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The pupil of the beast  作者: 高田屋 熊之助
プロローグ
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プロローグ

 いつも夢に見る光景がある。

 目を閉じて、少し物思いにふけっていると、思い出される場面がある。

 その情景は、空想というにはあまりにも生々しく……まあ、それは当然だろう、何せ私自身が経験した、過去の事実なのだから。

 私がまだ、あどけない少女だったころ――そう、村の小学校に通っていた頃の出来事である。

 当時私が住んでいた村は、帝国領の最果てだった。ファルマ王国領とのちょうど境界付近――教義境界領と呼ばれる地域である。

 今から二十年ほど前だ。ファルマ王国と帝国との間に、大規模な戦争があった。帝国が国教と定める「正教会」と、ファルマ王国――より正確を期すならば、ファルマ教諸国との聖戦、通称「第四次統一戦争」である。

 帝国と正教会は、それまで三度の聖戦を経て、暴力によりその版図を広げてきた。その結果、以前は中央大陸を正教会と二分していたファルマ教諸国は、ついに中央大陸の南西まで追いやられた。中央大陸での勢力を大きくそがれたファルマ教諸国は、海の向こうの未開の世界であったアラニア大陸へとわたり、そこで再興する。再び帝国にとっての脅威となったファルマ教諸国に対し、帝国が宣戦布告。帝国の安全と、異教徒の教化を大義名分とし、第四次統一戦争が幕を開ける。

 私の郷里は、その戦争に巻き込まれた。たまたま教義境界領にあったというだけで、正教会の武官に滅ぼされてしまったのだ。言葉にするとただそれだけのことであるが、その光景の凄惨さは、実際に目の当たりにした人間にしか分かるまい。燃え上がる炎が天を焦がし、人を焼く様を、誰が知ろうか。馬蹄に踏みしだかれ、砕けていく背骨の音を、誰が想像できようか――そして、「聖なる刃」に肉体を貫かれた者たちが上げる叫び声が、いまだに私の鼓膜を震わせ、眠りを妨げるのだ。

 私たちは、おおむね敬虔な正教会の信徒であった。確かに軽微な戒律違反はあったかもしれないが、その村の住民はみな、朝に夕に神に祈りをささげ、ささやかな幸せを享受していた。

 それが、何かの罪であろうか。

 それが罪であるならば、暴力でその支配を広げてきた現在の正教会はなおのこと、咎めれられるべきだろう。

 それとも、神が与えたもうた試練とでも言うのか。

 そうであれば――

 愛する家族と隣人を蹂躙し、陵辱し、虐殺し、滅殺し、絶滅させしむることが試練というのであれば――

 私は自ら、信仰を捨てよう。

 神の慈悲を請う無力な子羊であることを止め、自らの意思で生を切り開く、一匹の獣であろう。

 血を失い、次第に薄れていく意識の中で、猛る炎にそう誓った。






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