七話 苦しみの子 双葉
渡辺刑事はすぐに精神鑑定の準備を整えてくれた
一度目にしただけで会話はしていないあの子
机を挟んで対峙するあの子の顔は今日も感情がなかった
私
「はじめまして、私は精神科医の倉田といいます」
双葉
「はじめまして、私は酒井双葉です」
私
「さて、本題にいこうかな。今回君が起こしたとされる事件、これは君が本当にした事なのかな?」
双葉
「はい、私がやりました」
私
「本当にそうかな?
もしかしたら君の姿をした〈誰か〉が事件を起こしたのではないかな?」
その言葉を聞いた時彼女は一つの感情を見せた
それは
「驚き」
私
「君はつい最近まで家から出してもらっていなかったね?」
双葉
「それが何か関係あるんですか!」
また彼女は感情を見せた
それは
「怒り」
私
「ごめん、怒らせてしまったね。
これはあくまで私の推測として話を聞いてほしい
君は整形するまで十六年間外に出してもらえなかった、君は両親を愛しながらも憎んでいた、殺したいほど…
そんなある日自分が尋ねてきた」
双葉
「違う」
私
「その自分は全てを滅した、自分が憎んでいた両親をも」
双葉
「違う!あの人は私、私の心、私が全てを滅したの」
私
「つまり、君がした事ではないんだね?」
双葉
「あの日、何故か両親は嬉しそうだった
母親は鼻歌まじりで私に化粧をしたの、訳を聞いたら私を助けてくれたお医者さんがくるらしかった」
私
「それが藤田先生だったわけですね?」
双葉
「さぁ?名前は分からないけど」
私
「それでその後はどうしたんですか?」
双葉
「その日は客人が多かった、産婦人科の先生に看護婦さん。
そして私を助けてくれたお医者さんが来た、玄関まで出迎えたの
そこに私が居た、お医者さんと並ぶ私が
両親の歓迎ムードも場のお祝いムードもがらりと変わってしまったの、両親は私に部屋に戻るように諭した」
私
「貴方は部屋に戻った、そしてその後に事件があったんですね?」
双葉
「私は部屋で思い出していた。
あの部屋の窓からいつも見ていた公園、他の子は元気に遊んでいるのに私は遊べない
助けてくれたお医者?
私は十六年間、幸せだと思った事は無かった、初めて外に出た時私は少しだけ嬉しかったけど…
そんな事思っていたらリビングから悲鳴が聞こえたの、一つ、二つ悲鳴が上がり、静かになった。」
私
「そして君はリビングへ?」
双葉
「そう、リビングには鬼の形相をした私が立っていた、私に気付くと泣き始めたの。
私に謝っていた、必死に何度も。後は分からない、気付いたらここに居たの」
私
「何か話をしませんでしたか?」
双葉
「私は貴方、貴方は私
私は家に帰るって」
私
「そうですか…
話してくれてありがとう。」
今日の精神鑑定、それはとても精神鑑定と呼べるものでは無かった
彼女の清々しさはしがらみから解放されたものだったのだろう
縛るものがなくなった事の清々しさ
しかし、私にはもう一人会わなければいけない人が居る
一葉と名付けられた創造の子に