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異世界紳士録  作者: ガー
2つの太陽
2/33

1-1

納品現場デスマーチの午前3時。


目を瞑っても視界の真ん中にマウスカーソルが映っている。


月締め集計処理の合計が合わないバグが見つかり、我が担当チームはほぼ軟禁状態である。

絶賛稼働中のプログラムを止めずに修正せよとか、

なんと言う無茶振りをこのクライアントはするのか。

フォローしてくれるはずの部長は自宅で夢の中だろう。悪夢でもみればいいのに。


持ち込みノートでのデバッグはすでに3徹目に差し掛かった。

単体、総合どちらのテストでもこんなアホなバグは見つかっていない。

現場のピリピリムードとは裏腹に、すでに壊れ始めたチームメンバーはフリーセルに夢中だ。


何回目になるかわからないブレークポイントを使った1行ずつの処理確認。

ポチポチとステップ実行させてゆく。


「あ」


思わず変な声を出してしまう。

これだ。このif分岐はよろしくない。イコールとノットイコールが逆である。

なんだこれは? こんな単純すぎるミスなら単体でも潰せるはずだ。


ここを最後に触った奴は・・・・あいつだ。

納品前日にのくせにどうどうと辞表・・を出していったあいつだ。


だが実行jarを作成したのは、あくまでもこの俺。

納品前日に管理SVNにて更新日時に差異があったため、あわてて固めなおしたのだ。

まさか罠だったとは・・・


腹痛を言い訳に現場を飛び出してトイレに向かう。


すでに中年の俺は出世意欲はない。

だがこんなミスで責められるのは釈然としない。


個室に入り、しばらく携帯の落ちゲーで時間をつぶす。


無理やり止めて闇直しかな・・・


対策は決まった。背中の排水レバーを下に下げる。




ジャーという水の流れる音は聞こえなかった。


足下には土。


自分が素っ裸で畑らしい場所に座り込んだ状態になっている。


脳内にマンボ的な音楽ハァーウッッが流れ始める。


どうしてこうなった。


立ち上がろうとするが足がしびれていて土の上にころがる。


いったい俺が何をした。


「キャァァァァ!!」


女性の悲鳴が聞こえたが起き上がれない。


「これはちがうんだ!」


自分でも何が違うのか分からないが叫ぶ。

だが健闘虚しく女性は逃げてゆく。


あたりを見回す。明らかにトイレではない。あたり一面土だ。


遠くには山も見える。畑が切れるあたりには森。


足下を見ると妙なものが見えた。


空はいい天気だ。太陽が辺りを燦々と照らしている。


だが自分の影が交差しているとなると話が変わる。


いくら天気が良くても辺りに何もないのに影は交差しない。


空を見上げる。腰に手を当てて素っ裸で。


はたして太陽らしきものはあった。しっかりと2つ。


いったいここは何処なんだ。


ただ立ち尽くすことしか出来なかった。全裸で。




金髪の如何にも農夫ぽい男が女性が逃げていった方からピッチフォークのような物を片手にやってくる。

ヤバイ外人だ。言葉が通じるといいんだが。


両手を上にあげ笑顔で問い掛ける。


パードン(pardon)?」


「魔物が喋った?」


返された言葉は日本語にしか聞こえない。

だが油断はしない。

YESがNOの意味の国かもしれないのだ。


「ワターシハアヤシクナイデース」


「こんな怪しい奴は見たことがないぞ」


裏目に出た。


黒酉カラスみたいな髪と瞳をしやがって。黒酉の魔物だな!」


「違います人です人間です!」


「怪しい奴は皆そんな事を言う。だが弱そうだな。討伐報酬はいただきだ」


やはり言葉が通じないようだ。

涙が出そう。


小さな女の子が遅れてやってきた。


「チコ! 来るな危ない!」


「おとーさん。このおじさん泣いてるよ。まものは泣かないんでしょ?」


ちくしょういくらでも泣いてやる。


「ウワァァーン」


畑の真ん中で中年のオッサンが素っ裸で大泣きするかなり見たくない光景が完成する。


農夫らしき外人は完全に引いている。


「魔物より怖ぇぇ・・・。おい。わかったよ。悪かった。とりあえず話してみろ。俺の畑で裸で何してるんだ?」



こっちが知りたい。

余計大きな声で泣き出す裸の中年。


「・・・チコ。母ちゃんにとりあえず大丈夫だと言ってこい」


「はーい」


チコと呼ばれた女の子はトテトテと走って行った。


「俺はトム。ここらの畑の主だ。お前は?」


「ひっく・・えぐ・・。奥戸繰主おくと くらすです。クラスオクト」


「どっちが名前なんだ?」


「うぅ・・・クラスです」


チコが母親を連れてきた。


「ちょっとこれ」


チコと呼ばれた女の子の母親らしき人はオーバーオールのような衣服を差し出してきた。


「おう。俺のだ。とりあえず穿け」


いそいそと手渡された衣服を穿く。下着なしでズボンを穿くのはいつ以来だろう。


「クラスとかいったな。妻のマコと娘のチコだ」


手の甲で涙と鼻水をぬぐう。


「クラスです。魔物じゃないです」


マコはしげしげと俺を観察し、一応魔物でないことに納得したようだ。


「さっきは突然だったから。ところでここで何を?」


「おう俺もそれを聞いてたんだ」



大事なことなのでもう一度。俺が知りたいんだ。

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