千年王国
同時刻。神聖ゲルマン連邦帝国は世界最大の帝国として君臨している。その領土はヨーロッパ大陸全土とブリテン諸島、東経90度以西の旧ソ連領、南米北部、アフリカ北部、中東以西(アラビア半島全域とイラン国境線まで)に及んだ。占領国は属州とし神聖ゲルマン連邦帝国の版図に併合し、本国と属州という明白な上下関係があった。
それは民族毎の明白な階級に分けられていた。ゲルマン民族とブリテン民族が神聖ゲルマン連邦帝国では貴族階級に属し、東欧民族とユダヤ人・スラブ人・黒人・アラブ人は奴隷階級に属された。それ以外のイタリア・フランス・北欧・南米等は平民階級に属された。かつてローマ帝国が持っていた『寛容の精神』もへったくれも無い状態だった。ローマ帝国は寛容の精神を持って敗者に接し、自らに融合させたのである。奴隷でさえ条件を満たせば解放奴隷となれる。属州民も条件さえ満たせばローマ市民権を手にできたのだ。
神聖ゲルマン連邦帝国帝都ゲルマニアの中枢を成すのは街の南北を縦貫する幅120メートルの大通りを軸に、南からベルリン中央駅、凱旋門、大型ドーム型ホールのフォルクスハレの一帯である。フォルクスハレは別名聖杯神殿と言い、神聖ゲルマン連邦帝国の国会議事堂となる。
それに加え大通りの南部にテンプルホーフ国際空港を配し、それを取り巻く環状道路と放射状道路が敷設されていた。ベルリン中央駅は神聖ゲルマン連邦帝国の誇る巨大高速鉄道ブライトシュプールバーンの帝都駅である。ブライトシュプールバーンは神聖ゲルマン連邦帝国の誇る巨大新幹線であった。更にアウトバーンも帝都ゲルマニアに敷設されていた。ブライトシュプールバーンとアウトバーンは属州も含め神聖ゲルマン連邦帝国全土に張り巡らされていた。
神聖ゲルマン連邦帝國帝都ゲルマニアは12の行政区に区切られている。その中でもノイケルン区は『貧困街』の別名を有する行政区になる。そこは平民階級の中でも最下層になる人々が住む所であった。日雇い労働しか仕事は無く、それ以外は物乞いや露店での商売で日銭を稼ぐしか無かった。道端では汎ゆる商人が道行く人々に声をかけ、断られると直ぐ様違う人の所へ駆け寄っていた。まさに神聖ゲルマン連邦帝国の影の部分であり、そこを1人の女性が歩いていた。その女性は大英帝国対外諜報部第6課(通称MI6)所属諜報員スレーナであった。
大英帝国。かつての大英帝国は第二次世界大戦でドイツ第三帝国に占領されてから、現在は神聖ゲルマン連邦帝國属州ブリタニアとなっている。カナダへ亡命した王族・政府首脳であったが、第二次世界大戦後の神聖ゲルマン連邦帝国による南米侵攻によりオーストラリアへ亡命。そこで大英帝国の再興を宣言し、オーストラリアの施政権を完全に大英帝国亡命政権が奪った。此れにより大英帝国オーストラリア領は完全な大英帝国として現在に至るのである。つまりオーストラリアは『大英帝国領オーストラリア』としてしか名前は残らず、実質的には大英帝国が丸々オーストラリアに移動した事になるのである。
MI6諜報員スレーナは目的地の酒場を見つけると、中へ入った。その酒場に入るとスレーナを見つけた女性が声を掛けてきた。スレーナに声を掛けた女性は、帝国情報庁諜報員尾花理彩が場を取り仕切り始めた。尾花の席にはスレーナの他にアメリカ戦略情報局(OSS)のトレイシーとロシア連邦保安庁(FSB)のコルサが座っていた。神聖ゲルマン連邦帝国と対峙する大亜細亜連合の諜報員が集結しているのである。
大亜細亜連合の諜報員が集まったノイケルン区は人種の坩堝であり、だからこそこのような事が出来るのである。神聖ゲルマン連邦帝国はニューヨークに上陸し、欧州・中東・アフリカ・亜細亜・南米と世界各地で侵攻を開始した。この世界の敵は強力であり大亜細亜連合が一致団結して対抗しないと、神聖ゲルマン連邦帝国に各個撃破されるだけだった。
何せアメリカ合衆国は本土決戦に突入し国防軍は総力を挙げての迎撃戦となり、ロシア連邦も失われた国土の奪還を目指したいが、侵攻を迎撃するのに手一杯であった。世界中が神聖ゲルマン連邦帝国に対抗する事が最優先になっていた。だからこそ大亜細亜連合各国諜報機関の計画が神聖ゲルマン連邦帝国を撹乱させる唯一の手段だったのである。
大亜細亜連合各国諜報機関が神聖ゲルマン連邦帝国に潜入している理由。それは神聖ゲルマン連邦帝国の内部撹乱であった。神聖ゲルマン連邦帝国は貪欲なまでの侵攻により、大量の領土を属州として版図に組み込んだ。それにより人類史上世界最大の大帝国を完成させた神聖ゲルマン連邦帝国だが、その反面凄まじいまでの領土拡大は属州の安定統治を蔑ろにしていた。これにより神聖ゲルマン連邦帝国は属州の不安定を抑える為に、SSとゲシュタポを派遣し恐怖政治で押さえ付けていた。
今でも強烈に押さえ付けている事に変わりは無く、神聖ゲルマン連邦帝国は国内に多数の火薬庫を抱えている事になっていた。尾花達はその火薬庫に灯油を撒き散らし、火を点けようとしているのである。その為の会合であり会合が終わると、尾花達は神聖ゲルマン連邦帝国各地に散る。その最終会合も終わろうとしていた。
尾花の言葉にスレーナ・トレイシー・コルサは目礼をし席を立った。これ以後尾花達は神聖ゲルマン連邦帝国に存在するレジスタンスや抵抗勢力と協力し神聖ゲルマン連邦帝国の内部撹乱を狙ったのである。




