表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/20

第5話 シャーリー農場の決闘

 夜の空気はひんやりとしていた。 満月の光が穏やかに農場を照らし、麦畑の穂が静かに風に揺れている。 虫の声がかすかに響き、まるで何事もない平穏な夜のようだった。 だが、隼人の胸中には嵐のような決意が渦巻いていた。


 農具小屋の裏手。 焚き火の残り火を囲みながら、隼人はシャーリーと向き合っていた。 カレンとナヤナも傍らに控えている。


「……俺たちが調べた。 シャーリーさん、あんたの夫を殺したのは事故じゃない。 あれは……計画的な殺しだ」


 焚き火が小さくパチ、と爆ぜた。 シャーリーの顔が蒼ざめ、唇が震える。


「……嘘、でしょ……? あの人が死んだのは、道で……落馬して、首の骨が……」


「偽装だ。 奴ら──あの保安騎士グラフトと、 あの冒険者崩れの一味が仕組んだ。 証拠もある。  昨日、カレンが直接掴んできた」


 カレンが黙って、録音札(魔符)を取り出す。


「会話をまるごと記録したわ。 あいつら、次の襲撃ではリラちゃんを人質に取って、シャーリーさんを好き勝手にするって……」


 シャーリーの手が震える。 目に、はらはらと涙が溜まりはじめていた。


「……どうして……どうして、そんなことが……!」


 彼女は、肩を抱いて震えた。 悔しさ、怒り、恐怖がないまぜになり、うまく言葉にならない。


「だからこそ、あんたを守る必要がある」


「シャーリーさん、俺たちには勝算がある。 準備も証拠も、あとは動くだけだ」


 それでもシャーリーは、かぶりを振った。


「駄目よ。 お願い、もうこれ以上、あなたたちを危険な目に合わせられない……! リラは……あの子はもう、私のすべてなの。 これ以上、誰かを失いたくないのよ!」


 強い口調の奥に、どうしようもない母の不安がにじんでいた。 だが、その言葉を、隼人が静かに遮った。


「シャーリー、これを見てくれ」


 隼人は懐から、ちいさな巾着袋を取り出した。 中で、数枚の銅貨がからん、と小さな音を立てた。


「……これはリラちゃんがくれた。 自分のおこづかいだって言ってな。 俺を、“用心棒として雇う”って」


「……!」


「俺はもう、正式に雇われた身だ。 なら、最後までやり遂げる。 それが、俺の“誓い”だ」


 シャーリーは目を伏せ、唇を噛んだ。 もう、何も言えない。


「……シャーリー様」


 ラーナことナヤナが静かに、言葉を紡ぐ。


「どうか、お願いです。 私たちはただ旅人などではない。 ……あなたに救われた命、ここで何もせず去るわけにはいきません」


 少女のような声色には、凛とした芯の強さがあった。


「リラちゃんは、私に大切な言葉をくれました。 ──また遊びに来てね、と。 ……あの言葉は、未来に繋がる約束です。 だから、必ず守らねばなりません」


「ラーナさん……」


 シャーリーは、ぎゅっと手を握った。 震えていた指先が、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻す。


「それに」


 カレンが手を腰に当て、にかっと笑った。


「私たち、こう見えてプロの用心棒よ? “ちょっとばかし腕の立つ素人”とはわけが違うんだから」


 その軽口に、シャーリーの頬がわずかに緩んだ。


「……リラの……あの子の未来を……守ってくれるの?」


「ああ。絶対に」


 隼人の声は静かで、そして何より力強かった。


 ──そして数刻後。 シャーリーは意を決し、娘リラを抱き寄せるとこう言った。


「……わかったわ。 私とリラは、隣村へ向かう。 でも……絶対に、無茶だけはしないで。 あなたたちが無事に戻ってくるのを……待ってるから」


 その目には、もはや迷いはなかった。


「了解。 約束する」


 隼人は右手を掲げて応えた。 月明かりの下、その掌はしっかりと未来を掴もうとしていた。


 * * *


 翌日の正午、静かな農場に、ふたたび馬の蹄の音が響く。 農場に現れたのは、保安騎士グラフト・ビレクと、その手勢十数名。 見習い騎士、傭兵、そして魔法使いらしき男たち。 いずれも前回の襲撃者を上回る装備で現れた。


「へぇ……用心棒さんが、俺たちを呼びつけたって?」


 グラフトが、意地悪そうに笑いながら前に出る。 隼人は一歩も引かず、その場に立ちはだかる。


「この農場の用心棒、“カイト”だ。 お前らの悪事、ぜんぶ記録してある。 証拠も押さえてる。 火事、殺し、偽造書類……名前付きで全部な」


 グラフトの顔が引きつる。 カレンが、録音魔符をひょいと掲げる。


「アンタのイカれた演説、みーんなバッチリ入ってるわよ。 どう? 自分で聞いてみる?」


「てめえら……!」


 グラフトが怒りに任せて剣を抜いた。


「消せ! 皆殺しだ!」


 その瞬間、隼人の剣がすらりと抜かれた。 銀の刃に、陽光が反射し凛と煌く。 ナヤナが杖を構え、瞳を開く。


『隼人……いきます』


 カレンが鞭を巻き取り、挑発するように言い放った。


「──あんたら、相手が悪かったわね」


 決戦の幕が、いま──静かに開かれた。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

もし「面白い!」と思っていただけたら、評価(☆)をぽちっと押していただけると励みになります。

星は何個でも構いません!(むしろ盛ってもらえると作者が元気になります)


そしてよろしければ、ブックマーク登録もお願いします。

更新時に通知が届くので、続きもすぐ追えます!


今後の展開にもどうぞご期待ください。

感想も大歓迎です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