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The pupil of the beast  作者: 高田屋 熊之助
第二章:ユノ=マイセンの場合
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 私がここに閉じ込められて、どれくらいの時間が経ったでしょうか。

 空気の流れの少ない、ひどく息苦しい牢屋の中には、おひさまの光も全く入ってこないので、時間の感覚もほとんど麻痺してしまったようです。

 はじめの頃こそ、どうにか出られないかと考えたものですが、今ではそれにも飽きて、時々故郷のことを思い返す以外は、寝て過ごしています。少しでも体力を温存するためです。そう、もし牢屋を出られたとしても、外には怖そうな盗賊さんたちが五人もいるのですから。彼らも、私を飢え死にさせようとは考えていないみたい。時々、少しではあるけれど、食事を持ってきてくれるのです。決まって、ジョナサンさんという人が持ってきてくれます。盗賊団の副リーダーだそうです。でも、そうのんびりもしていられないかも。早くここを出ないと……あせる気持ちとは裏腹に、相変わらずエネルギー切れの状態が続いています。

 それにしても――

「どうしてこうなっちゃったのかなぁ……」

 何度目になるでしょうか。横になっていた私は、ため息混じりにそうつぶやいていました。

 そもそもの始まりは、ウィンストンで顔なじみになった宿屋のおかみさん、ジーナさんの依頼でした。あー、そういえばあの特製パエリア、おいしかったなぁ……また食べたいけど、私、ここから生きて出られるかしら……って、そうじゃなくて。

 そうそう、ジーナさん。お母さんの形見の指輪を盗賊さんに奪われたそうで、すごく悲しそうな顔をしてたっけ。ジーナさんは奪われたものは仕方が無いって言ってたけど、私は思わず、取り返してあげるって言ってしまったのです。だって、ジーナさんのお母さんの想いが詰まった指輪を、盗賊さん達の勝手にはさせたくなかったから。まあ、何度もジーナさんに止められちゃいましたけど、そこは強引に説き伏せて、ギルドに依頼を出してもらったんです。冒険者ギルドでは、依頼人と冒険者が直接契約を結ぶことが禁じられているので、ちょっと面倒だったけど。危険度は3。私は三級資格を持っているので、問題なく依頼を受けることができました。でも、私はこのときにもうちょっと思慮深くなるべきでした。

 ジーナさんに見送られ、意気揚々と街を出たのは良かったのですが、なんと、盗賊さん達が根城にしているという砦にたどり着く前に、森の中で携帯食料が尽きてしまったのです。これが街道近くであれば、街道を通る行商人から買い求めることもできたのですが……その時点では、街道まで出るより、砦まで行くほうがはるかに距離が短かったですし、そもそも都合よく行商人が通るかも分からなかったので、私は空腹をこらえて砦に乗り込むことにしたのです。でも、当然ながら、おなかが減っている状態では、満足に動けるはずも無いわけで……自分でも驚くくらいあっさりと、見張りの盗賊さんに捕まってしまったのでした。

「あーあ、せめてお魚でも釣って食べてたらなぁ」

 また、ため息。いまさら嘆いてもしょうがないことではあるのですが。

 さて、捕まってしまった私は、盗賊団のお頭さんのいる地下の小部屋まで連れて行かれたのですが、そこには、盗賊さん達だけでなく、なんともこの場に似つかわしくない女性がいたのでした。全身を真っ黒な衣装で包んだ、ちょっと怖いくらいの美女。服は全部真っ黒なのに、髪の色はとても鮮やかな金髪で、唇には真っ赤な紅をさしていて、そのコントラストがなぜか異様に見えたのでした。聞こえてくる会話の内容から察するに、どうやら、盗賊さん達が盗んだものを買い付けに来たようです。

 その女の人は、一見笑顔を浮かべながらお頭さんとお話をしていたようですが……私は見ちゃったんです。あの人の目。氷のように冷たい目。ほんの一瞬だけ、私の方を見た、あの目……まるで、虫さんを見下すような、人を人と思っていないような……

 思い出しただけで、背筋がぞくりと震えるんです。あの人は、目的のためなら何でもするような人なんだと思います。欲しいものがあれば、持ち主を殺してでも奪い取るような。だから、あの人がもう一度ここにやってくる前に、ここから逃げないと、私まで殺されちゃう!

 少し冷静さに欠けているのは分かっているのですが、長い時間閉じ込められていた私の精神状態は、やっぱり不安定になっているのだと思います。一度妄想が暴れ出すと、何をどうがんばっても、最悪の結末しか想像できなくなっていたのです。

 殺されちゃう。早くここから逃げないと、私も盗賊さんも、みんな殺されちゃう。

 でも、体が動かないのです。きっと恐怖と混乱のせいでしょう。私は、ローブに包まったまま、牢屋の隅でがくがくと震えているしかなかったのです。

 そんな時でした。

 上の階で人が暴れるような物音と、盗賊さん達の悲鳴が聞こえてきたのです。


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