3-8
夜が明け、討伐隊はカイミへ向かい出発する。
昼前に町へとついた一団は、先日の早朝と同じように町の外壁の一角で騒がしくしている。
全くの無駄足でしかなかった討伐隊だが給金はきちんと払われたようだ。
「すいません。ついていっただけの俺はやっぱり貰えませんよ」
「遠慮するな。そんな事をいったらここにいる奴らは何もしてないんだから、誰もこの金を受取れないじゃねぇか」
初対人、しかも団体戦闘だと思った仕事は、バラバラ死体を見てゲロという結果に終わったクラスがドルプの払う給金の受け取りを渋っている。
「じゃあこうしましょう。しばらく家賃を値下げするというのは!」
「もっと下げろって言うのか・・・」
「・・・ですよねぇ」
「黙って受け取れ。時間の無駄だ」
「はい・・・」
「さーて。俺は他の奴らに金を渡して帰るから。クラスは解散でいいぞ」
「お言葉に甘えますね。あとこれ」
クラスは懐から取り出したナイフをシースごとドルプへ返す。
「おう。使わないで終わっちまったな」
ドルプ達と別れトボトボと下宿先へ向かうクラス。
グゥ~。
クラスの腹が鳴る。
(食欲が沸かない・・・。思い切って眠ってスッキリしてみるかな・・・)
目をつぶると腹が鳴る原因となったあの光景がまだ鮮明に思い出せるのだ。
下宿へ戻ったクラスは風呂にも入らず、寝床へつく。
たまにうなされビクッとなるが、とりあえずクラスは眠りについたようだ。
夕方、太陽の一つが完全に地平線へ消えた頃。
カイミの商店街の一角に奇妙な催し物が開催された。
木の机1つと主人の座る椅子1つといったシンプルな催し物だ。
催し物の主人は女性であり、惜しげもなくその白い柔らかそうな太腿を軽く広げて机の下から出している。
だが大事なところは机から垂れ下がっている紙1枚で見えない。
主人のふわふわな髪は後ろでアップにされており、10人中10人は美人だと言うであろう顔つきだ。
それだけではない。机の上には道行く人を引き付けるモノが載っている。
蓋の開けられた宝箱が載っており、その中に見えるのは窮屈そうにみっしりと詰まった金貨だ。
中には隣国マーグの金貨も入っている。
その宝箱の隣には、鈍く輝く銀色の石。
垂れ下がった紙には、
----この石を傷付けられる方を探しています。
傷付けた方には、机の上にあるものをすべて差し上げます。
挑戦料:1回 ミゼリア金貨3枚----
と書かれている。
催し物の主人はカルナだった。隣にはつまらなそうにカルサが立っている。
「もうカルサちゃん。愛想よく笑ってよぅ」
姉の言葉にカルサは、口の両端を持ち上げた。
「・・・顎を出して挑発しているようにしか見えないんだけど」
「愛想がいい」
「もう。マーグでもそうだったんだから」
遠巻きにニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべた男達が催し物を見ている。催し物が机の下にあればだが。
「たまんねぇよな」
「ああ。たまんねぇ」
何がたまるかは分からないが、いつの間にかカルナ達のまわりは男でいっぱいになっている。
そしてついに、
「おう。ちっと聞きてぇんだがネェちゃんよ」
「はい? なんでしょう?」
「机の上のモノってことは、そのネェちゃんの体もってことだよなぁ?」
男が指差した先に、机の上に載っているカルナの胸がある。
「さぁどうでしょうね」
質問をしてきた男にニッコリとカルナが笑いかける。
「よーし。金もネェちゃんもまとめて俺がいただきだ!」
机の上に男が金貨を3枚落とす。
はずみで落ちた金貨をカルナが拾うため、座ったまま上半身を傾ける。さらに足が広げられた。
「「「おおっ!」」」
取り巻いている男達が一斉に体を傾ける。
だが大事なところは見えない。
拾い終わったカルナが姿勢を戻すと、男達の姿勢も元に戻る。
「頑張ってくださいね」
「ハッハー。任せておけ」
男は石を地面に置き、腰から抜いたナイフで突く。
パキーン。
石が傷つくことは無く、男のナイフが根元から折れてしまう。
「おう。短剣が! でも石に傷が・・・ない?」
石を拾い上げた男は、目を皿のようにして石を見るが傷はない。
差し出されたカルナの手に渋々石を戻す。
「またの挑戦をお待ちしております」
取り巻いている男達は、
「ハハハ。情けねぇ。石じゃなくて自分の得物折っちまいやがった」
「うるせぇ! ならお前がやってみろ!」
「言われなくともやってやるさ!」
次々と男達が挑戦していく。
山賊達のようにあらゆる手段が試されたが、一向に石が傷つく様子はない。
「なんなんだ。あの石は・・・」
「お宝目の前にしてよぅ」
「俺の剣が・・・」
カルナ達の周りは野次馬だけになってしまった。
ため息をつくとカルナは、
「しばらくこの町で毎日やっていますので、また来てくださいね」
ニッコリと男達に笑顔を振りまき、机を片付け始めた。
「よぉーし。家に置いてきた剣さえあればこっちのもんだ!」
「おい。武器屋のアレならいけるんじゃねぇか?」
まだ挑戦できると聞いて男達は、色々と考え始めたようだ。
ドンドンと扉が叩かれる。
「おーい。クラス、帰ってるか? 飯ができたがどうする? 食えるか?」
クラスは目を覚ましたが、飯という言葉を聞いて、
「・・・すみませんドルプさん。今日はやめときます。まだ吐き気が・・・」
「そうだろうな。俺だってしばらくそうだったからな。わかった。風呂にでも入って今日は寝ちまいな」
「そうします」
(うあー。早く脳裏から消えてくれぇ・・・)
記憶からバラバラ死体を削除できればどんなに楽かと思うクラスだった。




