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異世界紳士録  作者: ガー
笑顔と復讐と星空
17/33

3-2

「へへへ。狙いが外れちまった~」


カルナはまたもにっこりと笑い、


「何度でも、どんな手段を使ってもいいんですよ」


かしらは斧が石に当たる寸前を見ていた。


確かに斧は石に当たったのだ。


(どんな金属カネでできてるんだ。あの石は・・・)


両手斧の男は再度斧を振り上げて、


「今度は~外さねぇ~」


石に向かって斧を振り落とす。


ドガッ!!!


地面にめり込んでしまう石。


だが取り出した石には傷1つついていない。それどころか斧の先にヒビが入ってしまった。


「うぉ~」


斧のヒビは気にせずに何度も斧を叩きつける男。


パキーンと綺麗な音がした。


ついに砕け散ったのだ。両手斧が。


そんなはずはないと茫然自失する男。


「なんだなんだ。だらしねぇ。やっぱりその筋肉は見かけだけだな」


別の男が前に出てくる。


「頭を使うんだよ。こういうのはな」


時間を少しかけて男は金床アンビルを3つほど持ってきた。


さきほどの両手斧よりさらに重い金床を並べ、その上に石を置く。


石の下左右を金床で囲んだ状態だ。


「これで石に逃げ場はねぇ。おい。お前ら手伝え。上からアイツを落とすんだ」


男が顎で示した方向には、3つの金床よりさらに一回り大きい金床があった。


カルナに向き直った男はニヤニヤと笑い、


「おい姉ちゃん。何を使ってもいいんだよな?」


「もちろんです。早くやっちゃって下さい!」


満面の笑顔で返事をするカルナ。


3人がかりで持ってこられた金床は尖った部分を下にして石に向かって落とされた。


ゴキーン!!!


今度は石が地面にめり込まない。落とされた金床が地面に埋まる。


石の様子を確認する。


「あ、ありえねぇ・・・。おいもう一度もっと高くからだ!!」


まったく変化のない石を見て、男は再度まわりの男達に指示をする。


人数を増やし、さらに高く持ち上げられた金床。


「よーしそのままだ。もう少し右だ。行きすぎだ!」


下から覗き込み微調整をする男。


「よし、そこだ。落とせ!!」


落下する金床。


ガキーン!!!


「どうだ! どうなった!」


駆け寄り石を見た男は絶句する。


やはり石には傷1つついていない。







その後も男達はあらゆる方法で石に挑んだ。


剣、斧、釘と金槌、熱してからのハンマー。


だが石に傷がつくことはなかった。


「なんなんだこの石は・・・」


「手がイテェ・・・」


かしらはいままでのやり取りを黙って全部見ていた。


(硬いだけじゃ駄目だろう。何か他の方法が必要なはずだ。とすれば・・・)


「俺がやる」


ついに前に出てきたかしら


「頼みます。かしら


かしら~。やっちまってくれぇ~」


(どいつもこいつも勝手なことを言いやがって!)


かしらは石を転がっていた金床に載せ、石に向かい長剣を正眼に構える。


ピタリと石に向けられた長剣にブレはない。


だがしばらくすると、長剣のまわりにモヤモヤとした白い何かが纏わりつき始めた。







魔業マゴウという技がある。


魔導の血を持つ者がすべて魔導士になる訳ではないのだ。


魔導の力を近接戦闘に特化させた形で操る技術が魔業マゴウだ。


魔業士マゴウシとも言われる者達が使うその力は、身体能力の強化はもちろん使っている武具にまで及ぶ。


魔導付与士が作り上げる魔法武具が持つような力を、何の変哲もない武具に持たせることができるのだ。


集団同士の戦闘では、魔業士の数が勝敗を決めるといっても過言ではない。








かしらは魔業の力を持っていた。


ミゼリア騎士団内でも指折りの実力者だったのだ。


身体強化の強さでは短剣使いに適わなかったが、武具強化の速さでは負けたことがない。


長剣が「破砕」クラッシュの力をまとっていく。


1級魔業士ともなれば瞬時にまとわせることができるが、かしらはそこまではできない。


だが威力は何級であろうが同じだ。


「ふっ!!」


気合と共に振り下ろした長剣は白い残光を残し、地面へ吸い込まれている。


長剣が通過した金床の一部が、音もなく切断されて地面へ落ちた。


(・・・ダメか)


石の曲面をなぞるように軌跡を描いていた残光が消える。


渾身の力と業を込めた長剣は、やはり石に少しの傷もつけられなかった。







「もう試される方はいませんか?」


「お姉ちゃん。早く行こう」


「もう。カルサちゃんはせっかちなんだから」


「もうお風呂入りたい」


「そう言えばそうねぇ・・・」


やり取りを見ていた山賊の1人が声をかける。


「おいおい。石遊びは終わったかもしれねぇが、姉ちゃんたちがこのまま山を下りれるわけがねぇだろう?」


首をかしげたカルナは、


「そうなんですか?」


ゲラゲラと笑う山賊たち。


「まぁ出し物としては面白かったぜ。お礼に今晩は俺らが楽しませてやるよ」


「そうだな。石ではいい所見せられなかったしな。ヒヒヒ」


そんな山賊達を無視して鈍く光る石を拾い上げるカルナ。


「ん~。とっても楽しそうなんですが、見たところお風呂もないようですし、ご遠慮させていただきます」


にっこりと笑い荷物をまとめ始める。


そしてカルナが金貨の入った袋の口をしめようとした時だった。


シャッ!


袋の下部が山賊の1人に剣で切り裂かれ金貨がジャラジャラと地面へ落ちる。


「おおっとー。聞き分けのないお姉ちゃんだなぁ。終着点だって言ったろぉ~」


そのまま剣先をカルナに向ける山賊。


「あぁー。カルサちゃん手伝って」


「やだ」


「もう。カルサちゃんの意地悪!」


無視をされた山賊は無表情になり、向けた剣先をそのまま突き出す。


「?」


だがその剣先は、カルナが手に持つ鈍く光る石に受け止められて動かない。


「やっぱり傷つきませんね」


「てめぇ!」


山賊たちは姉妹の周りを囲み始めた。





「お姉ちゃん」


「なぁに?」


「切ってもいい?」

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