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異世界紳士録  作者: ガー
ネティウスの神秘
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ネティウスという王国があった。


国土としては大きくない。

しかし豊富な鉱山資源と肥沃な大地を持ち、

周辺国のライフラインとして重要な国だった。


そのため過去幾度もこの国を手に入れようと他国からの侵略があったが、

歴代の王はそれぞれ武神や知神と呼ばれるほどの才能を持ち、

存亡の危機から国を守ってきたのだった。


それぞれの王の傍らにはいつも黒髪の男女が影のように付き従っていて、

実は王の功績は彼らのお陰だったという噂もあるが、本当のことはわからない。


歴代最高の王と呼ばれたネティウス17世の統治を最後に、

ネティウスという名前の国は地図から消える。



17世には1人の親友がいた。


王家縁の貴族であった彼は、17世とは兄弟のように育ち青春時代を過ごした。


彼には妹がおり、17世は彼女を見初め王妃とした。

妹が王妃になるときの兄の喜びようは自分が王妃になるかのようだった。


兄は野心を隠し17世と付き合っていた。

辛抱強く人の良い幼馴染の仮面を被っていた兄は、

世継ぎである18世が生まれたと同時に密かに仮面を脱ぎ捨てる。


古より続く魔導組織が作り上げた1人の娘がいた。


魔法が使えるかどうかは天性の才能がいる。

だが魔導士の子供には必ずその才能が受け継がれる。

魔導組織は優秀な魔導士を集め、魔法血統種を作っていた。


娘はその果てに作られた優秀な魔法血統種だったが、

近親交配の繰り返しのせいか、精神に障害を抱えていた。


兄は金でこの娘を買い、実の妹を犠牲にして、その娘に性格や背格好を魔法転写したのだった。


裏で行われていた兄の所業は17世に見つかることはなく、

貴族の親友の妹であり、見目麗しくさらに魔法にも秀でていた妹との結婚は、

王族の誰もが反対をしなかった。


兄の操り人形としても調整されていた妹は、兄の命令に従い、

毎晩の毒香、食べ物への毒などにより少しずつ17世の寿命を削っていった。


18世が2歳の誕生日を迎えるころ、17世は崩御した。


辛抱強くこの機会を待っていた兄は、自らが18世の後見人にふさわしいと申し出たが、

死期を悟った17世は親友ではなく

17世の人柄に惚れて逗留していた賢者に18世の後見人を頼んでいたのだ。


兄の怒りは尋常ではなく、ついに兵を挙げる。

古くから周辺国からの侵略に耐えてきたネティウスだったが、

身内からの進攻には成す術がなかった。


玉座の間での兄と賢者の戦いは熾烈を極め、

賢者はついに17世より伝えられていたネティウス王家の神秘である

「黒髪の守護神召喚」

の発動を決意する。


だが兄の息のかかっていた賢者の一番弟子により、発動直前に賢者は殺されてしまう。


18世をも亡き者にしようとした兄だったが、

母性が勝ったのか妹の裏切りにより18世はすでに逃がされた後だった。


ついにネティウスを手に入れた兄。


しかし賢者の一番弟子は周辺国の間諜スパイであり、次の日には周辺国の進攻が始まった。

内乱直後の事であり、あっさりとネティウス国境は突破された。


追い詰められた兄は魔法血統種であった妹を生贄とした腐食の大魔法を発動させる。


進攻部隊は全滅したが、ネティウス国土の8割は人の住めない地と化した。



兄はただ一人玉座に座り笑い続ける。




それから100年。


廃都となったネティウスに訪れる2人の若者がいた。


鉱山資源が豊富だった山は、有害なガスを纏う恐ろしい山となり、近寄るものは誰もいない。

農業地帯だった肥沃な大地は、腐った大地となり生き物の姿は見えない。

100年前には王国があったとは到底信じられない。


「本当にこんなとこにあるのかよ。」


「王都があったとしたらこの辺に間違いないさ。」


墓荒らしを始めて3年目の2人だが、一人が考古学者崩れということで、

なかなか良い稼ぎを最近はしている。


ネティウスについての文献はあまり多くないが、考古学者崩れのほうは才能があったようだ。

見事にネティウスの王都あたりを探り出した。


「魔物が不死系ばっかりじゃねーか。」


「でも見てみろよ。このリビングデッドの鎧をよ。この紋章はギューザシアの昔の騎士団の紋章だぜ。」


ギューザシアは賢者の一番弟子の生まれ故郷だった。


墓荒らしの二人は、どんどん玉座のあった場所へ近づいてゆく。


「ここは広間か。」


「案外玉座の間かもしれないぜ。」


天井はないが、床には良い石が敷いてある。

拾い上げた切れ端は、風化しているが高価そうな床織物のようだ。


「当たりかもな。」


「俺に感謝しろよ。」


考古学者崩れが玉座のあった場所に足を掛けた瞬間だった。


足元が崩れ、リビングデッドが姿を現す。


「アァァァァ!貴様カ17世!私ノ場所ヲウバイニキタカ!!!


「うわあぁ!」


考古学者崩れはネティウス王家の血を傍系ながら引いていたのだ。

消し去ったはずの最も憎い輝きを近くに感じ、兄は目覚めた。


足元が崩れバランスを失った考古学者崩れは、襲い来る兄になすすべもなく殺されてしまう。


「ひぃいぃ!」


相方は逃げてしまったようだ。


返り血を浴びて兄はケタケタと笑い、動かなくなる。


太陽の光を浴びて兄の体は砂と化していくが、

ケタケタと不気味な笑い声だけはいつまでも残っていた。



飛び散った考古学者崩れの血の行く先には、賢者の残した発動直前の魔方陣があった。



発動最後の要素であるネティウス王家の血。


100年前に発動するはずだった召喚魔法はついに発動した。

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