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虚無な人生を終えたので、二度目はケモ耳メイドとして魔物を愛でながら飼育係の青年にお世話されます。  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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不審者

 ミモザの護衛が始まって以降、犬井は一つの気配が気になっていた。


 時間は不特定だがミモザが執務室にいる間、その気配は部屋から離れた場所をウロウロと動き回っている。


 最初の頃は新人が慣れずにあやふやな動きをしているだけだと考えていた。


 しかし、その気配を観察し続けた結果、どうにもその人物はミモザに用があるようなのだ。


 危険の芽は摘んでおく必要がある。


 そのため、犬井は物陰に隠れてジッと執務室の扉を見つめていた猫獣人の少女を捕まえると、軽く殴って気絶させ、ミモザたちの前へ連れてきたのである。


 縄で両腕を縛り上げられた彼女は雑にカーペットの上で寝かされている。


 犬井がうつぶせになっている少女を仰向けにすると、顔を見たミモザが意外そうな表情を浮かべた。


「あら、この子はマリア?」


「知ってる使用人ですか? 良い方? 悪い方?」


 ミモザもベルテも基本的に使用人は全員把握しているが、その中でも顔を覚え、すぐに名前を出すことができる相手は限られている。


 これからの改革に協力的な人間か、あるいは強固な反魔獣、獣人主義者か。


 緊張で少し硬くなった声で問う。


 しかし、ベルテの方は彼女に覚えが無いようで首を捻り、ミモザも微妙そうな表情を浮かべていた。


「分からないわ」


「分からない? なんで?」


「なんでと言われても、あの子は別に特別な何かがある子じゃないのよ。ただ、少なくない頻度で視界に入り込む時期があったの。だから、何となく覚えていただけよ」


 ミモザは曖昧で微妙そうな表情をしている。


 犬井は「ふぅん」とだけ返事をすると、それから、マリアが不審な動きをしないようジッと彼女を見張った。


 不意にマリアが「ん」と小さく声を上げて身じろぎをする。


「あ、起きたか。寝るな。そのまま目を開けろ」


 胸ぐらをつかんで雑にマリアの体を起こし、カーペットの上に座らせた。


 彼女は「んぇ?」と寝惚けた言葉を出しながらトロンとした眼をこじ開け、それから、ミモザの姿を見るとパキリと固まった。


「念願の執務室に入れた気持ちはどう?」


 犬井が問いかけるもマリアは返事をせず、食い入るようにミモザを見つめている。


 その視線は熱っぽく、どこか狂気的だ。


 ゾワリと冷たいものを背に走らせたミモザが後退る。


 その間にマリアとの視線の間にベルテが入り込んで、それから犬井がマリアを軽く小突いた。


「黙るな。質問に答えろ」


 扱いは完全に罪人に対するものだ。


「ちょっとマオ、あんまり乱暴なことはしないで。マリアはうちの使用人なのよ」


 少し身を乗り出して犬井とマリアの様子を窺うミモザが心配そうに声をかける。


 だが、犬井はミモザの方を振り返らずに、


「不審な動きをする人間に甘い対応はできないので」


 とだけ冷たく吐き捨てた。


 マリアは「ミモザ様」と感嘆したように小さく言葉を漏らすと、それから、モジモジと緊張した様子で犬井とミモザを交互に見つめた。


 モコモコの毛皮に覆われていても分かる真っ赤な頬は恋をする乙女のようで、マリアの不可思議な様子にますます場の緊張が高まっていく。


 そんな中、マリアが再び小さく口を開いた。


「あ、あの、えと、私はマリアと申します。執務室に入れたのは、あの、夢のようです……」


 震えた細い声でポツリポツリと声を出す。


 どこか夢心地な瞳は蕩けていて、蒸気を発するような口元も浮かれている。


「あっそ、良かったね。で、どうして執務室に入りたかったの?」


「わ、私は、ミモザ様をお慕い申し上げておりますので、そ、その、その、ご尊顔や働いている姿を一目見たくて。そ、それに、差し上げたい物もあったのです」


「あげたい物? 何?」


「私のポケットに入っております。大したものではございませんが」


 恥ずかしそうに身をくねらせるマリアを無視して、犬井は無造作に彼女のポケットに手を突っ込むと、そこからクッキーを取り出した。


 クッキーは丸くてシンプルな見た目をした、ごく普通のものだ。


 透明な袋に入れられ、頭をひもで縛られたソレは友人間のプレゼントならまだしも自身の雇い主である貴族に渡すような物ではない。


 本人がクッキーにどのような思いを込めていようと、マリアのソレは無礼なプレゼントに成り下がるだろう。


 犬井のようなミモザ付きのメイドに叱責されても仕方のない代物だ。


 しかし、犬井は別の理由で怒りと警戒を込み上げさせ、ギロリとマリアを睨みつけた。

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