雪の花、少女の独白
目撃したことが、
ずうっと焼き付いて離れない。
母のしたこと、父のしたこと。
何も 外に漏れないまま、
いつもの日常に戻っている。
この薄ら暗い不気味さを、
私は小学生のころから背負ってきた。
桜が咲いても 何も思わない。
夏が来ても 暑くない。
秋が来ても 嬉しくない。
冬になったら いつもの街。
長い冬に 積もる雪が
私の国の 日常だ。
雪の積もった晩に
家に着くまでの階段を一人で上がる。
赤い灯籠が無数に続いて
私を照らす。
亡くなった弟のこと、
誰にも口に出してはいない。
家族の間でも 話題にあがることはない。
冬の夜 手が震えて 息をかける。
少しだけ 暖かくなる。
このまま、何もなかったことになるのかな。
何も なかったことに するのかな。
一人いなくなっても
日常は変わらなかった。
雪の降る 空を見上げる。
他人事みたいに冷たい雪。
残酷に積もって お墓も見えなくなる。
悲しいよ。
寂しいよ。
あまり関わることができなかった弟だけれど、
ほんとは ただ 一緒に遊んでみたかった。
許されなかった。
古いしきたり。
1階の母の部屋の窓が見える。
丸い窓に、縦格子がかかっている。
中の灯が ぼんやり見える。
私は鼻水が出て、もう家に入らなきゃと思った。
どこに行っていたのか?母に聞かれるかな。
一度も笑顔を見せたことがない母は
規律に厳しく 優しさはない。
感情を捨てた母は
だからこそ この大きな一族の当主をしている。
小さな白い 冬鳥が鳴いて
長い夜の始まりを告げる。
いつか その お母様の
笑顔を泪を 見てみたい。
私はこの 長い歴史に罪を重ね続けた
一族と共に生きる。
家に入って、自分の部屋に行って、
暖炉をつける。
あたたかい灯りに マフラーが緩む。
いつか いつか
すべてが ほどかれていくといい。
隠し事 犯した罪
すべて 解放して 自由になれ。
死が、雪が、弟に積もっていく。
父母は すべて 雪に埋もれさせていく。
そっと咲く 毒の花は お墓の横に寄り添っている。
「私がいつか あなたを幸せにする」
「長く閉ざされた冬を 終わらせたいから」
「どうか 見守っていてほしい」
「きっと父母は変わらないだろうけど」
「あなたの死を 無駄にしないから」
「だからあなたも 春を 待っていてね。」
毒の花は 静かに 揺らいだ気がした。