何の進展もみられない思考
まあでも情報が足りないとなると、やっぱり情報を増やさないとだよな。
俺は窓から二列目の一番前の席を見た。
安藤美月 出席番号2番
出席番号1番の俺の席は本来なら窓際の一番前。だけど本来ならこの席だった前田咲さんの視力の問題で席を交換した。それがまさか、こんな因縁をつけられる原因になるとは…。
やっぱり安藤さんに話を聞くか。
安藤さんが姿勢よく授業を聞いている後ろ姿を見つつ、俺はちょっと意外な気持ちでいた。
まさか安藤さんに彼氏がいるとはな…。
安藤さんはクールというか、いつも淡々としてて優等生って感じ。話しかければ普通に話してくれるけど、用件のみで軽口言ってるのとか聞いたことがない。きれいな子だけど落ち着いた感じで…それがあのチャラい感じの森くんと付き合ってるとか、ちょっと信じ難い。安藤さんが森くんといちゃついてるところが全然想像出来ない。
…なんか想像しようとすると、安藤さんが森くんに付き纏われてるようなイメージになってしまう。
「…」
いや、うん。人の恋路には踏む込まない。それは置いておく。
少なくとも安藤さんなら森くんに付き纏われたら、冷たくあしらうと思うから大丈夫。と思う。
少しだけクラスメイトが心配になったけれど、ただのクラスメイトが別れた方がいいんじゃない?とか言うわけにもいかないし、そこまで関わりたくもない。
とりあえず安藤さんに事情を聞いてみるか。俺よりは詳しく分かるだろう。安藤さんと話すなとか言われたわけじゃないし良いよな?…仮に話すなと言われたとしても、言われた通りにする義理があるかは知らんけど。
えーと、安藤さんの彼氏に因縁つけられたんだけどとか?
…感じ悪いな。
森くんが話してたことについて聞きたいんだけど、とかかな?
…待てよ?そういえば安藤さんって、森くんと付き合ってること隠してたりするのかな?友達は知ってるのかもしれないけど俺知らなかったし、こういうの他の人がいるところでは聞かない方がいいのかもな。どこかに呼び出して聞いた方がいいか?まあ俺も冤罪話を他の人にあんまり聞かれるのも嫌だし。
どこで話を聞くのがいいかな。…中庭はちょっと嫌だし。
昨日の森くんとの会話が頭をよぎる。『美月ちゃんは俺んだから』
…アレって…
内容の正否はともかくとして、つまりアレ、俺は森くんに牽制されたんだよな。それって俺が安藤さんのこと好きだと思われてるみたいじゃないか?…それってまさか安藤さんもそう思っていたりするとかないよな?
「…」
…だったら、ちょっと安藤さん呼び出しづらい…。
別に安藤さんのことが好きなわけじゃないから…とか、どこのツンデレだってなるよな!?
うっ…ちょっと話しかけにくくなってきた…。
えーと、じゃあ、人がいるとこでも当たり障りない範囲だと、何て言えばいい?
あ、LINE聞いて…ダメだろ。手紙とか?渡すの?人前で?むしろ誤解される。
でもなあ、気になるし説明してくれそうなのは安藤さんしか…。あ、文芸部!文芸部に聞いたらなんか分かるかもな?
あー、文芸部員ってうちのクラスにもいたかな?文芸部の部室ってどこだっけ?
進展したようで、何の進展もみられない思考に再び沈みそうになっていたところで、チャイムが午前の授業の終わりを告げた。
昼飯は教室で食べる生徒が大半。どこかに食べに行くのもちらほら。
俺は、ちらっと安藤さんに目を向けた。だけど流石に今話しかける気にはなれない。
あー、考え込む前に勢いで聞いとくべきだった。朝、話しかけられればよかったのに。
…まあ寝坊したから無理だったんだけど。
とりあえずタイミングを見計ろう。俺は昼飯を食べるべく、鞄から弁当を取り出した。弁当を机の上に置く。いつも通りに弁当を食べようと思った。だけど…
「…」
俺は弁当を手に取った。立ち上がると教室の外へと向かう。
話しかけてきたクラスメイトに、ちょっとな、と曖昧に応えて廊下へ出る。
なんというか…ちょっとだけ…席で弁当を食べる気分にはなれなかったんだ。