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フラグメント・エコーズ ~心を繋ぐ銀河の旋律~  作者: 星豆さとる
第二章 共鳴の彼方

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10.思わぬ再会

 静かな待機スペースに、カツン、と靴音が響く。

 時間にして、任務開始の三十分前であった。

 ラリ=アークとディア=ナイトは、遺物調査任務のためにこの数日行動を共にしている少女アメリアとともに、出発の準備を整えているところでだった。


「うん……この周波数、さっきより強くなってる……やっぱり今回の目的の遺物、すぐ近くにあるよ」


 アメリアが手のひらサイズの測定器をのぞき込み、眉をひそめる。

 彼女はラリとディアの任務に同行するようになってまだ間もないが、その『聴く力』によって、すでにチームにとって欠かせない存在となっていた。電子機器の扱いもあっという間に憶えてしまい、手元にある計測器も彼女の希望で特別に作られたものであった。

 出会った頃は腰まで伸びた乱れた髪に、ボロボロのシャツ姿で痛々しさもあった。だが今は、肩にかかるくらいまで綺麗に整えられた髪と、身体に合ったフィットスーツ姿でそこにいる。

 小さな横顔に残るあどけなさと、澄んだアメジスト色の瞳の少女は、ほんの少しずつ『未来』を手にしているのだ。


「じゃあ、予定通り、このまま現地へ向かう?」

「そうだな。妙な動きがないか気をつけろ。最近は遺物の反応が多すぎる」


 ラリとディアが短く言葉を交わしていると、不意にドアが勢いよく開いた。


「――ディアさん! お久しぶりです!」


 ――元気すぎる声が室内に響いた。

 ラリとアメリアが、同時に顔を上げる。

 そこに立っていたのは、貴族風に仕立てられた制服を着た若い男だった。赤い髪をハーフアップにまとめ、胸元には研修員バッジ。そんな彼は、どこか舞台俳優のような自信に満ちた微笑を浮かべていた。


「……悪い、誰だ?」


 ディアがほんのわずかに首をかしげて、赤毛の青年へとそんな声をかける。悪気はなく、本当に記憶には無いらしい。

 「えっ……」と、男は一瞬フリーズするも、すぐに笑顔に戻り口を開いた。


「あの、覚えていないかもしれませんが、数年前――あなたが軍属の頃、命を助けていただいた者です。ルビオン=ヴァルディスと申します!」


 律儀に頭を下げるその動きに、ディアはわずかに目を細めた。

 表情を見るに、歓迎される過去ではないのだろう。

 

「……ああ」


 ディアが思い出したのは、血と硝煙の匂いが充満していたあの戦場。

 あのとき、自分は確かにこの少年――いや、少年だった『誰か』を救った。だが、彼には『それだけ』でもあった。

 胸の奥に疼く違和感を、ディアは無理やり押し殺すようにしながら、浅い溜息だけを漏らす。


「…………」

 

 ラリはラリで、こちらも静かに溜息をついていた。彼の直感が告げているのか、静かな嵐が舞い込んできたと心で思っているようだ。

 ラリの近くに歩み寄ったアメリアは、突然現れた見ず知らずの男に、やはり警戒している。


「本日より、こちらの任務に研修員として同行させていただくことになりました!」

「え……?」

 

 胸を張ってそう言い切ったルビオンに、室内の空気が張り詰める。

 ラリとディアは通常任務の裏側で特殊任務を続行しているために、これ以上の増員は無いはずなのだ。


「……聞いてないが?」

 

 ディアが眉をひそめてそう言うと、ラリも隣の端末を操作して上への確認を開始する。


「このチームに、他の誰かが加わるなんて……」

 

 アメリアの呟きは静かに空気に溶けていった。彼女はラリの背後に立ち、彼のジャケットの端を掴みながら、じとっとした目でルビオンを見上げる。

 しかし、そんな空気をものともせず、ルビオンはにこやかに続けた。少なくとも、アメリアには興味がなさそうだ。


「ご安心ください、絶対に足は引っ張りません。少しでもディアさんの助けになれたらと……!」

 

 彼はそう言いつつ、ちらりとラリを見た。その視線はまるで、『僕はあなたとは違う』と言いたげだ。

 ラリはその視線を受け止めることもなく、淡々と端末を閉じた。


「……俺たちのチームに、新人が来る話なんて本当に出てなかったのか?」

「少なくとも、俺は何も聞いてないし、上司も知らないって。おそらく、もっと上の判断……もしくは、お貴族様の特権ってやつかも」

 

 ディアがやや渋い表情を浮かべながらラリへと言葉を告げると、ラリも小さくそう答えを返す。どちらにしても、あまり歓迎したくはない出会いだと感じた。

 そこへ、ルビオンが元気よく一歩前に出る。

 

「今の任務、遺物の探索ですよね? 僕は炎を扱いますが、この炎の粒は周囲のエネルギー反応を可視化するためのもので、索敵に特化しています!」

 

 黒の革手袋をはずし、掌に小さな火の粒を生み出してみせる。炎と言えば攻撃系をイメージしがちだが、ルビオンのそれはまた別の用途で使用するらしい。

 炎は美しく揺らめいて確かに力の片鱗を感じさせるが、同時に『未熟さ』も否応なく露呈していた。


「……能力を見せびらかすより、まずは報告と連携を学んだら?」

「っ、」

 

 ラリの言葉に、ルビオンの顔がわずかに引きつる。

 思わず出てしまった本音は、対象には強く刺さったようでもあった。


「なるほど……ですが、僕は僕なりに、ディアさんの役に立つつもりです。――あなたよりもね」

 

 ラリに向けて、わざとらしく意味深な笑みを浮かべる。

 ディアはそれには何も言わず、ふっと目を逸らした。その表情には、懐かしさでも嫌悪でもない、ただ純粋に『忘れたかった記憶』を前にした人間特有の無言が宿っていた。


「…………」

 

 なんとなくの空気を読んだ少女――アメリアが、背伸びをしてラリへとちいさく耳打ちした。


「……ねぇ、ラリ。このままだと、ディアを取られちゃうよ?」


 その言葉を受けたラリは、一瞬だけ瞠目してから彼女へと視線をやった。

 何を意図しているのかは、この段階では判断できなかったようだ。

 

「……何、言ってるの、アメリア?」


 アメリアはいたずらっぽく微笑んだが、すぐに黙り込んでラリの袖を再びぎゅっと握った。

 まるで、そこにいる証を確かめるように。

 ラリは戸惑いながらも、その小さな手の温もりだけは、袖越しにしっかりと感じていた。

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