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The pupil of the beast  作者: 高田屋 熊之助
第一章:ミオ=ルーシアの場合
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 モヒカンの盗賊は、私の提案に実に快く応じてくれた。私の質問はたった三つ。馬車から奪った積荷の在り処、残りの盗賊団のメンバー、そしてユノ=マイセンの安否である。積荷は、まだこの砦の中にあり、残り二人の盗賊がそれを守っているという。一人は盗賊団のボスで、もう一人は副長格だそうだが、たった五人で盗賊団を名乗るのも大袈裟な気がする。ユノ=マイセンについては、最初はしらばっくれていた――というより、名前を知らなかっただけなのだろうが、彼女の格好を丁寧に説明し、少し語調を強めて「質問」すると、すぐに口を割った。彼女はまだ生きており、塔の地下の牢屋に入れられているそうだ。何らかの方法で始末するという発想はなかったようだ。あるいは、その意気地がなかったのかもしれない。小規模な盗賊団なので、人身売買のルートも確保していないだろうから、売って金に換えることもできず、仕方なく閉じ込めているといったところか。

 ちなみに、彼は今、塔の外でゆっくりと眠っている。三人まとめてロープでぐるぐる巻きにしてあるので、目が覚めても身動きが取れないに違いない。自由にしてやると言ったような気もするが、その約束を守る義理もなかろう。

 塔の中は、どこか湿っぽく黴臭い。長年たまりにたまった埃が、雪のように中空をさまよっている。ふと見上げると、外から入り込む僅かな光。夜明けが、足音を鳴らしている。

 上へ向かう階段は、途中で大規模に崩落していた。外から見えた損傷部分だろうとあたりをつける。容易には越えられそうもない崩落なので、ここから先に人が立ち入ることは考えにくい。残り二人の盗賊達は地下にいるようだ。私は階段を引き返し、地下へと降りていった。

 地下に行くにつれて、黴の臭いと湿気はますます強くなっていく。空気の流れが遮られているのだ。まだ早朝で気温が低いにもかかわらず、少し蒸し暑ささえ感じる。

 螺旋状に作られた階段が終点を迎え、塔の中心部につながる扉が現れた。階段からつながる通路の先には、壊れた樽や木箱が積まれている。

 僅かに開いた扉の中から、二人の男の話し声が漏れてきた。

「……頭、あの……やっぱり……できませんぜ……」

「馬鹿言え……に売ればこんなもん……二束三文……とにかく今晩……」

 どうやら、積荷を売却するか否かで揉めているようだ。近々、古物商にでも売却するつもりだったのだろう。面倒なことになる前に手が打てたというわけだ。

 私は、わざと音が立つように扉を押し、通路の奥に脇に身を潜めた。ナイフを抜いて、逆手に構える。

「ん、何だ……扉が……おいジョナサン、見て来い」

「うす」

 足音が近づいてくる。ジョナサン――副長格の男だろう。

「誰かいるのか? トッドか?」

 扉を開けて、これも没個性的な盗賊スタイルの男、ジョナサンが現れた。こちらには気付かず、階段の方をむいてしきりに仲間の名前を呼んでいる。私は、背後からジョナサンに近づくと、左腕でジョナサンの首に組み付いた。

「うお! 何をしやがる!」

 私の腕を引き剥がそうと必死にもがくジョナサンの横面に、ナイフの刃をぴたりと添えてやる。少しでも顔を動かせば、よく研がれた肉厚の刃が顔面に血の筋を付けることになるだろう。

「大人しくしろ」

 ジョナサンの耳元で、なるべくドスの効いた声で囁きかけてやる。彼はそれだけで、実にあっけなく抵抗を止めた。私は、冷たい刃の感触に震え上がるジョナサンを盾にして、塔の中心部に作られた部屋へと進入した。

「どうした、ジョナサン!」

 盗賊団の頭が、音を立てて椅子から立ち上がる。頭とは言っても、残りの盗賊共と何ら変わらぬ格好である。ただ、彼だけが、髭を伸ばしている。尤も、手入れも何もされておらず、ただだらしなく伸ばしていただけのようだが。

「か……頭ぁ、助けてくれぇ」

「情けねぇ声を出すんじゃねえジョナサン! やい、てめえ何者だ! 俺たちをアモット盗賊団と知ってのことか!」

 いきり立って、木のテーブルに立てかけた戦槌を握る盗賊団の頭、アモット。いや、正確には彼が自身で名乗ったわけではないが、盗賊団はボスの名前を頂くのが慣例となっているので、やはり彼の名前もアモットなのだろう。尤も、姓か名かは分かりかねるが。いずれにせよ、私は彼をアモットと呼ぶことに決めたのだった。

 室内をぐるりと見回す。アモットの背後に、さらに階下へつながる階段があるようだ。部屋の中に牢屋らしきものは見当たらないので、その階段がユノ=マイセンが閉じ込められているという牢獄につながっているのだろう。

 私は、ジョナサンの頬にナイフを宛がえたまま、アモットに言った。

「私はミオ=ルーシア。冒険者ギルドの命を受けて来た。お前たちが、十日前に襲った馬車の積荷はどこだ」

「はぁ? ふざけんじゃねえ! 誰が教えるか!」

「ここにあることは分かっている。素直に差し出せばそれでよし。抵抗するなら、お前の部下が死ぬ。さあ、どうする?」

 もちろん、ジョナサンを殺す気はない。こんな小物達を殺したところで、一カッパーにもならないどころか、官吏の厳しい詮索を受ける羽目になるだけだ。だが、脅しで目的を達成できるのであれば、話は早い。そう思っていたのだが、どうもアモットはこちらの脅しには屈する気がないようだ。

「ふん、殺したければ勝手に殺せ。アレは絶対に渡さんからな!」

 と、戦槌を構えるアモット。よほどの高値で買い手が付いたのだろう。それにしても、部下の命をもあっさりと捨てるような物言いはいかがなものか、とは思う。所詮、盗賊団などはそのようなものなのかもしれないが。

「そんなぁ……頭、ひでぇ……うっ!」

 ナイフの柄でジョナサンの後頭部を殴打し、気絶させる。哀れなジョナサンは、顔面から床に倒れこんだ。

 それと同時である。

「おおおりゃあああああ!」

 アモットが、雄たけびとともに戦槌を振りかぶり、こちらに突っ込んできた。が、もともとこんな狭い場所で振るうものではない。柄頭が天井の石材にぶつかり、甲高い声を上げる。その衝撃に、アモットは大きく上体を仰け反らせた。

「しまった!」

 そのまま戦槌の重みでバランスを崩し、後頭部から地面に激突する。自爆。私は何も――ナイフを構えてすらいない。

「うおおおおおおお!?」

 頭をしたたかに打ち、転げまわるアモット。大の男が、半泣きになりながら地面を転がる姿は、間抜けを通り越して笑いさえこみ上げてくる。それにしても……

「うるさい!」

 私は、転げまわるアモットの鳩尾に拳を突き立て、彼を黙らせることに成功した。


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