間違いだらけの私
間違えた。
その言葉が頭の中を埋め尽くす。
間違えた、また間違えた。
放課後の誰もいない教室で一人、頭を抱える。
家族以外の人とあんなに会話したのは、本当に久しぶりの経験だった。
ああ、間違えた。
なんであんなに一人で盛り上がちゃったんだ。
絶対に引かれた。
間違えた間違えた。
朝も私だけ浮かれちゃって、名前も読んじゃって、もう、距離感間違えた。
今日は全体的に距離感と温度感を間違えてた。
気を付けよう。
そう明日はもっと静かにいこう。
動く前に一回考えてからにしよう。
うん、よし。反省会終わり!
一人自分を納得させるために頷く。
少し身体を伸ばして、息をつく。
気が付くと夕方の市内放送が流れていた。
もう帰る時間だ。
開かれたまま放置された本と鞄をもって教室を後にする。
向かう先は特別教室棟の4階トイレ。
この学校に入学して間もないころ、便所飯の決行を決意して、一瞬で無念の撤退をした場所。
そして登校後、下校前に必ず立ち寄る場所。
別に傷心のためにこんな場所を訪れるわけではない。
人通りが少ない閉鎖空間だからここに来る。
いつも通り髪をほどいて、鞄からもう一着の制服を取り出して着替える。
衣服が少しだけ身軽になって、心も少し軽く跳ねる。
ここはボクから私に、私からボクに変わる場所。
帰る前に一応、手を洗う。
鏡に映る私は、男子トイレには異色そのもの。
でも私はその特異な色彩が好き。
これが本当の私。
私を見るほど私が満たされていく。
鏡に顔を近づけて、接触寸前のところでようやく気が付く。
気が付くといつも瞳の奥を覗いている。
それがなんだか触れてはいけない物のように感じて、怖くて目を背ける。
きっと私は間違えている。
ボクと私の不和に惑わされて、本当の私もあやふや。
だから誰かに見つけてほしくて、誰かに見て欲しくて・・・ユウくんは本当の私を見つけてくれるかな・・・。
私はずっと間違える。
友達との距離感も温度感も、生まれた性別も、本当の自分も