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ニューヨーク

午後6時

アメリカ合衆国ニューヨークセントラルパーク陸軍第42師団野戦司令部


「攻撃が激しすぎます!!」

「今退いてどうする!!敵は目の前まで攻めているのよ!!」

「ですが!!この状態で橋を破壊するのは、無謀です!!」

「ニューヨークが占領されても良いの!?」

「既に占領されていると言っても過言ではありません!!」

「なんて事を!!」


参謀達の言い争いを師団長のアイリーン中将は腕を組んで聞いていた。参謀達の言い争いは現状のニューヨーク防衛作戦であった。マンハッタン島に至る橋を全て破壊する事が第42師団に課せられた任務であった。これはNORADのマリーナ大統領直々の命令であった。ニューヨークを何としても防衛する事が優先され、マンハッタン島が最終防衛ラインとされた。陸上国防軍司令部・統合幕僚本部長からも同様の命令が下されており、第42師団に課せられた任務は余りにも重大であった。ブルックリン橋は既に神聖ゲルマン連邦帝國の攻撃で破壊され、ウィリアムズバーグ橋・クインズボロ橋等各種橋は第42師団は破壊していた。しかしマンハッタン橋が残っていたのである。その破壊に向かった第22大隊は神聖ゲルマン連邦帝國陸軍の攻撃に全滅していた。もはや師団は壊滅状態であり、撤退か玉砕覚悟の判断を司令部は迫られていた。アイリーン師団長は天を仰いだ。


「アイリーン、悩んでるわね。」

「!?何でここに?」


突然呼ばれ目を向けると、女性が1人立っていた。


「貴女タクシー運転手になったんじゃ?」

「ゲルマンの攻撃に巻き込まれかけたから、ブルックリン橋から川に飛び込んだの。それから陸地に上がったら陸軍が来てるって聞いたからね。」

「成る程。とにかく久し振りね、会えて嬉しいわ。」

「こちらこそ。」


アイリーン師団長と女性はそう言うと、抱き合った。その光景を見ていた参謀の1人が堪らず声をかけた。


「師団長、失礼ですが民間人は早急に司令部から出ていただきませんと……」


参謀の疑問にアイリーン師団長は説明を始めた。


「紹介するわね。エリスよ。私と国防学校の同期になるわ。普通にしてたら、今頃は大将になってた筈よ。」

「普通って何よ。」


アイリーン師団長の説明にエリスは少し不貞腐れながら答えた。しかしエリスと紹介された参謀達は慌てて敬礼した。エリスはアメリカ合衆国陸上国防軍にとっては、もはや伝説となっている人物である。

それは5年前に遡る。エリスは第75レンジャー連隊の連隊長であった。神聖ゲルマン連邦帝國の脅威は日に日に増大しており、世界はとてつもない緊張感に包まれていた。南米の大分部が神聖ゲルマン連邦帝國の版図に加わり、キューバには空軍基地まで造成されていた。キューバの基地はアメリカ合衆国にとっては喉元に突き付けられたナイフそのものであった。特にグアンタナモ基地が占領された事がアメリカ合衆国にとっては痛手となった。グアンタナモ基地は大日本帝國に唯一認められた海外基地であり、国防軍創設となりアメリカ合衆国に返還されていた。そのグアンタナモ基地を5年前にアメリカ合衆国は奪還する作戦を立て実行したのである。作戦に投入されたのが第75レンジャー連隊であり、エリスはグアンタナモ基地に乗り込んだ。しかしOSSの情報収集不足であった為に、第75レンジャー連隊は壊滅的な被害を受けた。帰還出来たのはエリス以下数名であった。国防省や統合幕僚本部の受けた衝撃は大きかった。敗戦後初の本格的作戦であった為に、敗北は認められなかった。しかし第75レンジャー連隊は敗北した。政府と国防省は全ての責任をエリスに押し付けた。この奪還作戦は大日本帝國にも秘密で行われた為に、アメリカ合衆国政府は外交問題になる事を恐れたのである。エリスは全てを承知した上で退役した。大日本帝國との関係が悪化するのをエリスも危惧したのだ。そしてエリスは国防軍を去ったのである。



「アイリーン師団長、単刀直入に言うわね。部隊の指揮権を私に譲って。」

「指揮権を!?」


アイリーン師団長はエリスの言葉に驚いた。いきなりの指揮権譲渡だ。驚くのも無理は無い。


「……」

「私に任せて。」


エリスは悩むアイリーン師団長に言った。エリスの指揮能力はグアンタナモ基地での戦いで良く分かる。3倍の敵兵を相手に善戦した。


「分かったわ。エリス、貴女は自由に部隊を指揮して。私が貴女に付いて行くわ。」

「成る程。分かったわ、ありがとう。」


エリスはアイリーン師団長の意図を理解すると、笑顔で答えた。

アイリーン師団長はエリスに付き添う事で、自分が指揮を採っている体を醸し出したいのである。そうしなければ幾ら戦時とはいえ、民間人に部隊の指揮を採らすのは認められない。アイリーン師団長の判断はギリギリの範囲での決断であった。


「そうと決まれば早速出撃よ。」

「了解。」


エリスの言葉にアイリーン師団長が敬礼をした為、参謀達はそれに従うしか無かった。

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