3.終焉への一歩
最初の鐘が鳴ってから数時間が経ち夜になったころだろうか。私が家でのんびり過ごしていた時に、テレビから緊急警報放送が流れた。Jアラート。その時に生まれて初めて見た赤と黒、白だけで構成された画面とどこか恐ろしさを感じる自動音声。内容はミサイル発射情報(だった気がする)で、どうやら近くの国から発射されたとのこと。結果としてこれは原因不明の誤報だったんだけどね。どうやら自衛隊のレーダーが「宇宙で光りながら動く物体」をミサイルと誤検知したらしい。
とりあえずその日は眠りについた。明日が仕事で、遅刻したら面倒なことになるから。
翌朝、いつも通り家で朝食を摂り電車で会社に向かっていた時だっただろうか。突然車内の電気が消え緊急停車した。最初はただの変電所か何かのトラブルと思っていたが、実際はそれを遥かに超える前代未聞の事態だった。
こんな事言われたって何が何だかわからないだろう。
「電力が上空500㎞地点に集中して吸い寄せられてる」
なんて。
唐突に上空500㎞に電気が集まりだすなんて、物理的にも科学的にも絶対にあり得ないはず。
つまり、そこにはどんな物理法則も科学も通用しない「何か」が居たってこと。
とりあえず会社には行けなくなったので電話で連絡しようとしたが、スマホのバッテリーも消えていた。これにはビックリしたよ。まさかバッテリーの電気も丁寧に根こそぎ持ってかれるとは思いもしなかった。
スマホが使えなくなったのも困ったが、それよりも電車の中から出られないのもキツイ。自分が住んでいる地域は都会ではないので満員ではないが、真冬で停電、つまり暖房が使えなくなって車内はほぼ外と同じぐらいに寒くなってゆく。今でも、これならまだ満員電車のほうがマシだと思う。
数時間が経った頃、ようやく作業員の人がドアをこじ開けて避難誘導をしてくれた。横の道路では警察が誘導しており、車は全て止まって動かなくなっていた。
最寄りの駅に戻る最中にふと空を見上げると、戦闘機らしきものが何機、何十機も飛んで行った。これはただ事ではないとその時の私もすぐに察した。
駅に着き、まず最初に目にしたのは、駅員さんが薪を燃やしていたことだった。その時の気温は氷点下を下回っており、雪もちらついていて暖房の一つすら使えない状態だから、きっと低体温症や凍死する人が出ないようにしてたんだと思う。近くのおっさんたちが街路樹を駅員から貰った斧で切り倒し、薪にしてバケツリレーみたいに渡していたのは映画みたいですごかった。そんなこと言ってる場合じゃなかったんだけどね。
さて、とりあえず会社に行くのはどうあがいても無理なので家に戻ることにした。ただ、タクシーや車は全てこの時代には電気か水素自動車になっているし、バッテリーがなくなってそもそも走れなくなっている。そんな時こそチャリが活躍する。人力はいつでも最強だ。この街にはレンタルサイクリングがあるので、とりあえず借りて家に帰ることにした。この時の判断が、私を救ってくれるとは思いもしなかったんだけど。