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異世界紳士録  作者: ガー
2つの太陽
10/33

1-9

納屋へ到着するとマコさんが腰を抜かして座っていた。


納屋へ入ってきた影にビクッとなるが、俺たちだとわかると少しホッとしたようだ。


「いったいなにがあったんだい? クラスを納屋に行かせたのはいいが、すぐにクラスの声も聞こえてね。それにこのでかいのは魔物だろう?」


年甲斐もなく悲鳴を上げた時だろう。


「それにこの血・・・チコは、チコはまさか!」


取り乱しそうな勢いのマコさんだが、トムさんと手をつないでいるチコちゃんを見て落ち着きを取り戻す。


だがそのチコちゃんが着ている服が真っ赤に染まっているのを見ると、抜かしていたはずの腰を無視して、トムさんへ詰め寄った。


「よく見ればアンタも真っ赤じゃないか!」


言いよどむトムさんは、


「いやー返り血だよ。返り血。そこの魔物を見ればわかるだろう? クラスがなにも考えずに魔法なんて使うから・・・・」


「そ、そうなんですよ。突然の事だったから加減もできないでズバーンと・・・」


まートムさんからすれば心配を掛けたくないだろうしなと思い、話をあわせておく。案の定マコさんの背中越しに申し訳ないのサインを送っている。


「そんなことより魔物除けの柱が倒れちまったんだよ。張りなおしをしなきゃまた魔物がでるかもしれないんだ。俺も後で入るから、チコを風呂にいれてやってくれよ」


言い訳のようなトムさんのお願いに疑いの目をしたままのマコさんだが、チコちゃんを抱き上げて家へ向かっていった。


「すまねーな。ケガはなかったとはいえ事が事だからな」


「そうですね。とりあえず納屋をどうしますか?」


兎小屋へトムさんは歩いていく。そして小屋の中をぐるりと見回すと、


「あの申め。ぜーんぶやっちまいやがった。町で新しいのもらってこねぇとな」


兎やニワトリはコピーしていない。当然クリップボードになければ貼り付けはできない。


「とりあえず、俺とチコの血の跡は小川にでも土ごと捨てないと匂いにつれられてなんかきそうだな」


「それなら。こうですかね」


すでに納屋の土は血を吸っているため血の海というわけではないが、染みとなっている土を見ているとなんとも背筋が気持ち悪い。矩形選択し、切り取る。


トムさんは間近で俺の実体操作インスタンス・オペレートで切り取られた部分の土を見て、


「刃物で切ってもこうはならねーな。土がなくなっちまったがどうするんだ」


「猿の頭と一緒で取り出せますからね。小川に捨てればいいですかね?」


「ああ。捨ててきてくれ。コイツ(魔物)の解体はしとく。そうだ。頭は今戻せるか?」


なにもない空中にクリップボードから、切り取った疾風申ゲイルモンキーの頭部を貼り付ける。いくらでも増やせるがまぁいいか。


ごとりと地面に疾風申ゲイルモンキーの頭部が転がった。


「こっちの切断面も恐ろしいな。うお、血が出てきた」


切り取られ、メモリ内に退避された実体インスタンスは時間が止まってしまうようだ。


「じゃ、土を捨ててきますね」


「頼むぜ」


土から血液成分だけを切り取るとかを考えながら小川に向かう。数歩で面倒くさくなって止めたが。




「クラス見てみろよ。いい仕事したぜ」


小川から帰ってくるとトムさんが手招きをしている。


「これだ。コイツの爪だよ。いい感じで魔法がかかったままになってる」


「魔法が?」


「おそらく風を纏ってたんだろうが、使わずに終わったらしいな」


よく見ると猿の爪は蜃気楼のようにユラユラとしているように見える。しかし爪といっても内側への反り具合といい、太さといい、こんな物で引っかかれたらどうなっていたんだろう。


「めったにこんな状態では流通しないからな。魔除けを張りなおしてもお釣りがきそうだ。釣りは全部クラスが持ってってくれよ」


「兎やニワトリの足しにしましょうよ」


「そんなのは大丈夫だ。釣りがなくても無一文で町に放り出しはしないから安心しろよ」


トムさんは手馴れた手つきで次々と牙や爪を取り外していく。


「手馴れてますね」


「元賞金稼ぎだからな。ランクは低かったけどなぁ」


「賞金稼ぎですか」


「そうだな。クラスも町で仕事が見つからなけりゃとりあえずは賞金稼ぎの仕事でもやっておけばいい。魔物討伐以外だって庭いじりの依頼なんかあればクラスにぴったりだろう」



無一文という言葉に少々心配になったクラスは、取り外された高価らしい魔物の爪をこっそりコピーしておくのだった。

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