのおじさんが明日でお別れだって」
「えー?」
「また会いに来るよチコちゃん」
今宵の夕飯はいつもより騒がしく、ちょっぴり切なかった。
自分の部屋に戻ると、さらに能力の解析を続ける。
区切りがついて結局寝たのは次の日の明け方になってからだった。
朝になり庭の様子を見てトムさんが驚いている。
「クラスがこれをやったのか?」
「駄目でしたかね?」
「いんや大助かりだ。この庭は水はけが悪くてな。いつかはやろうと思ってたんだが面倒でな。雨もこの時期はそう降らないし。花壇そばの池もか?」
「えぇ。池というよりは囲った水たまりみたいなもんで」
「マコも花壇に水が遣りやすくなったろう。こんな魔法は見たこともないが便利なもんだ」
トムさんは小川へ続く側溝などを繁々とながめながら庭を確認している。
「畑仕事にもいろいろ使えそうだが、魔法なんてのに頼っちゃいけねーよな」
「その考え方を持っているトムさんなら大丈夫でしょうけど」
トムさんは背伸びをしながら、
「そろそろ出発の準備をするかー。ダメでもまた家に戻ってくればいいさ」
「どのくらいで着きますかね?」
「明後日の昼には着くだろ」
俺の実体操作を使えば世界中のどこだろうと数分だろうが黙っておく。
のんびりと旅をするなんてのは数年ぶりだからだ。
「マコー。昼には町に発つぞー。
クラスは午を厩舎から庭まで引っ張って来てくれ」
「はい」
「俺は納屋から荷車と作物を出してくる」
池での泥遊びを中断し、チコちゃんも納屋へ行くみたいだ。
何とはなしにトムさんとチコちゃんをコピーしクリップボードへ貼っておく。
実体であれば何でもコピーできるんだな。