三話 秘められた過去
私
「渡辺さん、ちょっといいですか?」
渡辺
「何かありましたか?」
私
「容疑者は女性だと聞いていましたが男性なのですか?」
渡辺
「何を言ってるんですか?先生
見たとおりの女性ですよ。」
私
「しかし、彼女の喉元を見ましたか?喉仏があります。
男性としか考えられません」
渡辺
「え!」
渡辺刑事は驚いたように取り調べ室のなかを覗き込む
渡辺
「本当だ。今まで気が付かなかった……
しかし、おかしいですね。戸籍上も女なのですがね…」
私
「どうやら病院に聞き込みに出た方々が戻ってからの方が良さそうですね。」
渡辺
「そうですね……
谷!取り調べは中止だ」
仕方なく、私と渡辺刑事、谷刑事は聞き込みに出た刑事を待つ事になった
しばらく経ち、時間は午後六時を回った所だった
私達は出前で取った蕎麦をすすっていた
谷
「しかし、変な事件ですよね?」
渡辺
「大量殺人、見えない動機、女が男だった?
何がなんだかわけがわからんぞ」
私
「とりあえず、聞き込みに出た方々が戻ったら何か分かるでしょう。」
二人は、そうですねといった具合に軽く頷いた
しばらくすると会議室の扉が開き、聞き込みに出た方々が入ってきた
渡辺
「やっと帰ってきた!みんなかなり大変な……」
私は渡辺刑事の袖を引き、聞き込みの結果を聞いてから報告しましょうと伝えた
「何だ?」
渡辺
「え?いやぁ待ちくたびれてな。早く聞き込み結果を聞かせてくれ」
「急かすなよ。それじゃあ産婦人科病院に聞き込みに行った俺達から始める
確かにその病院で容疑者は生まれている。当時からいる看護士から話を聞いたが何故か話したがらなかった。」
「次は殺害された医師と看護士がいた大学病院に行ってきた俺たちだな。そこで過去の入院や手術の記録を調べてもらったら酒井双葉の記録があった。
当時一歳にもなっていなかった容疑者は首の手術を受けている。病気か怪我かはカルテにも記載されていなかった。その時担当した医師が殺害された医師だな。また担当した看護士も殺害された二人で間違いない」
「私達は整形クリニックにて聞き込みをしてきました。事件の二ヵ月前に容疑者は顔の整形をしています。これが手術前、そしてこちらが手術後です」
その刑事がホワイトボードに貼り出した二枚の写真
一枚は皆が知っている容疑者の顔
しかしもう一枚にはあどけない少年の顔が映し出されていた
それを見た刑事達に大きな動揺が広がったが私達三人はなるほどといった感じだった
戸籍上、身体的にも女性の容疑者。しかし整形前の写真
そこには男である証拠があった
出産について話したがらない助産婦
何も書かれていないカルテ
そして整形…
しかし一番不可解だったのは次の刑事の発言だった
「私達は事件現場付近で容疑者について聞き込んでみたのですが…」
「ですが、何だ?」
「いやぁ、近所の方はあの家に子供がいると知らなかったと皆一様に証言しています。
厳密に言えば容疑者の事は知っていました。ちょうど整形した頃の二ヵ月前程からだったらしくて」
会議室は深く困惑した溜め息に包まれ刑事達は深くうなだれました
容疑者 酒井双葉
彼女の秘められた過去を解く事は出来るのか
しかし私はこの時思ったのです。この秘められた過去が事件と深く絡み合っているような気がしたのです。