第20話 新たな転生者《グロウズ=オメガ》
王都の南端、禁域と呼ばれる森の奥深く
──そこにひっそりと佇む壮麗な屋敷があった。
外観は静かだが、地下深くには国家の闇そのものとも言える
魔導研究施設が広がっている。
ヴァルター・グランディア。
現王国宰相にして、魔球星における最上級の魔導師。
かつて世界を震撼させた“先代の転生者”を祖父に持つその男は、
今、祖父の遺産を使い、新たなる次元の扉を開こうとしていた。
「……ふ、ようやく辿り着いたか」
白銀の魔術服に身を包み、栗色の長髪を背に流したヴァルターは、
薄く笑みを浮かべながら、地下施設中央に設置された
巨大な魔法陣を見下ろしていた。
そこには、“封印”と刻まれた七重の魔法障壁が展開されていた。
その奥、真紅の紋章を中心に据えた「扉」が、
今まさに再起動しようとしていた。
かつて異界から転移された二人──
風間隼人、ナヤナ・ラーティ。
彼らの召喚は、実はヴァルターが実験的に試みた召喚実験だった。
「第一段階は成功だ。 人間を呼び寄せることは可能……だが、それでは甘い」
ヴァルターが真に求めていたのは、“兵器”だった。
完全なる制御下にある破壊の化身。
力と恐怖の象徴として、世界を統一する“究極の支配装置”──。
その答えは、さらに外側の次元にあった。
魔球星でも地球星でも聖球星でもない、第三の世界。
ヴァルターはその世界を、仮に《破球星》と名付けた。
──そこに存在する異質な存在。
人類の理すら通じない、マナそのものを捕食する怪物。
魑魅魍魎が跋扈する、常識の外側にある地獄。
そして、ついに──その扉が開いた。
ヴァルターの詠唱に応じ、異界の神が名を叫ぶ。
《──呼応せよ。 応えよ。 破球の災厄よ──》
時空の歪みが空間に皹を刻み、ゲートの中央に影が現れた。
全身を黒い粘膜のような物質で覆い、目も口もなく、
ただ“喰う”ためだけに存在する巨躯の異形。
その名は──
《グロウズ=オメガ》
マナを喰い、存在を侵す終焉の使徒。
その躰から発せられる瘴気は、空間そのものを蝕んでいた。
ヴァルターはすかさず魔法陣の外周に展開された棺の封印を発動させる。
ナヤナの聖球技術を応用した“異次元の棺”が、グロウズ=オメガを包み込む。
「……ようこそ。我が覇道の礎となるべきものよ」
グロウズ=オメガは静かに棺の中に収まった。
それでもなお、棺の周囲の空間は、僅かに歪んでいた。
「ふ……素晴らしい。 これで、すべての“力”が揃う」
ヴァルターは高位の支配魔法を発動し、グロウズ=オメガを制御下に置いた。
だが、内心の警戒は怠らない。
これは“契約”ではなく、“封印”に過ぎないのだから。
「自由都市同盟の一国を──まずは試しに沈めようか。
軍事施設を数カ所、魔力網を断ち、混乱を招く……見せしめには充分だ」
ヴァルターの瞳には狂気と高揚、そして理性が宿っていた。
この男にとって“支配”とは、“正義”であり、“祖父の悲願”の継承であった。
「グロウズ=オメガ……お前は我が剣。我が意志の下に、すべてを蹂躙せよ」
そして今──宰相の野望は静かに、だが確実に世界を覆い始めていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
今回ついに登場した、宰相ヴァルターによる「第三の転生者」──
名を《グロウズ=オメガ》。
その名が示す通り、「終わり」を意味する存在です。
異世界×転生×陰謀という本作の根幹を成す要素が、
いよいよ「災厄の兵器」として動き出しました。
ナヤナや隼人とは違い、自らの意思すら奪われた存在が
“転生兵器”として召喚される世界……
果たして彼/彼女の運命は、敵か? 味方か? それとも──
次なる舞台、「自由都市」では、彼を巡る勢力の思惑が交錯していくことになります。
読者の皆さまには、今後の展開をぜひ楽しみにしていただきたいです!
【『無宿編』完結のご挨拶】
「零の誓い・無宿編」、ここに完結です。
隼人たちが国家の追っ手から逃れ、仲間を増やし、
出会いと別れを重ねながら旅する──
この“逃亡編”は、ただのサバイバルではなく、
彼らが「信念を貫く物語」でもありました。
農場での出会いと正義の行使、
紅の猟犬との死闘、
そしてザラという少女に託した“自由の選択”。
彼らが誰かのために剣を振るい、引き金を引き、
守るために進み続けた20話でした。
そして最後に明かされた新たな転生者、グロウズ=オメガ。
“無宿”としての旅路は終わり、次はいよいよ“自由”の意味が問われる舞台へ──
続く「自由都市編」も、ますます加速する人間ドラマと戦闘、
そして転生者たちの過去と未来を巡る因果にご期待ください!
読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました!
感想や応援が、作者にとって何よりの活力です。
次章でも、隼人たちの“誓い”をぜひ見届けてください!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
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