意外と
文化祭当日。
僕等の担当するクラス旗は途中、アクシデントがありながらも進捗には問題なく今日を迎える。
体育館で開会式の後、僕等は自由時間を得る。
だが、正直なところあまり気乗りはしない。
僕は文化祭が嫌いだ。
あまりにも暇すぎる。
例年は意味もなく徘徊するだけのつまらない行事だったわけだが、今年は違うのかもしれない。
それは、君がいるから。
そう、両手を大きく振って少し早歩きの子供みたいな君がいるから・・・。
自分が付いていけるかと不安になりながらも、色んなことに熱量を持つ君が少しうらやましいよ。
それは僕が無くしてしまったものだから。
「ね、どこからいこっか」
君の声に向かって顔を上げる。
「どこでもいいよ」
僕の返答を聞いて、君は唇を噛んで考える。
「んー悩みますねぇ」
そんなことを冗談めかしく言っては、各クラスの展示を廊下から見て回る。
周りを見渡して歩いていると、君は急に振り返って僕に言う。
「メイド喫茶いきたい!」
その強い語気からは特段の意思を感じた。
廊下の奥の方、メイド姿で客引きをする女子生徒がいた。
君はこういうのが好きなのかと新たな発見に驚きつつ、僕はつられるまま君に付いていく。
彼女らに近づくと、僕等をご主人さまと呼称し、笑顔を振りまいた。
君はこういうので喜ぶのかと思っていたら、存外そうでもないらしく、さっきまでの情熱はどうしたのやら、実に静かなものだった。
このメイド喫茶は大変繁盛しているらしく、順番待ちの行列ができている。
人が多い故か、メイド喫茶だからなのか、こういった空間には独特の空気がある。
どうもそれが僕等には少しばかりの毒なのかもしない。
とはいえ、そんなのは今まで何百回と経験してきたことであり、今更どうこうできる話でもない。
口数の減った君を見て、改めてそう思う。
雑多な喧騒のなか、僕等だけの静けさはそれそれで悪くないとも思いつつ。