飛び込んだ極秘ミッション
結婚式当日まで残り一週間。
使用人の誰もが雰囲気をピリつかせる中、犬井に緊急で極秘のミッションが与えられた。
「ミモザ様、本当に何ですか? これ」
厨房の天井裏。
料理人たちの怒号やカチャカチャと調理器具が擦れる高い音、食材を焼いたり揚げたりする音が天井まで満ちて非常にやかましい。
それでも犬井は下にいる料理人たちに自分らの存在を悟られまいと可能な限り小声で問いかけた。
呆れた様子の犬井にミモザも怪訝な表情になる。
「何って、厨房だけれど」
あっさりと言うミモザに犬井がふるふると首を横に振る。
「それは分かるけど、そうじゃなくて、どうしてわざわざ厨房の天井裏に忍び込もうと思ったのかを聞いてるんです。こんなとこ、普段は掃除しないから埃だらけで汚いですよ。人が入る想定なんかしてないから丈夫な造りもしてないし、危ないです」
犬井が真っ当に叱ればミモザはプクッと頰を膨らませる。
「いいじゃない、少しくらい。私、結婚式で出る料理をまだ一つも知らないのよ。知ってるのは、毎日料理人たちが式のために美味しい試作品を作り続けていることだけ。あ! あのローストビーフ美味しそう! あっちのケーキも!」
天井の隙間から厨房を覗き込む。
キラキラと瞳を輝かせる姿は少女のようで愛らしいが、やはり少しはしゃぐだけで細かな埃が宙を舞う環境は問題だ。
犬井はキュッと眉根を寄せると、「もう出るよ」とミモザの手を引いた。
「えー、もう少し見ていたかったのに。それに、お肉を味見してみたかったわ」
「味見って、まさかここで食べるつもりだったの? 駄目ですよ」
「だって……」
「だいたい、料理なら当日食べたらいいでしょう?」
「食べられないわよ。花嫁が大量にご飯を食べるなんてできないもの。貴族はそういうものなの」
「難儀ですね。それなら、夕食に出してもらったらいいんじゃないですか?」
「いいかしら、そんな我が儘を言っても」
「あれだけ大量に作ってるんだから余ると思うよ。それをもらうのは我が儘なの?」
キョトンとした表情の犬井にミモザが苦笑する。
「おバカね。私が夕食をリクエストしたら、どんなに作り置きがあったとしても、一から作り直したものを持ってくるに決まってるでしょう。結婚式用のまだ完成しきってない料理を出させるなんて、きっと料理人泣かせね」
「そうなんですか?」
「そうよ。でも、私、やっぱり今日は我が儘を言うわ。ありがとう、マオ。私、今日の夕飯が楽しみよ」
嬉しそうに笑うミモザに犬井が首を傾げる。
「次はあっちに行きましょう」
ミモザが元気に犬井の手を引く。
二人は静かに天井裏を抜け出した。




