ニューヨーク防衛戦
アメリカ合衆国ニューヨークセントラルパークには、アメリカ合衆国陸軍第42師団の野戦司令部が設置されていた。だが参謀達は激しい言い争いを続け、師団長のアイリーン中将は腕を組んで聞いていた。参謀達の言い争いは現状のニューヨーク防衛作戦であった。マンハッタン島に至る橋を全て破壊する事が第42師団に課せられた任務であった。これはNORADのマリーナ大統領直々の命令であった。ニューヨークを何としても防衛する事が優先され、マンハッタン島が最終防衛ラインとされた。陸上国防軍司令部・統合幕僚本部長からも同様の命令が下されており、第42師団に課せられた任務は余りにも重大であった。ブルックリン橋は既に神聖ゲルマン連邦帝国の攻撃で破壊され、ウィリアムズバーグ橋・クインズボロ橋等各種橋は第42師団は破壊していた。しかしマンハッタン橋が残っていたのである。その破壊に向かった第22大隊は神聖ゲルマン連邦帝国陸軍の攻撃に全滅していた。もはや師団は壊滅状態であり、撤退か玉砕覚悟の判断を司令部は迫られていた。アイリーン師団長は天を仰いだ。
そのアイリーン師団長は突然呼ばれ、目を向けると1人の女性が立っていた。驚くアイリーン師団長にその女性は、ゲルマンの攻撃に巻き込まれかけたからブルックリン橋から川に飛び込んだ、と語った。そして陸地に上がったら陸軍が来てると聞いた為に、司令部を訪れたと語ったのである。事情を聞いたアイリーン師団長は久し振りの再会に喜びを露わにした。
そしてアイリーン師団長と女性は再会を喜び、抱き合った。その光景を見ていた参謀の1人が堪らず声をかけた。民間人は早急に司令部から出ていただかないといけないのが、参謀の疑問でありアイリーン師団長は説明を始めた。再会に喜んでいたアイリーン師団長は慌てて、女性を紹介した。女性はエリスであり、アイリーン師団長とは国防学校の同期になる人物だった。そして、普通にしてたら今頃は大将になってた筈よ、とアイリーン師団長は笑いながら語り、普通って何よ、とエリスは少し不貞腐れながら答えた。
しかしエリスと紹介された参謀達は慌てて敬礼した。エリスはアメリカ合衆国陸上国防軍にとっては、もはや伝説となっている人物である。それは5年前に遡る。エリスは第75レンジャー連隊の連隊長であった。神聖ゲルマン連邦帝国の脅威は日に日に増大しており、世界はとてつもない緊張感に包まれていた。南米までもが神聖ゲルマン連邦帝国の版図に加わり、キューバも占領した神聖ゲルマン連邦帝国は空軍基地まで造成していた。キューバの基地はアメリカ合衆国にとっては喉元に突き付けられたナイフそのものであった。
特にそのグアンタナモ基地が占領された事がアメリカ合衆国にとっては痛手となった。グアンタナモ基地は大日本帝国唯一認められた海外基地であり、国防軍創設となりアメリカ合衆国に返還されていた。そのグアンタナモ基地を5年前にアメリカ合衆国は奪還する作戦を立案し実行したのである。そしてその作戦に投入されたのが第75レンジャー連隊であり、エリスはグアンタナモ基地に乗り込んだ。
しかしOSSの情報収集不足であった為に、第75レンジャー連隊は壊滅的な被害を受けた。帰還出来たのはエリス以下数名であった。国防省や統合幕僚本部の受けた衝撃は大きかった。敗戦後初の本格的作戦であった為に、敗北は認められなかった。しかし第75レンジャー連隊は敗北した。政府と国防省は全ての責任をエリスに押し付けた。この奪還作戦は大日本帝国にも秘密で行われた為に、アメリカ合衆国政府は外交問題になる事を恐れたのである。エリスは全てを承知した上で退役した。大日本帝国との関係が悪化するのをエリスも危惧したのだ。そしてエリスは国防軍を去ったのである。
そしてエリスはアイリーン師団長に単刀直入に語った。部隊の指揮権を私に譲って欲しいと。アイリーン師団長はエリスの言葉に驚いた。いきなりの指揮権譲渡だ。驚くのも無理は無い。私に任せて、エリスは悩むアイリーン師団長に言った。エリスの指揮能力はグアンタナモ基地での戦いで良く分かっていた。3倍の敵兵を相手に善戦したのである。そしてアイリーン師団長は決断しエリスに部隊の指揮権を譲渡する事にした。ただしアイリーン師団長はエリスに付き添うとの事だった。
エリスはアイリーン師団長の意図を理解すると、感謝を述べた。アイリーン師団長はエリスに付き添う事で、自分が指揮を採っている体を醸し出したいのである。そうしなければ幾ら戦時とはいえ、民間人に部隊の指揮を採らすのは認められない。アイリーン師団長の判断はギリギリの範囲での決断であった。
そうと決まれば後は早かった。早速出撃するように語るエリスにアイリーン師団長が敬礼をした為に、参謀達はそれに従うしか無かった。




