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悪役令嬢の息子とヒロインの娘  作者: 野々村 影羽


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影の王家

 演目はコメディだった。

高貴な女人が婚約を解消され、けれどそんな彼女を支え続けた王子に求婚される。

馬鹿馬鹿しい程に大袈裟に喜劇を演じて笑いを誘う裏で、婚約を解消した男と彼を誑かしたという女は、2人で手を取りあって去っていく。


『このような騒ぎを起こした王太子は、いくら兄上の子といえど廃嫡とせねばならぬ!』

『いいえ、陛下。それだけでは足りませぬ。王家の血を引く方が軽々しく契約や言葉を翻してはならぬと、その身を持って理解していただかなくては。あの娘の男爵家に婿入りさせて差し上げましょう。ちょうどあの娘は跡取り娘ですわ』

『それはいい! しかし王族が婿入りするならば、本来伯爵家以上でなくてはならぬし……』

『それならば伯爵家へと陞爵して差し上げましょう! 北の果て、王家でも管理しきれぬ、広大ながらも不毛の地。あそこを元の領地に足せば充分に伯爵としての条件は整うでしょう!』

『おぉそうか! あの金食い虫の土地と邪魔な甥を同時に片付けるとは、流石は淑女の鑑ぞ! そうだ、貴殿をコケにした咎も償わせなければな。何か望みはあるだろうか?』

『それでは、アフォンソ殿下の【カストゥラ伯爵位】を剥奪して頂きたく存じますわ。それで殿下は血筋以外何も持たぬ身。男爵家、いえ伯爵家でどのような生活を送る事になるのか……楽しみでございます。陛下にはその執行をお願いいたしますわ』

『な、なんと!』

『あら陛下。どうかいたしまして?』

『ベレンガリア嬢! カストゥラ伯爵位など存在しない!』

『まぁそんな! しかしわたくし聞きましたわ! 確かに殿下がカストゥラ伯と呼ばれるのを!』

『その通りだ! アフォンソは【カストゥラ伯】! あれはこの国の爵位ではなく、聖王猊下より授けられし君主号! アフォンソの母から受け継ぎしもの! 私にはそれを剥奪する権限など有りはしない!』

『まぁなんてこと!』

『あぁなんてこと!』


 どっと笑いが起きる。

『カストゥラ伯爵位事件』

かつては一部の貴族だけが知る事件だったが、今では平民達の間では常識と言っていい。

その一端はこの劇だろう。

平民向けの劇なので、王立貴族学園世代の若い貴族はどうか知らないが。

淑女の鑑と言われた女人のあり得ない失敗談は、笑い話としてまたたく間に広がった。

そんな事が合っても王子は女人を支え続け、やがて2人は結婚する。


 けれどその後、男が様々な小さな失敗をした後に、王子がそれよりも大きな失敗をする事を繰り返す。

まるで子供にするように目の前で失敗する男と、にも関わらず更に大きな被害を出す王子。

それは女と女人の間でも起きていて、けれどこちらは女人は失敗を繰り返さずに大きな成果を出した。

少しずつ王子も失敗が減っていき、やがて残るのは男と女が失敗を繰り返してばかりだと囁く貴族の噂話。

そこでもやはり笑いが起こる。

見る目のない奴らだと笑う彼らは、平民向けだから貴族の役にしているだけで、彼ら自身もかつては同じ事を言っていた事を覚えているのだろうか。


 やがて女人が子を産むと、待っていたように女も子を成した。

女人は男児を、女は女児を産む。

女人は栄華を極めながら更に続けて男児と女児を産み、女は醜聞に塗れながら女児ばかりを3人産み落とす。

その頃である。

1人の少女が女人に耳打ちをした途端、女人が金切り声を上げた。

『北の果てとカストゥラ伯領が栄えてるですって!? あの女の子供が王族の瞳を持っているですって!? わたくしの子よりも優秀ですって!? なんてこと!』

踊り狂いながら歌い叫ぶ女人に、やはり笑いが満ちる。

右腕の中でドゥルセが身を固くしたのがわかった。


 淑女の鑑と呼ばれた女人は鬼女となり、子供たちを厳しく育てるが、女人から見て優秀と言えるのは末の女児だけ。

女児では王位は告げないし、それでも聞こえてくる女の子供の優秀さには届かない。

とうとう公務でも大きな失敗をして死傷者を出してしまう始末。

それでもしきりに次の子供をねだる愛妻に王子が困惑し、けれども応えて男児が産まれたのは、女が7人目の子を宿した時だった。

しかも出産の際に女人は子を望めなくなる。

それから女人は上の子供達の事は諦めて、末の子に全てを費やす事になる。

それに対して王は王子に女人との婚姻の無効を迫る。


『何故ですか父上!』

『あのような失態を演じた者を王家に置いておけぬ。それに彼女は元々公爵令嬢。お前を立太子させるならせめて他国の王女を妻に迎えなければ!』

『いいえ父上、私は彼女と共にいます!』

『ならぬ! それに長男と次男の婚約者に貴族令嬢を据えたそうではないか。王にならぬのならそれもおかしくはないが、跡継ぎを決めるのは王の役目。それを侵すは王子妃といえど許せるものではない!』

『ならば私が許しましょう! 父上、王位をお退きください! そもそも父上は王太子が成人するまでの中継ぎの身!』

『【王太子アフォンソ】が成人するまでのだ! 既にその人物はいない! 余は真の王だ!』

『退位していただこう!』

『立太子させぬぞ!』

『中継ぎの王が何を言う!』

『太子でもない王子が何を言う!』


 場面変わって女と男。

全ての領地は栄え、領民は笑いあう。

使用人達が明るく仕事をする屋敷の中、ついに末に男児を産んだ女は、けれども姉たちの事を愛おしげに抱きしめながら愛する夫とキスをする。

『王子殿下と王子妃殿下は大丈夫だろうか』

『大丈夫ですよ。私達が支えているのですから』

幸せな家族の笑い声と共に、幕は降りた。

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