ユニコーン
「もうずっと風呂なんか入ってなかったからサッパリした。怖いのも無くなったよ。ありがとうな、ユニコーン」
体から寒さが抜ければ、今度は発情期の性質が強まって猛毒のような熱が体内に回る。
トレーは熱く震える手で頬を撫でたが、ユニコーンはブルル……と力なく鼻を鳴らすと、悔しそうに首を横に振った。
発情期は明らかな身体、精神への異常をもたらすが病気ではない。
病や怪我のように治すべき明確な部位や殺すべき細菌がないのだ。
そうすると、ユニコーンにできることは一つ。
癒しの光でトレーを解熱し続けてやることだけだ。
だが、それもできて一日。
何日も休まずに続けていれば、今度はユニコーンの方が持たない。
長ければ十数日かかる発情期には、とても太刀打ちできないのだ。
トレーの言う通り、魔獣たちは、今回ばかりは自分たちに出番がないことを理解していた。
だが、それでも愛し子が苦しんでいるのを放っていられなくて、彼の元までやってきたのだ。
結局、大したこともしてやれなかったユニコーンの瞳に怒り交じりの屈辱が宿る。
自己嫌悪のユニコーンに、トレーが苦しんだまま微笑みかけた。
「そんな顔すんなよ。お前は気高いユニコーンなんだから、俺ら俗物みたいな表情は似合わねーって。俺は平気だ。発情期だって初めてじゃない。ほら、もういいから小屋に戻りな」
トレーがポフポフとユニコーンの頬を撫でる。
ユニコーンは少しの間、黙り込んで、申し訳がなさそうにほんの少し頭を下げると、ゆっくり立ち上がった。
そして、名残惜しそうにトレーの元から去っていく。
魔獣小屋の方へと戻る間も、パカパカとユニコーンの綺麗で優しい蹄の音が部屋中に響いていた。
それが故だろうか。
トレーはひっそりと部屋に侵入し、自分のすぐ近くにまでやってきていた人物の存在に気が付けないでいた。




