静かな
一時は静まり返った教室もしだいに賑わってくる。
次の授業が始まるころには、みんなの思考の外。
君もそうだったらよかったが・・・。
4現が終わっていつもなら、しつこいくらいに「お昼一緒にどうかな」と尋ねてきていたのに、今日は何も言わずに机をくっつけてきた。
一緒に食べることに変わりはないのかと、内心少し安心する。
それからしばらく会話はなく、もくもくともぐもぐするだけの時間が続く。
僕は会話のない静かな時間が好きだ。
なんでかな。
今この時間は好きじゃないな。
なんだろうな。
このむず痒い感情は。
僕も君もこの時間を静かと言うには胸の内が煩い。
君を安心させるような言葉を言いたい。
僕を納得させるような言葉を言いたい。
そんな形のない思いだけが胸の内を埋め尽くす。
具多的な言葉は何もない。
ただ何となく安心したいし、納得したいし、理解したいし、認められたいし、そうさせたい。
君もそうなんだろ。
思えばあの時もいまと似ていたのかもしれない。
あの雨の日の駐輪場での出来事。
あの時は君からだった。
だから今度は僕から。
君に比べれば小さなことかもしれないけれど、ちょっとだけ勇気をだして。
小さく深呼吸をする。
「僕は・・・喋るのが苦手なんだ。喋るのが苦手な僕に合わせて、黙っていてくれて、、、ありがとう」
想いをストレートに伝えられないから、濁して、曲げて、含みを持たせて、それが僕の精一杯。
僕が言いたいのは結局、”君は気負わなくていい”それだけなんだ。
その意をそのまま君がくみ取ってくれるかは分からないけど、少なくとも言葉通りありがとうの意さえ伝わっていれば充分だよ。
当然かもしれないが君は唖然としいる。
こいつは何を言っているんだと蔑むような、憐れむような目をしている。
その視線が痛く刺さる。
こんなことならもっと正直に言うんだったと今、反省している。
もう一度やり直そうと口を開きかけたその直後。
「本よんでくれたんだね」
君がようやく口を開いて、今度は君が意味不明なことを言う。
ん?
何のことだ。
「なんのこと」
君は本当に不思議そうに首をかしげて
「え、あの貸してる本のことだけど・・・」
「・・・それがどうして」
え?
え?
僕も君と同じように首を傾けてしまう。
「いや、だってさっきの、あの本のいんよーーー。え、いや、あのボクが貸した本を読んだんじゃ?」
「ん?半分くらいまでなら読んだけど。それが?」
何なんだ、そんなにあの本を僕に読んで欲しいのか?
読むのが遅くて多少申し負けないと思ってい入るが、仕方ないだろ。
「はん、ぶん・・・半分までね・・・そ、そう」
少し引き攣った笑いを込めて君は言った。
途端に君の顔は真っ赤に染まる。
あまりにも一瞬で、唐突に変貌するものだから、僕はなにかの病気かもしれないと本気で心配してしまう。
声をかけて、肩をゆすっても君は鈍く反応が薄い。
これはやばいと保健室に連れて行こうとした時にようやく、大丈夫と呟く声が聞こえる。
「ちょっと考え事してただけだから」
「そ、そうか」
気付くと心拍が上がって、額に汗が滲んでいた。
なんだか異様に疲れてしまった。
その後少し時間が過ぎて、僕も君も少し落ち着いてきた。
「今日は少し気合を入れて読み進めてみるよ」
君のご機嫌をとるため、君が求めているであろうことを宣言する。
まぁ、多少はいいさ。
これで君も多少は喜んでくれるだろう。そんな目論見だったが。
「いや、いいの。無理しなくて。あ、いや・・・その・・・悪いんだけど、、、ボクも読みたくなっちゃって、その、返してくれないかな・・・」
「え、そう」
少し戸惑いつつも例の本を机から取り出して君に渡す。
それからはいつもの君に戻った。
なんだったんだろう。それが僕の頭の隅に残る。
結局、君の考えはよく分からなかったし、僕の思惑は全て無意味に終わったわけだった。
思い返せば、相当恥ずかしいことをしたと思う。
自分一人の言動で誰かをどうこうできるなんて夢をみていたのかもしれない。
課程はどうあれ、この結果にひとまず安心する。