護衛の申し出
ミモザ曰く、屋敷内においてベルテとの結婚に反対する者はそれほど多くないらしい。
婚約そのものは一年以上前から結ばれていたわけであるし、なにより使用人には保身的な者が多い。
いわゆる長いものに巻かれろ主義の者が大半で、基本的に権力には逆らわない。
そもそも、彼らが反魔獣・獣人主義である理由だって、これまでの当主の意向に沿ってのことだ。
ミモザの思考さえ変われば少なくとも四割の者がミモザになびく。
半数近い人間が意見を変えれば、他の人間だってあっさりミモザに染まっていく。
強行的に事を進めれば思わぬ反発が出る可能性もあるため慎重に進めてはいるが、想定ほど改革は難しくなく、ベルテとの結婚も概ね問題ないというのがミモザらの判断だった。
しかし、使用人の中にはごく一部ではあるものの強く保守的で、差別主義をベリア家の伝統と重んじ、ミモザに従うことができない者もいる。
そういった者が徒党を組んで結婚式を破壊、あるいはミモザたちに危害を加える恐れがあるため、彼女は犬井に式の警護を頼んだのだ。
「ミモザ様の結婚式、私だって成功させたい。だから、警護は構わないです。でも、式だけでいいんですか? 少なくとも式が無事に終わるまではミモザ様の護衛をした方は良いと思いますけど」
「え? でも、それは……貴方にだってゴルダの訓練相手とか他にたくさん仕事があるでしょう。反対派だってそこまでするか分からないし、それに、私のために無理させることはできないわ」
「ミモザ様は当主の自覚があるのかないのか分かりません。たまに、おかしなくらい自分を軽んじる。想定を甘く見る。こういう時は過剰に身を守るべきですし、そのためにベリア家の使用人が死力を尽くすのは当然のことです。私はミモザ様のメイドですよ」
一見すると無表情な犬井は酷く真剣だ。
彼女の感情を随分と読み取れるようになったミモザは数度まばたきをし、それから恥ずかしそうに顔を背けた。
「そうね、ごめんなさい。でも、マオがそう言ってくれて嬉しいわ。ふふ、意外とメイドとしての自覚があったのね」
「当たり前です。じゃなきゃ、お茶会すっぽかしてますから」
「そう。それならもっと友達としての自覚も持ってほしいものだわ」
「友達? 別に、そっちの自覚もありますけど。私とミモザ様は、表面上は主従関係だけれど、実際には友達で対等なんじゃないんですか?」
急に不貞腐れるミモザにキョトンと問えば、彼女は驚きで目を丸くした。
「なんで、そんなにビックリ?」
「だって、貴方今まで一度も私を友達として認めなかったじゃない。それに、今の言葉だってメイドだから渋々お茶会に参加して私の護衛をしてくれるって意味にしか読み取れなかったわ。メイドだから、義務で、仕方なく我慢をして、私に付き合うつもりだったって。それなのに、急にそんなこと言われたらビックリするわよ」
「そうですか? まあ、確かに今までミモザ様を積極的に友達扱いしなかったことは認めますけど、でも、全く親愛の気持ちがなかったわけじゃないっていうのは伝わってると思ってました。私は義務と自分の気持ちを天秤にかけて、後者が重ければ簡単に仕事を放棄しますし。ミモザ様、たまにちょっと卑屈すぎますよね」
小馬鹿にするように鼻で笑えば、ミモザが
「なんてことを言うのよ! マオのおバカ!!」
と、ポコポコ怒りだす。
しかし、犬井はどこ吹く風でミモザをスルーするとトレーに視線を移した。
「トレー、ごめん、そういうことだからしばらく職場を離れる」
「気にすんなって。むしろ、お嬢様の一大事に魔獣の世話をされてた方が困っちまう。元は俺一人で担ってた仕事だし、どうとでもなるよ」
「うん。ありがとう」
「悔しいけど、俺じゃ足手まといになるだろうからさ、お嬢様たちのことを守れない。だから、二人をよろしくな」
トレーの言葉に犬井がコクリと頷けば、彼が褒めるようにワシワシと彼女の頭を撫でる。
犬井は飼い主から命令とご褒美をもらった犬のように激しくやる気を上げ、嬉しそうに「頑張る!」と宣言した。




