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異世界紳士録  作者: ガー
笑顔と復讐と星空
22/33

3-7

篝火が辺りを照らす。


討伐隊が夜を明かすために陣を張っている山道の中腹。


クラスとドルプは陣の見張りをしている。


3交代制の今の時間は隊の魔導士が一緒のようだ。


ドルプと魔導士は顔見知りのようで、


「クラスは初めてだったな。こいつはチリル」


「よろしく」


「こちらこそ」


「チリルは学校で読み書きを習ったら魔導に目覚めた奴でな。元々は俺達の賞金稼ぎ仲間だったんだ。トムの事もしってる」


「トムかぁ。トムの農場に?」


「ええ。新型の転送魔法の実験でミゼリアに跳ばされましてね。随分とお世話になりました」


「トムにも長い間会っていないな~」


「チリルはカイミに留まっていないからな。トムだってガキができてからはそうそう町には出てこない」


「カイミの常駐魔導士は多いからねぇ。賞金稼ぎ上がりの魔導士はあっちこっちで御用聞きばっかりだよ」


「いい機会だ。クラス、魔法について聞いてみたらどうだ。本職の話は後々役に立つぞ?」


「じゃぁ聞いてみようかな。チリルさんは王都の養成所にも行ってたんですか?」


「行きはしたよ。そうしないと国の登録魔導士になれないからね。でも嫌な所だったなぁ」


「嫌な所?」


「僕みたいな年をとってから魔導に目覚めた者は、先祖代々魔導士やってる奴らから見たら面白くないみたいでね。いろんな嫌がらせがあるのさ。養成所で魔導士になるのを諦める奴だってたくさんいるんだ」


「たくさんですか・・・」


「僕なんかは仕事に使えそうな魔法だけ覚えたら、魔導士登録して通わなくなったよ。だから本当はもっと多くの魔法属性が扱えたのかもしれないって後悔してるけどね」


「自己流じゃ駄目なんですか?」


「できなくはないだろうけど、毎日魔法の事だけ考えてたら生活できないよ。国だって魔法を教えたらさようならじゃ困るから一般人には魔導図書館を開放していない。魔法習得に必要な、印だったり魔方陣だったり呪文なんかは後は口伝しか方法がないんだけども。野良の魔導士に教えを乞おうったって目玉が飛び出るほどのお金払わなきゃいけなかったりね」


「厳しいですねぇ」


「まぁね。でも範囲、単体の攻性魔法と警戒魔法は死ぬ気で覚えたから3級魔導士にはなれたんだよ。今は種類を増やすよりは習得した魔法の発動速度を上げたいと思ってるんだ」


「3級?」


「あぁ。魔導士の目安があってね。習得した魔法数と種類、再現性を総合的に判定して5級から1級まで階級があるんだ。4級と3級じゃ給金が倍近くなるからね。1級なんてミゼリアじゃ数えるほどしかいないよ」


「そもそも魔導に目覚めるってなんなんですかね?」


「クラスはミゼリアの学校で読み書きは習った?」


「今は辞書が引けるくらいにはなりましたよ」


「うーん。そこまで行っちゃうとクラスには魔導の目覚めがなかったってことかな」


「どういうことです?」


「ミゼリアの学校で使ってる読み書きの教導書には、ある仕掛けがあってね。魔導士だけが読める文字が魔法で印字されてるんだ」


「てことは・・・」


「まぁ秘密を知って魔導士に成りすまそうとしてもすぐにばれるから言うけども、そこにはこう書いてある。講師に合言葉を伝えなさいとね」


「そんな文章は今まで見たことがありませんね」


「辞書の読み書きまでできてるのに、合言葉が読み取れてないってことはクラスは魔導士にはなれないかもってことさ」


「そうですか・・・」


「落ち込むなよクラス。俺だって読めなかったしな。ハッハッハ」


落ち込んだように見えたらしい。ドルプがフォローしてくれる。


(俺が魔導士じゃないとすると、俺の実体操作インスタンス・オペレートは魔法じゃないってことになるな・・・)


自分の能力を紐解いた先に、この世界に来た理由があるのではないかと考えていたクラスは、手始めに魔法を手がかりに自分の能力を調べようと思っていた。


だがクラスは魔導士ではないらしい。


魔導士でなければ、魔導の目覚めがなければ魔法は使えないと聞いている。


「魔法を使ってみたかったんですけどね。まぁ故郷でも使えませんでしたし。ミゼリアに来たからって使えるようにはなりませんよね」


「そうだね。どの国だって日常の中にほんの少し魔法を隠しておくらしいよ。見えるか見えないかの限界でね。魔導士だけが気付くように」


「それじゃ魔業マゴウ?ってのは魔法とは違うんですか?」


「元は同じモノのはずだよ。魔法のわざってぐらいだからね。僕は使えないけれど魔導の血が流れてさえすれば習得ができるって言われてる」


(こっちも望みが薄そうだ。何なんだ俺の能力は・・・)


「力を外に願うか、内に願うかの差だって僕は聞いたよ。さっぱり分からなかったけどね」


「理屈はあってる」


山道を見張っているクラス達の後ろのほうから、突然声がかかる。


「交代の時間だ。チリル」


「もうそんな時間かー」


ビクリとしたクラスとドルプと違い、チリルは接近してくる者に気付いていたようだ。


「こちらはラジムオースさん。同行してきた魔業士だよ」


「アンタの突撃凄かったぜ」


そう言いながらドルプが握手を求め、快く握手に応じたラジムオースは、


「あれでも抑え目の突撃だ。増強ブーストしか纏っていなかったしな」


「それでも俺には消えたように見えたぜ」


「あぁ。ありがとよ。さて、ぐだぐだしてないでさっさと休憩に行ってくれ。残党が追いかけてこないとは言い切れないからな」


「わかった。見張り頼むぜ。クラス、戻ろう」


「はいはい」


(魔業士ね。見た目には俺達となんも変わらないな)


「じゃあなチリル。また飲もうぜ」


「チリルさん。お話ありがとうございました」


「ドルプまたね。クラスもまた」


魔業に対していまいちピンとこないクラスは、そのままドルプと自分達の天幕へ向かった。

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