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異世界紳士録  作者: ガー
陽だまりの花壇で
12/33

2-1

ミゼリア北西の町カイミ。


トムから紹介してもらったこの町の下宿先にクラスが腰を落ち着けて数週間になる。


猿の爪を売った時のお金は生活費として着実に減っていっている。


きまぐれに賞金稼ぎの仕事をしてお小遣いを稼ぐような生活もそろそろ限界かもしれないとクラスは思い始めた。


能力を使ってしまえば、ナンバリングなどされていない硬貨が主なこの世界の通貨をいくらでも増やせてしまうため、賞金稼ぎの仕事などしなくても暮らしていけそうではあるが、なんだか気が引けてしまい、クラスはお金の複製貼り付けコピペはしていない。


(元の世界でも大金が欲しいなんて思ったことなかったしなぁ。あっても困りはしないが)


今のところは生活できる程度の仕事をこなしながら過ごしていた。


町中にある賞金稼ぎや日雇い労働者への依頼掲示板。


いくつか貼ってある依頼票を眺めながらクラスはため息をつく。


掲示板に残っている依頼の良し悪しがいまいちよくわからない。


今までこなした仕事の中には当たりといえる仕事もあるにはあったが、やはり掲示板の残り物のような仕事では、大抵収入も残り物というしかないようなものばかりだった。


(まだまだ読めない文字が多すぎる。やっぱり辞書を買おうか・・・)


読めない文字を読めない辞書で探す自分を想像し、さらにため息をつくクラス。


(もう少し頑張ってあそこに通ってみるか)





クラスはこの町に腰を落ち着けてからすぐに文字の読み書きを習うため学校に通っている。


ミゼリア王国は他国に比べ、圧倒的に魔導士の数が少ない。


識字率の低さが在野の魔導士を普通の一般人として一生を終えさせていると気付いたのはここ数十年のことだ。


そのため魔導士育成を目指し、国を上げて主要な町やある程度の規模を持つ村に学校を建て、識字率の向上を図っている。


さらに学校では文字の修得により魔導に目覚めた者や学校近隣の魔導士の子弟が魔導講義を受講できるよう、軍から除隊などをして引退した魔導士を講師として派遣し、魔法学科を設置している。


ここカイミの学校にもその魔法学科はある。


魔法を使えないクラスは読み書きだけが習いたいので一般学科の一番基礎の講義を受け始めたのだが・・・。


そこは5歳から8歳までの子供しかいない賑やかな教室だった。


数日前にクラスより年上の女性が読み書きを修得し、この教室を去ってから大人の受講生はクラス1人になってしまった。


「皆さん。わかりましたか?」


「「「はーい」」」


担任講師のイネアの呼びかけに元気よく返事をする子供達。一番後ろの席で魂の抜けたような顔をしているクラスはノートに講義内容を写すだけで精一杯だった。


講義が終われば、子供達は真っ先にクラスの元へやって来る。


クラスが気まぐれに教えた元の世界の遊びは子供達に好評で、新しい遊びを教えてくれと子供達に囲まれるのだ。


ゆっくりと講義の復習をしたいクラスはうんざりしながらも子供好きの性格のせいか、子供達の要求に笑顔で答えてしまうのだった。


今日も校庭に連れ出されたクラスは、小型の木でできた水桶を缶の変わりに使う缶蹴りもどきにつき合わされていた。


「もう駄目だ。走れない」


息も絶え絶えで校庭に大の字に寝転がるクラス。


もう一回、もう一回とせがむ子供達を見て子供の体力は異常だとつくづく思う。


「しばらく休憩だ。あとはお前らだけでやってろ」


悪態をつきながらクラスから離れてゆく子供達。


「お疲れ様」


座り込んで缶蹴りもどきの続きをしている子供達を見ていると、背中から声がかかる。


振り向くと講師のイネアだった。


「えぇもう本当に。若さが少しうらやましいですけどね」


「クラスさんはまだお若いでしょう?」


「精神年齢だけはずっと成長していない感じですが、体は正直ですよ。ほら、まだ膝が笑っている」


無理やり立ち上がるが、生まれたての小鹿のようになってしまう。


「それは運動不足というものです」


「・・・努力します。イネアさんはいつも通り花壇の世話ですか?」


「はい。やっと花がつき始めたんですよ」


「おぉ。おめでとうございます。見に行ってもいいですか?」


「もちろん」


先導するイネアについて行くと、花壇に可愛らしい花がまばらにだが咲いている。


「結構大変だったのでは?」


以前の畑仕事を思い出し、クラスは聞いてみる。


「えぇ。土の入れ替えから雑草取りまでなんでもやったんですよ」


非常に面倒そうだと、イネアには見せないようにクラスは嫌な顔をした。


「今子供達がしている遊びはどんな遊びなんですか?」


「あぁ。1人が桶を守りながら皆をさがすって感じの遊びです」


「守る?」


「あぁ。ちょうどいい。見てください。桶を守っていない他の子供達が動き始めたでしょう?」


「桶をどうしてしまうんですか?」


「あぁやってこっそり近づいていって・・・」


囮を使うような戦術を教えてはいないがもう編み出した子供がいるようだ。


鬼役の子供の気を引いている隙に他の子供たちが桶へ向かって走り出す。


思い切り蹴飛ばしたのだろう。高く舞い上がる木の桶。


「蹴られたりして守りきれなければ守り役の子供の負けです」


「私が小さい頃にはこんな遊び方はなかったです」


なんの気なしに飛んでゆく桶をみているとその先に、3人の黒いマントを羽織っているヒトたちが見えた。


立ち上がって叫ぶ。


「あぶない!!」









「さすがはイビザ様。今日の火属性魔法の実習もすばらしかったです」


「そんなことはありませんよ。魔導士であれば誰でも練習すればできることです」


「それでも同世代の魔導士でイビザ様の詠唱の速さを超える者などいません!」


「よろしければ皆さん。今日は私の屋敷で一緒に練習しませんか?」


「本当ですか!?」


「私もぜひご一緒に」


カイミの町に屋敷を構えるカイミ家。


当主であるマウロ・カイミはミゼリア王国内で3本の指に数えられる宮廷魔導士だ。


今は王都で南の大国マーグとの開戦準備に向けて指揮を執っている。


そんなカイミ家の嫡男である、イビザ・カイミも来年からは王都にある魔導士養成所に通うことになっていた。


今は基礎講義としてこのカイミの町の学校の魔法学科で講義を受けている。


父からの手ほどきと比べ実戦的でない学校の講義にはあまり興味はないが、魔法実習では手を抜かずに力を披露していた。


将来を約束されているイビザに縁を持とうとする魔導士の卵たちに取り巻かれながら、屋敷に帰りどんな練習をしようかと考えながら校庭に出てきたイビザは、突然かけられた大声、


「あぶない!!」


に身を構える。


ことはできずに、上空から降ってきた木桶に頭をぶつけることになった。

ゴッドリセット発動


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