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虚無な人生を終えたので、二度目はケモ耳メイドとして魔物を愛でながら飼育係の青年にお世話されます。  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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ツンとデレ

「ねえ、私ね、魔獣に慣れるために、まずはどうしてベリア家がこんなにも魔獣を嫌っているのか調べてみたの。そしたらね、初代は魔獣を忌み嫌ってなどいなかったんですってね。おかしくなったのは、四代目から。四代目から、魔獣を苛烈に支配し、自分たちよりも下等な存在として扱うようになった。私、どうしてなんだろうって疑問だったけど、今日、分かったわ。きっと四代目は魔獣が怖かったのね」


 四代目の当主は、初代から見てひ孫にあたる。


 初代当主は魔獣に対する思想、扱いは非常に優れていたが、同時にひどく変わった人物だった。


 魔獣を使って賊を捕らえ、国に敵対する勢力を打ち倒し、巨万の富や名声を手にしても、そちらには見向きもしない。


 彼の目的は、魔獣たちと穏やかで豊かな日々を過ごすこと。


 そこにギラついた宝石や金貨、欲望渦巻く複雑な人間関係など無用だ。


 初代はただ魔獣たちを愛でて、時折、彼らのストレスの発散を手伝うのと食いぶちを手に入れるために戦場へと赴いた。


 当主の座も早々に息子へと明け渡し、世代交代が進む。


 しかし、初代は存命である間はずっと魔獣の世話を続け、彼らと家族であり続けた。


 二代目、三代目の当主も扱いの難しい魔獣の相手を初代に丸投げしていた。


 そのため、三代目までは魔獣は屋敷のパートナーであり、魔獣たちは初代以外の兵とも協力して戦果等を上げた。


 だが、魔獣とベリア家の関係性も初代が亡くなってから崩れ始める。


 初代が亡くなった時、ちょうど当主の座についていた四代目では、まともに魔獣を御すことができなかったのだ。


 魔獣たちがベリア家に従っていたのは、あくまでも初代のため。


 彼らの中に、ベリア家に対する忠誠心や服従心は存在しない。


 当然に、四代目やその使用人らも自分の上の立場にある者として認めなかった。


 利用することができないどころか手酷く反抗し、次々に私兵を壊す魔獣を見て、四代目は強い怒りと恐怖を覚えた。


 そのため、当時では随分と発達していた武器や道具を使い、暴力で魔獣を支配することに決めた。


 魔獣の存在が恐ろしくて堪らなかったから、彼らを汚い、野蛮だ、知能がない、などと誹謗中傷し、自分たちより劣った存在であると示し続けた。


 そうでなければ、自己を保てなかった。


 そんな汚らわしい四代目の思想が、ミモザはどうしても理解できてしまった。


「私、あんな弱っちい男と同類になるなんて嫌だわ。だから、今からできるだけ魔獣の優れたところを見つけて認めるって決めたの」


 胸に手を当て、キリッとした表情で宣言をするミモザは自信に満ちている。


 ミモザの膝に座ったままのメティが感心するように彼女を見上げた。


「いいと思います」


 軽い調子で頷く犬井は普段の淡白な空気を纏っている。


 それから、犬井は張り切るミモザと共に魔獣のブラッシングを続けていたのだが、しばらくすると急にミモザがモジモジとして犬井をチラチラと見るようになった。


「何? ミモザ様」


「いえ、何でも……ただ、あの、私たちって友達よね?」


「え? ん~、う~ん?」


 恥ずかしそうに頬を赤らめ、そっと問いかけるミモザに対し、犬井の態度は冷たい。


 犬井はキョトンとした後、しきりに首を傾げて不明瞭な唸り声を上げた。


「ちょ、ちょっと、何よ! まさか貴方、私と友達のつもりがないって言いたいの!? 貴方が頼むから魔獣小屋にまで来て、本来なら使用人がやるべき仕事を、というか、メイドである貴方の仕事を手伝ってあげているのに!? 崩れた敬語も、無礼な態度だって許しているのに!?」


