四話 衝撃
結局、会議は深夜まで続いたが何の結論も出せないまま終わり
精神鑑定は後日となった
渡辺
「先生、どうですか?これから一杯」
私
「うーん…、行きましょうか」
谷
「先輩の奢りっすか?」
渡辺
「何言ってんだ、割り勘に決まってんだろ!」
谷
「えぇ〜」
これだけ不可解で残忍な事件の中で、この二人のやりとりは微笑ましい程暖かかった
一軒の居酒屋に着き、それぞれ酒とつまみを注文し、待っている間誰も言葉は出さなかったが考えているのは同じ事だった
そんな中、渡辺刑事が切り出した
渡辺
「先生は、この事件をどう思われます?」
私
「え?私に聞くのは間違いじゃないですか?」
渡辺
「いやね、先生があまりにも会議を静かに聞いていたものですからね」
私
「きっとこの事件には彼女の過去に大きな鍵があると感じます」
渡辺
「なるほど、私もそう思います。」
谷
「自分は首の手術ってのが気になりますね」
私
「出生にも何か秘密があるのでしょう、何より整形するまでの16年間も子供を隠しておきたい程の」
渡辺
「先生どうですか?一度関わってしまった事件です、我々と聞き込みでもしてみませんか」
私
「いいんですか?」
谷
「先輩!外部の人間を聞き込みに同行させるのは」
渡辺
「先生はもう外部の人間じゃないだろ?」
私
「事件の真相を知りたい。可能ならお願いします。」
私も幾つもの殺人事件などに関わった事があるが、これ程難儀な事件は初めてでした。
それ故に事件の真相を知りたくなっていたのです。
それは好奇心といものでは無く使命感のようなものの気がしました
翌日、渡辺刑事と谷刑事が私を迎えに来ました
渡辺
「まず何処に向かいます?」
私
「本来なら産婦人科にむかうのでしょうが、私の古巣に行きましょうか」
渡辺
「古巣?」
私
「大学病院です、私は独立する前にそこにいましたので」
渡辺
「そうだったんですか?わかりました」
車はゆっくり動きだし、半時ほど走ると大学病院に着く
懐かしい古巣、もう五年にもなる
わたしは外科へ向かった
私
「荒木先生、お久しぶりですね」
荒木
「ん?おぉ、倉田君か?
久しぶりだな。どうしたんだ?」
私
「えぇ実は16年前に手術を受けた酒井双葉という少女について調べているのですが…」
荒木
「…そうか」
荒木先生は私がこの大学病院に居た頃に大変可愛がってもらった人でした、いつも笑顔で明るい人
しかし私が酒井双葉の名前を出すと嘘のように笑顔が消え、またその顔は何かを知っているようでした
荒木
「一つ聞くが、何故君が酒井双葉の事を?」
私
「先日、彼女が絡む殺人事件があったのはご存じですよね?
その彼女の精神鑑定を依頼されまして」
荒木
「悪い事は言わない、この事件から離れた方が良い」
私
「やっぱり何か知っているんですね?」
荒木先生は震えていた、まるで何かに怯えるように
しかし、勇気を振り絞るように話し始めた
荒木
「16年前のある日、一人の赤ん坊が運ばれてきた…いや、正確には二人のだ。
その子の頭は二つあったんだよ、体は一つなのに」
私は唖然としてしまった、私や刑事達の想像した以上の答えだった
荒木
「一つの頭は男児、もう一つの頭は女児だった。手術は片方の頭を切除するという恐ろしいものだった
体が女という事もあり、両親は男児の頭の切除を望んだが、頭の位置、呼吸器上女児の頭の切除は避けられなかった」
想像を越える説明がつづいた
私はひどく混乱した
しかし、次の言葉で私は衝撃が走り
事態はまた変化するのだった