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異世界紳士録  作者: ガー
笑顔と復讐と星空
28/33

3-13

「おい! 起きろ! こんなところで……あーあー汚ぇなもう。客だぞ! 客! お前に客だって言ってんだ!」


ドルプが起こしているのは、トイレの便器に抱きついて寝ているクラスだ。


外から戻ってすぐに気持ち悪くなり、駈け込んだトイレでドルプの作ったツマミやら、酒場で食べた炒り豆やらをすべて吐き出し、そのまま眠ってしまったらしい。


着ている肌着も吐瀉物で汚れており、とても客を迎えられる状態ではない。


「止めなかった俺も悪いんだが……。どうしたもんかな」


「うぅ……。頭が……。あ、ドルプさん……おはようご……ざいます」


「おっ起きたかクラス。お前に客だぞ。ここは俺がなんとかするからお前は風呂に入って着替えろ」


「ふぇ? 着替える?」


クラスは自分の肌着を見て、嫌な顔をする。


「……すいません。お言葉に甘えます」


ふらつきながらも風呂場へ向かっていく。


クラスは脱衣場で脱ぎ捨てた服を、湯を張った桶に指でつまんで入れてから風呂に入った。


もちろん風呂の湯は冷めていて、水とまではいかないがどうにも微妙な温度だ。


(うぅ~頭が痛い。胸もむかつく。早いとこなんとかすべぇ)


クラスは自分自身を右クリックで選択し、メニューから『バージョン管理システム』内の『ログ表示』を選択した。







クラスは万が一のために自分の生体コピーを毎日行っている。


今では、ついでにとドルプやイネアなど仲の良い者達の生体コピーも、彼らに出会うたびに行っていた。


いつしかクリップボードを埋め尽くす生体コピーの山。


生体コピーは日毎に増えていく為、とても管理できない数に膨れ上がっていった。


なんとかせねばと思っていたクラスは、『統合開発環境』と同じように、コンテキストメニューの中に

『バージョン管理システム』があることに気付く。


クラスは早速リポジトリを作り、クリップボードオブジェクトを次々とチェックインしていった。


リポジトリの中には、もちろんクラス自身の生体コピーも世代管理されている。







クラスは、コミット履歴を表示するログ表示ツリーをスクロールさせていく。


(これでいいか……)


スクロールを止め、何日か前にコミットした生体コピーを選択した。


コミットコメント欄には"うんこすっきり"と書かれている。


選択した生体コピーに右クリックを行い、『このバージョンに戻す』を選択すると、瞬時にクラスの体調は"うんこすっきり"だった状態へ復元された。


(よーし。頭痛もむかつきも消えたな。……あ)


ふと見た備え付けの鏡に写ったのは髭面の男。


(格好つけようと思って伸ばしてた時のやつだ……)


「おい! 客が待ってんだぞ! 早く出ろ!」


ドルプが大声でクラスを呼ぶ。


(おっと。客がいるんだったな。それにしてもやけに外が騒がしいな……)


クラスは髭を剃るのを諦めて、風呂を出て自分の部屋に戻る。そして着替えると客が待っているであろうドアへと向かった。








「はーい。どちら様?」


ガチャリとドアを開けたクラスが見たのは、見覚えの無い1人の女性だった。


(おおぅ……なんつー美人さんだ。前に行ったキャバクラのNo1なんか足元にも及ばねぇ!)


「おはようございます。……クラスさん? ですよね?」


たった一晩でありえない程の髭を生やしたクラスに、疑問系でカルナは挨拶をする。


「あ・・ああ。おはようございます」


「ああよかった。実は昨晩の件で……」


クラスはカチャリと何も言わずにドアを閉めた。


風呂に入ったばかりだというのに、クラスの額に大粒の汗がダラダラと出てくる。


(何をした? 何をしたんだ昨晩の俺は! たしか酒場でラジムさんと飲んでたはずだぞ? そして酒を買って一緒に飲んで……。それから……それからどうした? なんであんな美人が俺を訪ねてくるんだ?)


そんなクラスの背後で、トントンとドアが叩かれる。


「クラスさん? カルサの姉のカルナです! クラスさん?」


(カルサちゃんの姉? ……もっとヤバイじゃないか! おいおい待て待てまさかカルサちゃんになんかしたってのか? いくら俺が若い娘が好みだからってそんな……。あんな娘みたいに年の離れた女の子に? あーあー聞こえなーい。チクショウ、元の世界の父ちゃん母ちゃんとうとう俺は性犯罪に手を……。)


頭を抱えて身悶えるクラス。


(……。もうこの惑星(ほし)ごと消しデリートちゃおっかな……)


カチャリとドアが開く。だが誰も顔を出さない。


カルナが恐る恐るドアを開くとそこには、


額を玄関のタタキに擦り付けるクラスの姿があった。


「あのー?」


「すいません! 覚えていないとはいえとんでもないことを! お金ですか? お金なら何とか当てがあるのでなんとか! 責任を取れと言うなら何でもいたします! えぇ犬と呼んで下さって結構です!」


カルナの後ろからカルサがひょこっと顔を出す。


「……おじさん。何してる?」







クラスは自分の部屋ではとても3人は入れないと、ドルプに頼んで家の応接間を借り、2人を家に上げた。


3人の後ろでは、ドルプがニヤニヤしている。


クラスは満面の笑みで、


「ハッハッハッそうですか。カルナさんの所で、カルサちゃんとジャンケンをしただけですか。そうですかそうですか」


「ええ。クラスさんはとても上機嫌でいらっしゃいまして、私の催し物に立ち寄ってくれたんですよ」


「少し飲みぎてしまいましてね。あまり覚えていないんですが。カルサちゃんがお姉ちゃんのお手伝いをしていると学校の帰り道で聞きましてね。それで寄っていったんでしょう」


カルナの隣でカルサはおとなしく、出された炒り豆茶(コーヒー)に恐ろしいほどのきび砂糖を入れて飲んでいる。


おずおずとクラスは、


「もう一度聞きますが、何か失礼なことはしませんでしたかね? 先程も言いましたとおり酔っていたもので」


「そういえば……」


ガタンとクラスは椅子から立ち上がる。


「そういえば!?」


カルナはにっこりと笑い、


「失礼な事は何も」


クラスは力が抜けたように、椅子に座りなおした。


(手玉だ。こんな若い娘に手玉に取られてるじゃないか……)


「ふぅー。そういえば何か用件があって来られたのでは?」


取り繕ってクラスは話題を変える。


カルナは炒り豆茶(コーヒー)に何も入れずに1口啜って、


「実は……」


カルナはクラスの顔を見て話し始めるが、どうにもクラスがそわそわしている。


「ちょっと待ってくださいカルナさん。なんだか外が騒がしい。ドルプさんわかります?」


クラスは振り向いて、ドルプに問いかけた。


「外なんてどうでもいいじゃねぇか」


「でもなんだか気になって。カルナさんすみません。ちょっと見てきます」


クラスはそう言うと応接間から出て行ってしまった。


「アタシも行く」


カルサはそう言うと、炒り豆茶(コーヒー)を一気に飲み干し椅子から立ち上がる。


「……もう!」


カルナも渋々席を立ち、カルサと共に玄関へ向かう。


「……もっかい寝るか」


取り残されたドルプは大きく欠伸をすると、寝室へと戻っていった。

Tortoiseをタートルって言う人がまわりにいるんですが。

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