「許すとか許さないとか、根本的な所で他人を見下しているようじゃ、誰とも友達にはなれないと思いますよ」


「ぐふぅっ!」


 今度の犬井の言葉は太く大きな槍だ。


 これが矢のように軽い調子で放たれ、ミモザの心に深く、深く突き刺さった。


 心臓には大きな風穴があいて、そこからダラダラと大量の血液が零れだしている。


 立ち直れない彼女が、思わず地面に膝をついた。


「……なさい」


「え? 何?」


「貴方のお耳を触らせなさい、マオ。今すぐよ!」


「耳? なんで?」


「いいから早く」


 ポコポコと怒りながら催促するミモザに首を傾げて、犬井は軽く屈み、彼女に頭を差し出した。


 ミモザがニンマリと悪い笑みを浮かべる。


「ふふ、マオが私に跪いているわ。いい気味ね。わっ! マオの耳、モフモフであったかい。絹みたいな触り心地。それに、ピコピコ動いて、意外と可愛い……のね」


 初めは勝ち誇っていたミモザも、気が付けば夢中になって犬井の大きな狼耳を撫でていた。


 そして、後から彼女の耳の虜になったことに気が付き、恥ずかしくなって段々と声を弱めていった。


「私の耳はトレーが毎日丁寧に整えてくれるから一級品で当然。でも、ミモザ様は意外と可愛い物が大好きですね。メティのことも可愛いって褒めて、嬉しそうにしてたし」


「な、何よケダモノの分際で! べ、別に私は全身毛にまみれた生き物のことなんて! べ、別に、ベルテはもっとモフモフなのかな? とか、肉球はどうなってるんだろう、なんて思ってないんだからね!」


「照れ隠しに罵倒するの、やめた方が良いですよ。大体、素直になるんですよね。認めたらいいと思いますよ、魔獣は可愛くて、ミモザ様もそういうのが大好きだって。それに、触りたいならベルテ様に直接お願いすればいいのに」


 決意に対し言葉と態度、それに行動が不一致で矛盾している。


 犬井はミモザに呆れた視線を送った。


 すると、ミモザは顔を真っ赤にして首を横に振る。


「い、嫌よ! 私、まだ獣人のこと、そんなに好きじゃないんだから。マオは友達だから興味が湧いただけ! ベルテのことなんて、絶対に触れないわ!」


「でも、ベルテ様は私と違って全身がモフなタイプの獣人だから、腕とか頬とか、場所によって毛の質も違っていて楽しいと思います。さっきだって、狼の魔獣にブラシをかけながら散々モフッてましたし。もしかしてミモザ様、可愛い魔獣だけじゃなくて狼も好きなんじゃないですか?」


 ふと、ミモザが可愛らしい羊やリスの魔獣以外にも、相手が狼魔獣の時は時間をかけてブラッシングをしていたことを思い出す。


 初めは怯えて、なかなかブラシをかけられずに時間がかかってしまっているのかと思っていた。


 しかし、ミモザの態度をよく観察していると、次第に彼女が狼の鋭い瞳や牙、凶悪な爪なんかに見惚れ、体毛が艶々と輝くように熱心にブラッシングをしているのだときがついた。


 そして、彼女のそんな姿を犬井は意外に思っていたのだ。


 だが、ミモザは顔を真っ赤にすると勢い良く首を横に振って、大慌てで犬井の言葉を否定した。


「そ、そんなわけないでしょう!? 私が、狼なんて好きなわけないんだから!」


「いや、でも」


「好きじゃないの! それに、ベルテには絶対に触れないわよ!」


 否定を繰り返す姿は頑なだ。


 基本的にミモザは素直ではないし高飛車な性格をしている。


 犬井が何を言おうとミモザが発言を覆すことはないだろう。


 そのため、犬井はこれ以上、ミモザに言葉をかけるのはやめて仕事に戻ったのだが、ふと、彼女が最後に呟いた。


「絶対、触れないんだから」


 という言葉に酷く寂しそうで悲しそうな心が滲んでいるのに気が付いて、少し引っ掛かりを覚えた。

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