憧れの交友
友達になって一日目、朝の一件を覗いてこれと言った変化もない。
友達になったとは言っても、やはり根本的な部分は変わらない。
僕等が築いてきた関係と言うのは、それだけ僕等に適していたということだ。
4現の授業が終わって今はもう昼休み。
この時間は席を立つとすぐ奪われてしまう。
かといってすぐに昼食をとってしまうと悪目立ちしてしまう。
だから適当に読書をして時間をつぶすのが僕等の日常。なのだが。
視界の端で君は何やらもじもじしていて、読書などする様子には見えない。
それを不思議に思っていると君は、机に両手をついて、何かを決心したようにそのまま勢いよく立ち上がった。君が立った。キミが立った!
僕は驚いて、思わず君の方に身体ごと向けてしまう。
君の動きに合わせて、僕の身体は向きを合わせて無意識に動く。
そうして君は僕の目の前にやってきて、一度謎に口パクを挟んだ後、言葉を紡ぐ。
「あ、お昼いっしょにどお?・・・どう、、かな」
言い直す時に少し前かがみになって、情に訴えてくる。
そんなことかと少し安堵して
「う、うん」
しかし、依然動揺は収まりきらず言葉数の少ない返事をする。
君は緊張がほどけた様子で、表情から背筋、身のこなしまで柔らかくなる。
何だったんだ。昼食なんて毎日一緒だったのに。
やはり、君は浮かれているのか、距離感が分からなくなってしまっているらしい。
これからが心配になってくるよ。
そんなことを考えていると、君はまた僕の前にやってきた。
僕が不思議そうな表情を浮かべると、君は
「ご、ごめん、机一つじゃ狭い・・・よね」
そう言って、机を持ってきて僕の正面で机を合わせた。
僕は不思議を飛び越えて困惑して、しばらく固まって、ようやく理解する。
僕はいつもの”タイミングを見計らって個々で同時に食べること”が既に"一緒"だと思っていたから理解に遅れてしまった。
普通、一緒と言えば・・・そうか。僕が間違っていたんだよ・・・な。
うん、自分を納得させるように小さく頷く。
僕があれやこれやと戸惑っている内に、君は既に弁当を広げて、僕を待っていた。
僕は少しずつ君との仲を深めていきたかったから、初日からいきなり一緒と言うのは正直嫌だったのだが・・・。
流石に一度、了承してしまったことを今から撤回して拒絶してしまうのは無理な話だ。
僕はおとなしく、君と一緒を遂行する。
僕等はいつも通り、手を合わせて軽く会釈する。
君がいつもしていることだ。
いただきますと口にこそしないが、その身振りだけでも、君の気品を感じる。
高校生にもなって、学校の昼食でいただきますをする人は少ない。
僕も本当はその部類だけれど、いつも君を見て真似ている。
一緒と言っても結局はいつもと変わらない。
会話などなく、ただ君が横から前に移っただけ。
だと途中まで思っていた。
しばらく続いた僕等の静寂は君が破った。
「ボク、前からこうゆうのに憧れてたんだ。こうやって友達一緒を共有するのに」
そう、とだけ適当に相槌をうっておく。
僕の反応が悪かったのを察してか、続けて口を開く。
「ユウ・・・くんはさ、いつもなに読んでるの」
少し驚いた。ユウとは僕のことだ。
まさかいきなり名前で呼んでくるとは思ていなかった。
さっき机にしまった本を取り出して君に差し出す。
君は箸をおいて、僕の本を手に取り、あらすじを読んだ。
「ボクの知らない作家だ。SFものが好きなの?」
君は少し身を乗り出して僕に言う。
こればかりは熱量を感じたので、適当な返事ではなく会話に切り替える。
「いや、適当に選んだだけだよ」
君はそうなんだと言って、身を引いた。
「ボクはね、断然、恋愛ものが好きなの」
どうしてと質問すると君はまた身を乗り出して
「なんでだろうね。そうだな・・・、ボクは恋愛が一番、人の心を動かすと思っていてね。だからこそ物語ではなく人物が中心にあると思うんだ。それが好きなんだと思うな。やっぱり有名な本と言ったらホラー、ミステリー、SFとかなんだろうけどね。でもボクは恋愛ものが好きだな。あっ、明日ボクのおすすめ持ってくるよ」
僕等には考えられない怒涛の長文。
言葉を紡ぐほどに上がる声量。
あまりの勢いに戸惑っていると、君はようやく自分を客観視したのか、急に顔を赤らめて縮こまってしまう。
君が読書好きなのは分かってはけれど、ここまでとは思わなかった。
それからしばらく沈黙は続いて、ごちそうさまの後
「あッ、明日、持ってくる・・・から」
とだけ言って机を戻して、いつも通り読書を始めた。
君に聞こえたかは分からないけど、僕は小さく、楽しみにしてるよと呟いた。
僕らしくないなと思うけれど、それは、少しだけ君の熱に触れたせいかもしない。