喪失と獲得の夜
『なんで俺、マオのことは襲いたくないって思ったんだ?』
数時間前まで発情期に苦しみ、震えて熱を上げるばかりだった体も、欲を発散するためならばスルリと動く。
押し倒されたまま犬井の体をまさぐって、そのままぼんやりと考え事を始めた。
緩く動く理性に反し、素早い衝動は既に彼女の服を上まで捲り上げている。
ずっとキスを強請っていた犬井だが、一言も声をかけられずにあられもない姿にさせられて、体だけを求められる。
それでも文句ひとつ言わず、従順に身を差し出す姿にトレーは満ち足りた幸福を覚えた。
『俺に好意らしいものを寄せるコイツが、欲に怯え、俺を拒絶するのを見るのが嫌だったのか? それとも、無垢なガキっぽいコイツを襲う罪悪感がえぐかったとか? でも、コイツ、まあまあスケベなんだよな。それに、まだ、何かが引っ掛かる』
両腕で犬井を抱き締めると同時に、手のひらは柔らかさを弄んでいる。
食べたがりの口が、犬井の唇を襲った。
『マオが転生者なのは、この際、関係ない。強姦したら天罰がヤベーってだけで、マオがノリ気なら神様からのおとがめもねーはずだからだ。そしたら、俺はどうしてこんなに』
熱い舌で唇を舐め、歯をなぞり、小さな舌に絡みつく。
そうして、犬井の小さな口を滅茶苦茶に責め立てた。
彼女の濡れた唇から漏れる甘い吐息、強請るような息切れの音に夢中になっていく。
「トレー、あい、しふぇる」
欲に解放されたばかりの痺れて呂律の回らなくなった舌で、犬井が小さく愛を誓う。
途端、トレーの中に性欲とも違う正体不明の感情がせり上がり、それが体中を満たした。
既に正気を失いそうなほど興奮しているが、謎の感情がそれに拍車をかける。
「俺も愛してる」
熱にのぼせたまま、口が勝手に愛を返す。
トレーの言葉に犬井がへたりと蕩け、全身を脱力させたのを見ると、食べやすくなっていいなと思った。
「かわいい。マオ、好きだよ」
猫なで声で甘やかして、犬井の無垢な愛らしさを享受し続ける。
この頃には、あれこれ考えていた理性を失って、衝動だけで口と体を動かしていた。
酷く甘い時間を明け方まで繰り返していたからだろう。
トレーが次に目を覚ます頃には欲はすっかり満ち足りていて、どうしようもない満足感に包まれていた。
そして、それと同時に何かを得たような、あるいは失ったような感覚を覚え、困惑していた。




