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7.見えた真実

 ラリとディアが宇宙ステーション『セレクシオン』へと戻ってきた。

 小型宇宙船の中でも保護した少女の様子を伺っていたが、彼女はそのまま目覚めず眠り続けたままである。

 昏睡しているわけではなく、肩の力が抜けて眠っているだけのようだった。

 ひとまずはと、医療班へと少女を引き渡す。

 その際、ディアが自分のIDが搭載されたデバイスを預けていた。おそらくは、上層へ『隠ぺいするなよ』という無言の圧なのだろう。


「……はい、わかりました。今からそちらに向かいます」


 ラリは廊下の隅で耳に装着している通信機へと返事をしているところだった。

 おそらくは、上司からの呼び出しだろう。

 ディアはその様子を見て、自らも一歩を進んだ。


「一緒じゃなくてもいいのに」

「いや、俺も言いたいことがあるしな。それに俺たちは、バディだろ?」

「……あぁ、うん。そうだね……」


 言葉こそ拒絶に近いものだったが、ディアがそう言ってくれることは素直に嬉しかった。

 いつもはひとりで報告に行き、いつも通りの注意を受けて、それらを適当にやり過ごしてから自由の身となる。だが、今回は明確なルール違反を行っているために助言がどうしても必要なのだ。


 ――そうして二人は、報告のために上司のいる棟へと向かった。



  ◆


 

「……君たちの今回の任務内容は、既にデータで確認している」

「規則を破ったことに関しては、俺の独断です」

「ディア……」

「ほぅ。ラリ君と組んでそんなこと言ってくれるのは君が初めてだよ、ディア君。――なに、今回の件では君たちを叱るわけではない。だから肩の力を抜きたまえ」


 上司はそんなことを言いながら、部屋の奥に設置してあるモニターを起動する。

 そうして二人に視線を促し、画面へと電子指示棒を立てながら説明を始めた。


「……まず、君たちが踏み込んだ『遺跡』だが……」

「!」

「っ」


 映し出された映像に、ラリもディアも息を飲んだ。

 自分たちの行動が反映されているのかと思っていたが、これは過去のものだ。

 例の研究室と思わしき部屋に壊れていないバイオポッド。そうして数人の、白衣を着た研究者たち。

 静止画の次は録画された映像であったが、ノイズが酷くそれだけで時間が経過していることが良く分かる。

 映像の中の人物の一人が、こちらに気づいたかのようにして歩み寄ってきた。そうして乱暴にカメラに手を置き、『勝手に撮るな』と言っている。


『しかし、これは本部命令で……』

『……だからと言って、真面目にやる必要はない。君も見たくはないのか、これから起こる奇跡を』

『あの……』

『怯えることはない。君はある意味、強運の持ち主とも言える……この奇跡の『礎』になれるのだからな?』


 画面の中の研究員が、口角を上げたように思えた。表情は見えなかったが、白衣にコスモスレコンの腕章が付けられているのでかつての研究員であったことだけは分かる。

 だが――。


 ――パンッ!


 何かが弾ける音がした。

 最初は銃声かと思ったが、そうではないらしく――映像はそこで激しく乱れて、後は砂嵐となった。

 その際に、悲痛な声だげが残っていた。


『たすけて……』


「…………」

「…………」


 ラリもディアも、顔をしかめた。

 おそらくだが、カメラを操作していたエージェントが、犠牲になったのだろう。


「あの研究員は……もしかすると『Z』ですか?」


 ラリが顔を上げて上司へと問う。

 すると上司の男は苦い表情を浮かべながらも、『そうだ』と返してきた。


「……君とは入れ違いしていたかと思ったが」

「直接は会ったことはないです。だけど……とある研究データが申請の際に却下されたという記事を読んだことがあります」

「遺物と生命体の共生論、だったか……」


 ステーションに戻る前、ラリが話していたなとディアも思い出していた。

 ディア自身はこの件は初耳であったが、本部所属のエリート研究員が追放されたというニュースは全宇宙のネットワークに流されていただけに、知ってはいる。


(支部所属の俺には無関係な話だとは思っていたが……あれがこんなところに繋がってるなんてな)


 『Z』というのは、通称名なのだろうか。

 ラリも上司もそれだけで通じているのは、余程の問題を起こした人物なのだろう。


「……ラリ、Zってのは……」

「俺も正式な名前は知らない。だけど……彼は倫理に反した研究を行っていた第一人者だよ。さっきのカメラマンみたいに、ヒトを研究材料に使ってた」

「――優秀な人材ではあったんだがね。何分、妄信する癖が抜けずに……自らタブーへと触れてしまったんだよ」

「それで……俺たちは、マズいものを発見してしまったということですね」

「ふむ。その点なのだが……君たちには、特別任務を与えたいと考えている」


 上司がモニターの映像を消してから、二人へと再び視線を投げてきた。

 『お咎めなし』という代わりに、面倒ごとを押し付けられてしまうのかとラリは直感で思ってしまった。

 要するに、この件を公にすることは当面は出来ないのだろう。


「取り合えずは、任務内容を聞かせてもらえませんか。ラリは良いとして……俺はこちらに赴任してきたばかりのいわば『新人』ですよ」

「ストライカーの異名を持つ君が新人と言うとは。……私はこれでも君の功績を買っている。だからこそ、君とラリ君が適任だと判断したのだ」

「その異名は、俺が軍人であった頃のモノです。出来ればもう忘れてください」


 ――ディアマンテのストライカー。


 そんな風に呼ばれた時代もあった。

 現場をよく読み、的確な指示を出し、攻撃を仕掛ける。軍隊でもエリートだけに付けられる称号のようなものでもある。

 だがしかし、ディア自身はその称号を好ましくは受け止めていないようだ。


「……特別任務は、『Z』の動向を追ってほしい。表向きは通常任務として行動し、調査と回収も続けてくれ」

「ということは……『Z』がまた何か? 彼は追放されたんですよね?」

「死んでるわけじゃないってことですか。どこかの星で、何らかの暗躍をしてると」

「そういうことだ。君たちが先ほどの任務にあたっている間に、『Z』からの挑発的なアクセスがあったのだ」


 上司の告げる言葉が、重いような気がした。

 それでも、ここで関わってしまった以上は断ることが出来ないのであろう。

 ラリもディアも、同じように思案して諦めることを選択したようだ。


「……それと、今回俺たちが回収し……いえ、保護した少女ですが」

「そちらについても、君たち預かりとしておくように手配済みだ」

「わかりました。とりあえずは一旦……ディアと二人だけで相談させてください」

「うむ。ではこれにて解散としよう」


 上司がそう言うと、二人はそろって頭を下げてから部屋を出た。

 重厚なスライドドアが背中で閉まるのを確認してから、廊下を数歩だけ進む。


「……お前は断ると思ってたぞ」

「どうにも出来ない状況だったでしょ。……たぶん、これを断るとあの子も上層に連れていかれちゃうだろうし」

「それはそうだろうな。……まぁ、何にせよこのバディ関係は暫く続くってことだ。これからも宜しく頼むぜ」

「……、そうだね。その……よろしく」


 相談とは言ったものの、すでに二人の気持ちには答えが出ている。

 それをお互いに確認しあったラリとディアは、頷きとともに軽い握手を交わして、特別棟を後にした。

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