襲撃?
薬剤によって深く眠り込んだ深夜、トレーは硬い爆音とともに目を覚ました。
『なんだ!?』
ギョッと起き上がるトレーの体は脂汗にまみれてグシャグシャだ。
体もまだ小刻みに震えていて冷たい。
そこには、確かに悪夢に怯え、うなされた形跡が残っていた。
『まさか、マオじゃないよな。それとも、いや、でも、そんなわけは』
嫌な心地を引きずって、音の先を酷く警戒しながらベッドランプをつける。
すると、真っ暗だった室内がベッドを中心にぼんやりと照らし出された。
黒っぽい空間の奥を凝視すれば、壁の一部が大きく破壊され、その奥から複数の魔獣が目を光らせているのが見えた。
心配そうにトレーを見つめる彼らは、ユニコーンやクマ魔獣のゴルダ、アザラシ魔獣のペリアなのである。
「お前ら……」
妙に安心したような、呆れた言葉がトレーの口から漏れ出る。
緊張した体からカクンと力が抜けて、トレーは苦笑いを浮かべていた。
かつて、トレーは件の魔獣たちと共に魔獣小屋の中で暮らしていたわけなのだが、彼の居住宅である小屋も、この魔獣小屋を改装して作られた。
故に、薄壁一枚で隔てただけで、トレーの部屋のすぐ隣には魔獣小屋がある。
これが、トレーの小屋が屋敷の者たちから「魔獣小屋」と呼ばれる理由であり、臭くて汚いと揶揄される原因もここにあった。
壁で部屋を仕切っているとはいえ、トレーの小屋は魔獣小屋からの影響をもろに受けてしまうのだ。
夏場は特に獣の匂いが強くなるから、それが部屋までやってきて籠るし、壁の近くで魔獣が粗相をすれば、やはりトレーの部屋に被害が出る。
トレーにとって魔獣は家族だ。
故にトレーはこの環境を許容していたが、普通の人間にとって衛生上、あるいは倫理上、よろしくないことは述べるまでも無い。
そのため、犬井が小屋の事情を知った上で住みたがった時にはミモザ以上に驚いてしまったものだ。
「いいよ。お前らにできることはない。俺は平気だから、眠りな」
寝不足でクマのできた目元を優しく細め、トレーが魔獣たちに声をかける。
しかし、ユニコーンはブルルと小さく鼻を鳴らすとトレーを無視し、静かに部屋へ侵入した。
パカッ、パカッという、低く落ち着いた蹄の音が心地いい。
ユニコーンはトレーのすぐ隣に座り込むと、ゆっくり頭を下げた。
一メートル以上もある太く長い角の先端を虹色に輝かせて、そこから生まれた純白の光を一つ一つトレーの体の上に落としていく。
小さな光の玉は優しくトレーの体内に溶け込んで、震えと精神的な苦痛を癒し、汚れた身体を浄化した。
トレーの身に起こっているソレは、まるで高熱の時に見る頓珍漢な幻覚だが、現実で間違いない。
魔獣たちは昔からトレーが重い病気にかかったり、酷い怪我を負ったりすると、壁を壊して彼の部屋に侵入していた。
そうして、ユニコーンがトレーの体を癒すのをみんなで見守り、無事、不調が治ると皆で彼に駆け寄り、回復を祝うのだ。
おかげでトレーは昔から医者いらず、日曜大工の腕ばかりがやたらと発達していた。




