第17話 王国騎士団動く
王都の騎士団本部、重厚な扉の奥。
そこには、王国でも屈指の実力者がいた。
ライラ・バイエラルライン、28歳。
軍事貴族の名門に生まれ、剣も魔法も一流と評される騎士団長。
栗色の長い髪を後ろで結び、凛とした顔立ちに鋭い目を宿す長身の女性だった。
その姿は、威厳と洗練された戦闘者の風格を兼ね備えていた。
彼女の隣には、同じく長身の青年が立つ。
ユーグ・モンフォール、25歳。
茶色の髪に穏やかな表情をたたえた、冷静な副官。
下級貴族の出ながら、その優れた知略と判断力で副官にまで登りつめた男である。
参謀として、常にライラの側に立ち、戦術面を支えている。
──ふたりは、公にはしていないが恋仲。
ライラは30歳になったら現役を退き、
彼と共に静かな人生を送ることを密かに決めていた。
王都の騎士団本部、重厚な扉の奥──
ライラ騎士団長は眉間にしわを寄せ、報告書に目を通していた。
「辺境の村で保安騎士の不祥事……か。 胸糞悪いな」
副官のユーグが静かに補足する。
「保安官はすでに捕縛されていますが、問題は“誰がやったか”です。
犯人の詳細は不明。 ただ、現場の証言を集めた結果──」
「……何か、手がかりが?」
「はい。 手配書の三人組に酷似した特徴が複数、報告されています」
ライラの眉がぴくりと動く。
「例の……宰相直轄の案件か」
ユーグは頷く。
「転生者である可能性は伏せられていますが、
魔球星の常識では説明のつかない行動が多々あります」
ライラは腕を組み、重々しく呟いた。
「魔法工房の爆破はともかく、悪徳保安官の討伐か
──それを“重犯罪者”とするか。 ……ふざけた話だ」
「宰相からは、最大級の警戒と“確保もしくは抹殺”の指示が出ています」
「重犯罪者が正義を貫いてるように見える。
これは、現場で確かめるしかないな」
ライラは立ち上がり、剣を腰に下げた。
「動ける騎士を手配しろ。 私自ら現場に向かう。 足取りを洗い出す」
副官──ユーグ・モンフォールが一歩進み出た。
静かな声で、けれど確かな意思を込めて言葉を投げかける。
「出動の件は了解した ただ……団長。いや、ライラ。
少し落ち着いてくれ。 君らしくないぞ。
その怒気、周囲の空気を固くする。部下たちも息が詰まってる」
一瞬、ライラの眉がわずかに動いた。
「……すまん、ユーグ。ありがとう。頼りにしてる」
ユーグは微笑んだ。だが、その瞳は鋭く光る。
「まあ、君が剣を抜くときは、俺が背中を守る。 でも、無理はするなよ。」
「ふふ……余計なお世話だ」
「それと、宰相の動きも気になる。 俺の方で、内偵を進めていいか?」
「ああ。そちらも頼む。……一緒に真実を暴こう」
二人の視線が交わる。
それは、騎士団長と副官という以上に、
信頼と絆で結ばれた“戦友”の目だった。
***
──そして、数日後。
捕らえた猟犬と山賊を連れて先の町に到着した隊商。
そこには、王国騎士団の捜索部隊が展開していた。
その指揮を執っていたのは、ライラ騎士団長本人だった。
野営地での休息中、ジョセは騎士団へ山賊を引き渡す。
「え? 騎士団長……ライラ殿が直々に……?」
ジョセは息を呑む。
「まさか、カイトたちの……」
ライラがジョセに歩み寄る。
「君たち、この手配書の三人組を見なかったか?」
ジョセはすぐに首を振る。
「……見ていません」
「そうか。 このあたりの隊商に紛れたという情報が入っているが……」
ジョセは冷静に応対しつつ、内心では警戒を強めていた。
彼女の指示で、既にかん口令が敷かれていたため、
騎士団は有効な情報を得られなかった。
(……今は、黙っておくべきだ)
ライラはしばらく考え込み、そして騎士団の出発命令を口にしかけたそのとき──
「騎士団長、実は少し気になることがありまして」
ジョセが静かに口を開いた。
「なんだ?」
「以前、北方近くの町で、ある三人組がこの紹介状を持って訪れました。
内容は……確か、付近の農場主の推薦でした」
ライラが受け取り、紹介状とともに人物の特徴を聞き出す。
その描写は──まさしく、隼人たち。
「人手は間に合ってたんで採用は見送りました。 そうそう、
彼らは北へ向かうと言っていました」
「北か……」
ユーグが地図を広げながら言う。
「断定はできませんが、捜査を進める価値はあるでしょう」
「よし。 次はその北の町を目指す。
農場で何があったのかも、もう一度しっかり調べるぞ」
こうして──王国騎士団は、ジョセの撒いた煙幕にまんまと乗せられ、
誤った進路を進み始めるのだった。
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